海。




一度だけ一緒に歩いたことのある場所。



でも俺、まだ一度も見てないんだよな。



そう思うと少し、いや、かなり不思議に感じる。




なぁ、蓮。


お前、今何やってんだ?










――――――――――――――――白い部屋に、蒼い空が写る。
        
                               まる で海の底にいるかのようだ。












――Two wishes and hope――











ようやくたどり着いたOREジャーナルの扉を、秋山はよろめく身体で押し開きよろめく足で一歩社内に踏み込んだ。

「どなた?」

そして、また不思議なことが起こった。
あれほど頭を戒めていた頭痛が、会社のドアを一歩またいだだけで何の後遺症も残さずに一瞬にして消えてしまったのだ。

(どういうことだ・・・?)

この中は何か仕掛けでもあるのだろうか?
いや、それならここが正常で今まで居た歪んだ街自体がおかしかったのではないだろうか?

「あのぉ、どなたですか?」

秋山は意識をはっきりと覚醒すべく、軽く頭を2,3度左右に振り、不審な顔つきでこちらを見ている女性社員へ顔を向けた。

「すまない。ここに、城戸真司というやつは居ないか?」

暫くほっとかれてしまった女性社員は、口を開いた秋山を酷く訝しげに見上げた。

「城戸・・・と、いう苗字の人なら確かにうちの社員に居ますが・・・・」
「・・・どういうことだ?真司という人間は居ないのか?」

秋山がさらに相手に食って掛かると奥の席で様子を見ていた編集長大久保がやってきて、女性社員を後ろに引かせた。

「まず、あんたは誰だ?人に物を聞くときは、自分がまず名乗る。常識だ」

女性社員は大久保の後ろに隠れるような形になり、面と向かう大久保は秋山を見上げもう一度言った。

「名前を教えろ」
「秋山だ。秋山蓮」
「・・・・・アキヤマレンと・・・」

胸ポケットから取り出した手帳にカタカナでアキヤマレンと書き、再びそれを胸ポケットにしまった。

「悪いが、あんたが会いたがっている人物はここには居ない」
「何?ここに居ない?」
「ああ。誰から聞いたか知らないがここには居ない。それにだ・・・アイツに会うならその前に会ってもらわなきゃいけない人物がいる」

大久保は、未だ後ろにいた女性社員に何事か頼み、女性社員は一つ頷いて近くのデスクにある電話へと手を伸ばし、どこかに掛け始めた。
その様子を見やった大久保は再び秋山を見上げる形で視線を合わせた。

「城戸はどこだ?」
「言ったはずだ。ここには居ない」
「どこにいると言ってるんだ!!」
「落ち着けよ・・・ったく。アイツに会う前にあってもらわなきゃいけないやつが居るんだって!!」
「ならそいつに早く会わせろ!!」
「だから、今そいつを呼んでやってんだろうが!!!少しは落ち着け!!」

大久保が怒鳴り返したところで、女性社員も電話の話しを終えたらしく、大久保に「あと、10分ぐらいで戻る」と、伝えた。

「あいよ。あと、10分だそうだ」
「・・・ッチ」
「おーい、令子。お客さんに茶を入れてやってくれ」
「分かりました」

奥の方のデスクに座っていた、―― 秋山の記憶にも残る人物――桃井令子はチェックをしていた書類をデスクの上に置いて、 社員が自由に飲めるように置かれてあるサーバーのコーヒーを注ぎ始めた。

「ほら、あんたは其処に座ってろ」

そう言われ、渋々言われた席―― 空いているデスク用チェア――に腰をかけ、桃井から手渡されたコーヒーを小さく会釈をし受け取った。
それを飲む秋山を見て、大久保は「よし」と呟くと再び自分の席へと戻っていき、桃井も自分のデスクへ戻り先ほどの仕事の続きをし始めた。
そして、そのまま15分ほど経過し、






「編集長。戻りました」

扉が開き、入ってきたのは柔らかな色合いのTシャツにジーンズ。
茶色で少し長めの髪。
思わず、秋山は立ち上がり、

「城戸!!」

そういって、その人物の肩に手をかけた。


「え・・・?」


驚いた顔で振り向いたのは、やはり城戸だった。

「城戸!!忘れたか!?俺だ!!秋山蓮だ!!」
「・・・・・・」

しかし、その人物は秋山をただただ、見上げるだけだった。

「・・・・・秋・・・山・・・・」


「そうだ。城戸、俺だ」


秋山は未だ、こちらを見上げてくるだけの相手に痺れを切らし、ここから連れ出しアトリまで引っ張っていこうとした時、 大久保が2人の横に来て、秋山の目の前にいる相手の肩に手を置いた。




「で、リュウガ。コイツは合わせる相手なのか?それとも違うのか?」



大久保は、秋山の目の前にいる、城戸へ―――リュウガへとそう話しかけたのだった。













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