――Two wishes and hope――
「ねえ、蓮」
秋山の様態も落ち着き、カンザキが運んできた紅茶をテーブルに座り飲んでいた。
「?」
「OREジャーナルの場所覚えてる?」
「・・・・確か、東京都××区××××3丁目9番地○△ビル・・・・・」
以前の時間の中で、城戸から渡された名刺に書かれていた住所を思い出しながら言う。
「××ビルの前にあったか・・・・?」
少し霞む記憶を何とか引っ張り上げ思い出す。
その秋山の様子に、確認を取るように小さく頷くユイ。
「うん。住所はあってるし、場所もあってる」
「秋山なら、大丈夫じゃないかユイ・・・?」
「だと、いいんだけど・・・」
「OREジャーナルがどうかしたのか?」
「うん・・・・・」
「辿りつけない?」
少女が語った説明を聞いて、飲んでいた紅茶の手が止まり、秋山は少し驚きをもって、返した。
少女は一口飲んだ紅茶の器を受け皿に戻しながら、再び頷いた。
「そうなの。こうやってアトリでなら場所も住所も思い出せるし、地図を見てもOREジャーナルの場所を確認できるの。でも・・・・・」
「どうしても、そこに行こうと近くまで行くと、道が分からなくなるんだ」
少女の兄も、何故なのか、どうしてなのかわからない、と秋山につげ、
椅子から立ち上がると近くの棚から地図を引っ張り出しテーブルにその地図を広げ指で場所を指した。
「ここが、アトリ。そして、ここが城戸真司が勤務しているOREジャーナル」
地図にはアトリ、そしてOREジャーナルの場所、その他にも東、高、北、芝、などといった字が10記されていた。
其処を指で辿りながら、
「俺達は、かなり前から記憶を取り戻していた。ユイにいたっては俺よりも早く・・・。
そして、俺達はこの世界で他のライダーがきちんと生きているのか、確認できるだけ確認しようと探していたんだ」
そういいながら、東條、高見沢、北岡、芝浦・・・・と、それぞれの漢字の上を指で辿った。
「秋山、お前はここだ」
そういわれて、改めて地図を見ると、今住んでいるマンションの箇所に“秋”と記されていた。
「だが、城戸が見つからない」
「どうしても、どこを探しても、真司君にたどり着けないの・・・」
その兄弟の言葉に、秋山は城戸への不安を心に積もらせた。
「でも、蓮だったら・・・蓮だったらたどり着けるかもしれない・・・・」
「根拠は無いが、お前なら・・・と、お前が記憶を取り戻してここを訪ねてくれるのを俺達は待っていたんだ・・・」
少女とその兄の言葉に、秋山は頷かず静かに、ただ静かに地図を見つめていた。
車と人が行きかう街中。
ビルが立ち並び、今が春であることを忘れさせるような熱気と湿気を感じていた。
あの兄妹と話した次の日、秋山は、記憶を頼りにOREジャーナルまでの道を比較的ゆっくりとバイクで進んでいた。
まだ、きちんと地図を把握できている。
ユイが言うには、会社の半径100m程に近づくと、OREジャーナルが目的でなくても迷ってしまうのだという。
まだ、圏外にいるが用心に越したことは無い。
赤信号で止まり、きちんと折りたたまれた地図をいれた上着のポケットを、上から軽くたたき、青へと変わった信号をみて、再び走り出した。
そして、問題の100mへと踏み込んだ瞬間。
「ッ!?」
歪んだ・・・・ように見えた。
一瞬だが、ぐにゃ・・・・と、ゆら・・・・・と、まるで蜃気楼を表していたかのように歪んだのだ。
だが、それは直ぐに収まった。
しかし、
「・・・どこ・・・だ?」
信号が変わり暫く走っていたのは覚えているし、それまで見ていた景色にはなんら不可思議な箇所は見られなかった。
しかし、今ここにあるのはどうだ?
先ほどまでとはまったく違うように見える。
同じようなビルが立ち並んでは居るが、車道、歩道、陸橋、道と言う道が記憶にあるものとはまったく違っている。
道路工事でも行われていたか?
ふと、そんな馬鹿げた考えが浮かぶが、そうじゃないと、直ぐに考えを改めた。
そして、再びアクセルを切り、秋山は慎重に発進した。
・・・・おかしい。
その見慣れない道を走り始めて思った。
その道は記憶にある道と酷似しているにもかかわらず、まったく持って違うのだ。
まるで鏡合わせのように。
あべこべの様な、そうでないような、不思議な街並みになっていた。
違和感は無い。
きっと、先ほどの歪みを感じなければ、以前のこの道を知らなければ、なんら不思議には感じない。
そのまま走っていたのだが、暫くして秋山は愛車を止めた。
一応半径100mの中心ぐらいに来ているはずだ。
つまりはOREジャーナルの直ぐ傍。
しかし、いくら見回してもOREジャーナルどころか覚えているものさえない。
「どういうことなんだ・・・?」
今、自分はどこに居るのだというのだろうか?
不安になりつつ今現在の位置を確認すべく電柱を見上げた。
『××××3丁目9番地』
住所は合っている。
間違いなくこの付近にあるはずだ。
しかし、何故こんなにまでちがうのだろうか?
それに・・・
「落ち着かない・・・」
この辺り一帯・・・・いや、先ほどの歪みを感じた時点から、落ち着かない自分が居る。
何故とはいえないが、とにかく落ち着かないのだ。
まるで、ミラーワールドに居る時のような・・・・・
その時、視界にの隅に何かが走った気がした。
慌ててそちらを向くが、そこには何もない。
普通に歩く人々と、その向こうに大きなショーウィンドウのガラスがあるだけだった。
ミラーワールド、鏡のようなガラス・・・・
馬鹿な、と自分で自分を否定した。
もう、あの世界、時間は存在しない。
それは、ユイやカンザキシロウが証明してくれたではないか。
では、何故・・・・?
そう、深く考えていたら・・・・
――― キィイイイイィィン―――
あの頃、よく聴いた音が響き、
秋山はいきなり、響くような鈍い頭痛に苛まれた。
「・・・・ッ!!」
慌てて、愛車から降り、その場に膝を着く。
――― キィイイイイィィン―――
その音が響く元凶を確認しようと、いまだ酷い頭痛に苛まれる中、秋山は立ち上がり、歩き始めた。
そして、ふらつく足をなんとか誤魔化しながら20m程歩き、ふと大きな右折の道を見た。
そして、そこに・・・
「見つけた・・・」
とある雑居ビル。
そこの1Fに張り出してある案内に『OREジャーナル』と、捜し求めていた字が記されていたのだった。
ふらつく足を叱咤し、目的の場所へと歩き出す。
未だ響く甲高い金属音。
容赦なく襲う酷い頭痛。
しかも、目的の場所へと近づけば近づくほど、それはさらに強くなる。
秋山は、この音と痛みこそが正解だと言っているように感じていた。
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