大きな罪を犯してから次の日の朝。
秋山は、なんら変わることのない朝を迎えた。
石壁を切り抜いて作った窓からは、さんさんとした明るい朝日が差し込んでくる。
どうやら少し寝過したようだ。
昨夜は少し興奮していたためか、寝つきが悪かった。
秋山は寝床を出ると、ひとつ大きな伸びをして、固まった筋を伸ばす。
「ッ・・・!」
瞬間、右肘辺りに走った痛覚。
腕をあげ、其処を見やると、何かで引っ掻いたような少し深めの傷ができていた。
「あの時・・・か?」
昨日、森の中で会った森の民を助けた時、一緒に転んだあの時に負った傷だろうか?
あれ以外に、何処かに強くぶつけたり擦った覚えはないので、たぶんその時だと思われる。
そう言えば、あの男・・・城戸真司と言ったか。
集落で言われていた話とは全く違った森の民。
まぁ、森の民が城戸真司のような輩ばかりではないだろうが、その森の民の中で育ったのであろうあの男が、あんなのんびりな奴なのであれば、
多分森の民全体的に、それほど恐怖の対象とするほどでもないのではないだろうか?
そう考えていると、外から名前を呼ばれたことに気づき、流木を何本か使って作った扉を開く。
「誰だ?」
「誰だじゃないだろ?」
ばたん。
直ぐ閉めた。
「って、おい!!なんちゃら山!!」
「うるさい。俺は秋山だ」
「じゃぁそのあっきゃーま!!」
「変な発音するな!!」
思わず扉を開けると、そこにはしたり顔で佇む北岡が立っていた。
「昨日は随分と遅いお帰りのようだったなぁ?」
この補佐役はどうにも気に食わない。
気に食わないが、こいつ意外に補佐役には出来ないし、なれない。
代々長と補佐は血筋で決められる。
推薦や話し合いではなく、この二役だけは必ず血筋なのだ。
それについて疑問に思ったこともあった。
自分よりもっと優れた統率者はいると、推薦してはどうかと意見したこともあったが、
補佐の北岡は首を横に振るだけだった。
『これは昔からの決まりだ』
そんな古臭い決めごとなんぞしったことか。
何度となくやめようとしたが、意外なことに民からの反発があがり、秋山は未だこの地位に納まっている。
「なんだ、朝っぱらからお説教でもしにきたのか?随分暇なんだな」
「あのな〜・・・」
北岡がため息をついた。
「何かあったのか?」
「無かったら来ない」
溜息を着いた北岡は首をしゃくって着いてこいとしめした。
秋山は怪訝な顔をするものの、北岡に付いていく。
「何があったんだ?」
「昨日の夜中なんだがな・・・」
昨夜遅くの事。
民の若い輩が数人集まり境界線である崖を登ると言った事件があった。
境界線である辺りの林には近づくことを禁じられているのは勿論知っていてのことだ。
まぁ、若さの衝動と言ってしまえばそれまでだし、結局は体力もなくあまり登れず直ぐにあきらめたらしい。
「まぁ、あんな崖を登るやつは海の民集めても一人か二人だろうさ」
北岡の後ろを着いて歩く秋山は、なんだか言いよれぬ不安にと少しばかりの罪悪感に襲われていた。
その一人か二人の中に俺は入ったな・・・。
昨日崖を登り、森へと入り、なおかつ森の民と接触した秋山。
「んで、お前さんには一応長としてそいつ等を叱ってほしいわけだ」
「一つ聞いていいか?」
「何さ?」
「どうしてそいつ等はばれたんだ?」
今の話を聞く限りだとそのまま大人しく帰ればバレなかったと思うのだが。
秋山の質問に「あぁ」と頷いた北岡。
「そいつ等の中でちょいと上まで登ったやつが居てな」
といっても10m其処らだがと北岡は付け足した。
「で、そいつが体力の限界で地面に見事に落下。しかもちょいと打ち所が悪くてな」
「何だ?頭でも売ったのか?」
だとしたら確かに大変だが。
「あ・・いや、言いなおす。うちどころじゃなくて、落ちどころが悪かったんだ」
「落ちどころ?」
というと、誰かの上に落ちたのか?
「そうゆーこと。んで・・・ここから厄介で」
落ちたやつと、下敷きになったやつ。
そのままお互い自分の家へと帰り、大人しくしていれば良かったんだが、運が悪いことに下敷きにされた方はこれまた足を骨折してしまった。
流石に一人で帰ることもできず、仲間に担ぎ込まれた自宅にて、親にもばれ小さな冒険が大きな厄介事となってしまったのだった。
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