――Two wishes and hope――


















思わず走り出したその部屋には、リュウガと壁に掛けてある受話器越しに談笑していた城戸の姿があった。

「城戸・・・・・」

部屋の中にはこちらと同じ受話器を持って、ガラス越しに椅子へ座って話している城戸。
その姿に、ガラスから1mほど離れた位置で思わず止まると、今までリュウガを見ていたその視線が、ふと、こちらを見て、そして、

――――れ・・・ん。

声はガラスで遮られ聞こえはしないものの、城戸の唇が秋山の名前を形取った。
ガラスの向こうにいる城戸は慌ててリュウガを見やり、リュウガの苦笑する表情を見て、一瞬だけ悔しそうな顔をした。
知られたくなかったと、存外にその表情が語っていた。

「城戸!!」

残り1mの距離を大又で近寄り、城戸をこちらに向かせようと、強くガラスを叩き顔を近づける。
城戸は少し困ったような笑みを浮かべこちらを見上げると、自分が持っていた電話の受話器を蓮の前にかざした。

「秋山、病院を壊すな。真司とはこれで話せるから」

リュウガは秋山の行動に呆れた溜息をついて自分が持っていた受話器を差し出す。
秋山はそれをひったくるかのように手に取り、再び城戸、と呼んだ。
曇り空の下、車体に体を預け、蒼い上着を紅く染めていた時を最後に、今まで聞くことが出来なかったその声が、秋山の鼓膜に響いた。

『蓮・・・久しぶり』

先ほどの困ったような表情は消え、ただただ懐かしむような笑みと声。
秋山はその声に、無意識に受話器を強く握り締めていた。

「城戸・・・・」
『元気・・・だった?』
「ああ・・・・」
『ユイちゃんは?』

この男が来ているのだ。
多分・・・いや、絶対にあの少女も来ているのだろう。

「今、一緒に来ている」
『そっか・・・・』

嬉しそうに、どこか寂しそうに笑う城戸に秋山は、今この場で触れられないことにひどく歯がゆさを感じた。


「真司君」


少女は兄と共に秋山の後ろからやってきた。

『ユイちゃん。それにカンザキシロウ』

秋山は話しやすいよう、受話器をスピーカーフォンに設定し、窓枠へと立てかけた。

「何で・・・・なんで真司君が“それ”なの!?」

城戸の前まで来たユイは、城戸のことをキッと睨み、目に涙を溜めていた。

『・・・・』
『ユイちゃん・・・』

城戸の姿を見て叫んだ少女に、城戸は小さく名前を呼んだ。

「言ったじゃない!!半分こだって!!独り占めはだめだって!!真司君が言ったんじゃない!!!」

ユイは感情のまま声を荒げ、城戸を睨みながら、溜めていた涙を零した。
少女の涙に、秋山とカンザキシロウは慌てたが、城戸は悲しげな笑みを浮かべ小さく首を横に振った。

「約束・・・したじゃない・・・何で?何でなの・・・?何で私はこれだけしか取れていないの・・・?」

そう、動かない自分の脚に手をやる姿に城戸の声は、受話器のスピーカーから優しく響いた。

『ユイちゃん。ユイちゃんの取り分はそれでいいんだよ。俺が・・・・多くを望んじゃっただけなんだ・・・』

城戸は、大人しく話の流れを見ていたリュウガを見て、再び少女へと視線を戻した。
多くを望んでしまっただけ。だから泣かないで。

「どういうことなんだ城戸?」
「説明してくれないか?」
『蓮・・・・カンザキシロウ・・・』

二人の要望に応じて、城戸が口を開きかけると、



「懐かしい人物に会える、と占いに出ていたが、お前達のことだったか」



『手塚君』
「手塚だと?」

聞こえてきた声、城戸の言葉。
思わずそちらに振り返る秋山の視界には、

「元気だったか秋山。ユイちゃんにカンザキシロウ」

赤いジャケットを来た、記憶に懐かしい人物が、誰かは分からない2人の人物と共に立っていた。












戻る
















カウンター