< 2 >





アトリでの取材を無事に終え、城戸は好意でお茶を貰っていた。
もう閉店の時刻で、城戸の会社での予定は直帰である。

「あ、これ美味しい!」
「でしょぉ?それ、初めて出したやつなんだから」

どうやらこれからの目玉商品として、本日入荷したばっからしい紅茶に城戸は慌ててメモ帳を取り出した。

「これ、何て言う種類なんですか?」
「それは言えないねぇ」
「えぇ〜!!」

不満げに声を上げる城戸に店主であるサナコは笑いながら言う。

「これはね、アトリ・オリジナルブレンドなの。だから、名前が無いのよ。だから言えないの」
「あ、成る程」

教えたくないのではなく、教える名前が無いのだ。

「そうだ、真ちゃん」
「え?」

気に入ったオリジナルブレンドをまた一口。

「これの名前、考えてくれない?」
「お・俺がっすか!?」
「そ。3人で考えて欲しいのよ」
「え・・・?三人って・・・」

店主は部屋の中を見渡す。
そこには、こちらを見ている少女と黒い服の青年の姿が。

「この新しいお茶の、名付け親役お願いね。若者達」





「ん〜・・・・・」
「良い名前って浮かばないものなんだね・・・・」
「・・・・・」

城戸とユイと秋山は円形テーブルに座り、先ほどから新茶の名前を考えている。
だがしかし、これといった名前が浮かんでこないのだ。
名前を考えるため、そのブレンドを先ほどから何度も飲み続けているため、今はもう3人とも水っ腹状態である。
そんな中、

“ぽっぽー。ぽっぽー。ぽっぽー。ぽっぽー。ぽっぽー。ぽっぽー。”

店内にある鳩時計が午後6時を告げる。

「あ、もうこんな時間」

ユイが顔を上げ時計を見やる。
それにつられ2人も顔を上げた。

「城戸」
「ん?」
「今日は夕飯を食っていけ」

時はもう直ぐ、夕飯を食すに適した時間。
秋山はこれを機に城戸を夕飯に誘った。

「あ、そうだよ!真司君!!一緒に食べていきなよ」

少女もそれは名案と言わんばかりに秋山の案に乗ってきた。

「そうしたいのは・・・山々何だけど・・・・」

少々申し訳なさそうな城戸の表情。
その顔に秋山は嫌な予感を感じた。
それは初めて会った時の1回めを除いてから、ほぼ毎日感じるものだ。
もう、其処まできてしまったら予感より確信といってもいいかもしれない。

「兄貴達と一緒に夕飯食う予定なんだよ・・・・」

その言葉に少女は残念そうに「そっかぁ」と言うだけ。
しかし、秋山は・・・・



「お前は週に何度兄弟と夕飯食うつもりだ!?」

キレた。







実はこの秋山。城戸に初めて会った日、早々に城戸を夕飯に誘ったのだ。
勿論、相手に好意をもってのことだ。
初めてあった時に、秋山は何故か城戸の傍に居たいという気持ちが行き成り沸いた。
きっと恋なのだろう。そうどこかでその感情を理解していた。
まさか自分にそんな感情を作る神経がまだ残っていたとは驚いた。しかし、城戸を想う感情は次から次へと沸いてくるのだ、
これを恋と呼ばずに何と呼ぶ。
そして、夕飯に誘い一緒に食べたのだ。(城戸には密かな自分の想いは告げていない)
因みにアトリではなく、ちょっとこ洒落た近くのレストランで、である。
それから、城戸は日を空けることなくアトリに通うようになった。
そして、それと比例するように秋山は城戸を夕飯に誘った。それがだめなら休日は遊びにも誘った。
しかし、何故だか最初の1回を境に、事あるごと断られたのだ。
その理由が『兄達と一緒に夕飯を食べる』である。
夕飯の他にも、遊びに行ったり、買い物に行ったり・・・・etc。
とにかく理由は全て『兄達と』である。
勿論城戸の事情も知っている。
最初に夕飯を一緒に食べた時に城戸達4人兄弟の出生についてと、今までの生活について粗方の説明を聞いた。
15年ぶりの再会と言うのも勿論分かっている。
15年ぶりだから、それまでの時間を埋めようとする兄達の気持ちも分からなくもない。
だがしかし。
されどしかし。
最初に誘ってから早1週間と6日目。
詰まりはかれこれ13日間。
ことごとく断られ続ければ、それはそれで切れるというもの。
秋山に怒鳴られた城戸は萎縮するように肩をすぼめる。

