持ってきた板で屋根を修復後、手塚の家に向かった城戸。
思いの外、修復に手間取り少し遅くに手塚の家へ訪ねた。
「城戸、待っていたぞ」
「真司、遅いぞ」
「ごめんごめん!」
思いのほか手間取ったと告げ、すでに出来上がっている食卓に着く。
自然木を使った一枚板のテーブル。
形としては三角形に近いので、お互い顔を見ながらの着席となる。
本日の夕飯。
キノコを牛乳のシチューに入れ、手塚宅で作られたパン。
木の実をたくさん練り込んであるため、食感が何ともいえず、である。
それから城戸が森で採ってきた赤い実をデザートに。
一通り食べ終え、3人で食後に紅茶を飲んでいると、静寂の中に鳥と虫の鳴き声が静かに響いた。
「静かだよねー」
「そうだねー」
斎藤と城戸が椅子に凭れかかりだらーっと手を垂らす。
手塚は一人紅茶を飲んでいる。
「そうだ・・・なんか話を聞かせてよ、手塚君」
「ん?」
「あ、僕も聞きたい」
「・・・話か・・・」
手塚は補佐という役目からか、何故か色々な事に詳しい。
栄養価の高い木の実は勿論、薬草となる薬、毒となる植物。
その毒を使った特効薬の作り方。
それは昔話にもしかり。
「何か聞きたーい」
「何か聞きたーい」
まるで幼子のような二人の様子に、苦笑を浮かべ、持っていた紅茶のカップをテーブルに置いた。
「そうだな・・・・・それじゃぁずっと昔の話をしようか」
手塚は目を細め、何かを思い出すように天井を見上げた。
―――― この島が出来た古からの言い伝えがある。
この島にはある魔物が住み着いていた。
その魔物は、この島に暮らし始めた人々に死と病の恐怖をもたらした。
「暮らし始めた?」
話を折ってしまう形だったが、城戸はその箇所に酷く疑問を持った。
「この島が出来た当初から魔物がいたわけで、人はその後にどっからかやってきたってこと?」
「多分そーゆーことじゃないかな?」
斎藤の相槌。
「続きを話してもいいか?」
「うん」
「お願いします」
恐怖をもたらす魔物を人々は恐れ、どうにかしようと奮い立ち上がった。
そして、魔物をなんとか倒そうと人々は躍起となる。
しかし、魔物とて自分が消えていなくなるのを楽観的に見ていられるわけがなかった。
己に襲いかかる人間を、恐怖と不安に落としめ、高らかに笑う。
「いやーな魔物ー」
「まぁ、悪役だからねー」
悪役なのに人々を救ったらおかしいじゃん?
斎藤の言葉に城戸はむくれる。
「俺だったら、魔物だったとしても心の優しい魔物がいいー」
「真司らしいー」
斎藤が城戸の頭を撫でる。
幼いころから見てきた後景。
しかしそのうちに人々に変化が出始めたのだ。
「変化・・・?」
城戸の疑問符に、手塚は頷いて続きを語った。
襲われた人間の中から、その魔物の呪いによって同じ魔物と成り果てる者達が出始めた。
魔物と成り果てた者達は愛する者、親しかった者達へと襲いかかるようになってしまった。
「いや〜・・・・」
「俺もいやだー・・・」
魔物、といって二人の頭の中にはどんなイメージが浮かんでいるのだろうか
魔物と成り果てる姿をどう、想像したのだろうか、後で紙にでも描いてみてもらうか。
恐怖と不安、病や死。それらをもたらす魔物を人々はついにその封じ込めた。
二人の人間の胸の奥に眠らせたのだ。
呪われた約束とともに。
そうして島の人々は救われ、その後、森の民と海の民と別れて暮らすことになった。
「・・・・・・?」
「・・・なんか・・・」
「どうした二人とも?」
話し終えた手塚は二人の反応に声をかけた。
「なんか・・卑怯だよね」
「うん卑怯だ」
「二人だけに押し付けたって感じ」
「そうか?」
「「そう」」
見事に重なった声に小さく噴き出す手塚。
「それにさ」
城戸は続けて口を開く。
「何で二つの民に分かれたのさ?」
「さぁ」
「あ、それ僕も思った、ねぇ海之。最初から別れてなかったってことは、何か理由があるんだよね?」
「多分な」
俺は知らないとばかりに、手塚は冷めてしまった紅茶に再び口をつけた。
二人はいまだきゃいきゃいと今語った話に続きや付属なんぞを付け加えている。
確かに、この話にはあやふやな箇所が多すぎる。
どうして、魔物を倒さず、封じこめる形をとったのか。
魔物と化した人々はどうなったのか。
なぜ、2つの民はその後別れることになったのか。
―――――――――――――――――――― それを知っている手塚は、深い黒い眼を閉じて、冷たい紅茶を再びすすった。
こうなるなんて、んとに変な廻り合わせだよなー。
ああ・・・・手塚君が言ってた。
蓮。俺とお前って物語の主人公なんだぜ。
それってさ、すっげー事だと思わねー?
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