「し・仕方ないだろ!秀兄が皆でご飯食べようって朝早くに連絡してきて、もうOK出しちまったんだから!!先約を優先するのは常識だろう!?」

それは確かに当たり前である。

「しかし物には限度があるぞ!!」
「だ・・・だってぇ!!」



城戸真司の兄、長男・北岡秀一は新聞やニュースでもよく名前を聞く有名な弁護士である。
次に、次男の浅倉威。ユイはあまり知らなかったのだが、その世界では名の売れた優秀な探偵である。
そして、三男の手塚海之。これは少女もよく噂を聞いて知っている巷でとても有名な占い師だ。

秋山が城戸に初めてあった日、秋山はきっと城戸に恋をしたのだろうと少女は考える。
だから、城戸が初めて来た日、珍しく城戸を夕飯に誘ったのだと思う。
いや、思うじゃなくて、そうなのだ。
少女の知る秋山はケチで意地悪で金に煩くて好き嫌いが多くて性格に大問題があって・・・・である。
自分や幼友達の小川恵理を除けば、人に優しい秋山など見たことも聞いたことも無い。
それが城戸だけに特別と言うことは、つまりそういうことなのだと少女は確信していた。
だから、秋山が城戸を頻繁に誘うのはよく分かる。
自分と相手の仲をもっと深めていく。これぞ恋愛の第一歩である。
しかし、秋山は考えたことは無いのだろうか。
城戸の兄3人が集まった時の頭脳を。その計画性に飛んだ行動を。
そして聞いたことは無いのだろうか。
北岡や浅倉、そして手塚はインタビューの際に、『大事なものは?』と聞かれるとそろって、

『末弟』

と即答するのだと言うことを。
詰まりはその末弟である城戸をゲットしようとすれば、どんなことがあっても兄達は邪魔をしてくるのだということを。
少女の目の前ではまだ2人の言い争い(?)が続いている。

「俺にとって兄ちゃん達は大事なんだよ!!」
「そんなことは知ってるわ!!」
「だったらしょうがないってことも分かってんだろうが!!」
「俺が言ってるのは限度の問題だ!!」

どうやら少女が聞く限りだと、城戸の方も秋山に対して少しは申し訳ないといった感情をもっているらしい。

「だって・・・・・・・だって15年間も離れてたんだぞ!!!」
「っ!!?」

城戸の目から一滴の涙が零れた。

「そりゃ、いつも誘ってくれるお前には悪いって思ってるよ!!思ってっけど兄ちゃん達とも一緒に居たいんだよ!!!」

後は城戸の泣き落としである。

「き・城戸!!悪かった・・・だから泣くな・・・」
「泣いてなんか・・・・うぅ・・・」

どうでもいいがこの二人、今此処に自分も一緒に居ることをちゃんと理解しているのだろうか?と、ユイは思う。

「俺が言い過ぎた・・・だから、もう泣くな」
「・・・ごめ・・・俺も・・・言いすぎた・・・」
「お前が謝ることはない・・・」

少女の目から見ても、城戸の性格は思いっきり天然である。
だから、きっと自分が何をどう言うことによって、周り(特に秋山)にどんな影響を与えるのかわかっていないのだと思う。
そして秋山も城戸の言葉にとてつもなく流されやすいのだとこの頃分かった。
つまり、

城戸がとった言動に対して秋山の拒否権はなし。

であるからして、


結論

「この先、面白そう♪」

である。


カップに残っていた紅茶をぐいっと全て飲み干したユイは名前を考えていたノートを閉じ文具類を片付け、さっさとティーカップを片付けた。
今は城戸を泣き止まそうとする秋山に城戸が泣きながら逆切れ状態で文句を言っている。
はてさて、秋山の思いに城戸が気づくのは――そして、その思いに答えてくれるのは――いったいいつになることやら。










戻る
TOP




************************************************************************

・秋山から城戸を守る手段。
先ずは次男の浅倉が秋山の身の回り、一日のスケジュール等に関して、調べ まくる。
んで、次に三男の手塚が占いで秋山の行動を占う。
最後に次男と三男が持ってきたデーター全てを見て、長男北岡が秋山から城戸を離す算段を考える。
きっと秋山の入り込むスペースは米粒ほども無いのだと思われます・・・(笑)










カウンター