――Two wishes and hope――
「ここだ」
そう言って着いた場所は、東京駅から割りと近く、建物の周りを緑で覆うように作られた綺麗な病院だった。
「ここに城戸が・・・?」
「ああ」
秋山が膨れ上がる不安を胸に、車から降りて歩き出す大久保達の後ろについて歩き出すと、
「蓮!!」
「秋山!!」
自動ドアを潜りエントランスに差し掛かったところで2人の兄弟が既に待っていた。
「・・・・ユイ・・・ちゃん、カンザキシロウ・・・」
「・・・・・リュウガ・・・・なんだね?」
「・・・ああ」
「まさかお前がいるとはな・・・」
それぞれに複雑な表情を浮かべ、対じする4人に、
「お〜い、さっさと真司んとこ行くぞお前等〜」
大久保は手続きを済ませ、4人に声をかけると、さっさと一人、廊下を歩き出していった。
「ねぇ、リュウガ」
「何?」
病室へ向かう間、ユイは横を歩くリュウガへと訪ねた。
電動車椅子からは、モーター音が静かに響く。
「真司君は・・・・」
「・・・大丈夫。ユイちゃんが考えるようなことにはなってないから・・・」
「本当・・・?」
不安げにこちらを見上げてくる少女に、少しだけ顔をかしめ、歩いている自分のつま先を見た。
「・・・・でも、割と近い状態ではあると思うけど・・・・」
「・・・・・そう」
秋山と、少女の兄は会話に参加せず、ただ後ろで静かに聴いていた。
「ここ・・・・・?」
ユイに始まり、ここに初めて訪ね来た人物は驚愕、訝しげ、三者三様の顔をしていた。
「ああ。真司はこの中にいる」
「あ〜・・・今日は天気良かったからあいつ今昼寝でもしてんじゃないか?」
大きな大きな一面のガラス。
高さは、自分達の腰から天井まで。
長さはざっと見ても10m近く。
はめ込み式のもので、開けられるような金具は無い。
その中に、これまた大きな白い乳白色のカーテンでさえぎられていた。
光で透けてカーテンの向こうに見えるのは、晴天の空を映し出しているのだろう薄っすらと青色に染まっている部屋とベッドをはじめとする家具の
影。
そして、入口だろうと思われる扉は、そのガラス窓の壁伝いの先に、重々しく備わっていた。
「城戸は・・・一体・・・・?」
その様子に改めて不安を顔に浮かべ呟いた秋山。
「まぁ、それはアイツとあって、直接聴いてくれ」
そういうと、リュウガは壁に備え付けてあった受話器を取り、
「おい、真司!!起きろ!!客が来たぞ!!」
受話器に向かって、やや大きめの声を発した。
暫く経ってから、
『りゅーがぁー・・・・・?』
城戸の寝ぼけた声が受話器越しに聞こえてきた。
「ああ、俺だ。さっさと起きろ。編集長達も来てっぞ?」
『へ・編集長!?』
受話器から聞こえてきた慌てた声の次に、
『どたん!ばさばさばさばさばさばさ・・・・・・』
何かが落ちた音と、大量の紙が落ちる音。
「・・・・・真司?」
リュウガが少々呆れた声で呼びかける後ろで、
「あ〜あ、落ちたなあいつ」
「まったく、真司君らしいですね」
大久保達は笑いながらその音を聴いていた。
『だ・・・大丈夫・・・・』
いててて、とぶつけたのだろう、痛がる声が聞こえてくる。
『ちょっと待って、今行くから』
そう聞こえると、受話器からは回線の切れる音が聞こえた。
「だ、そうなんで来るまで3分ほどかかっかな?」
「あ、おい君」
「何だ?」
大久保はリュウガに頷くと思い出したように秋山へと振り向いた。
「なんか、久々の再開みたいだけど、悪いが俺達が先に話しをさせてもらう」
「何だと!?」
「俺達の話は仕事だ。直ぐに済む」
「話しが終わったら直ぐに帰るから。それにまだ仕事残ってるし」
大久保の言葉に続いて令子の言葉を聴いて、秋山はユイとシロウを振り向いた。
秋山の視線に、仕方がないといった様子で頷く兄弟。
再び大久保へと振り返り、渋々頷いた。
「わかった・・・」
「あ、それから君たち隠れてくれないか?」
「?」
「きっと、久しぶりに見るあんた達に真司のやつ仕事どころじゃなくなると思うからな」
悪いな。と、大久保に軽く頭を下げられ、仕事の話なら仕方ないと秋山とユイ、シロウは少し離れた場所まで行くことにした。
城戸から見えない位置。
それは、秋山たちからも見えないということでもある。
先ほど、リュウガが使っていた受話器を今大久保が持って何か話している。
そして、その受話器からは時折聞こえてくる、懐かしい声。
今すぐにでも行きたい。
動き出してしまいそうな己の足を手で握り掴み秋山は衝動を押さえ込む。
そうして、窓越しに他の社員との話しも終えて、大久保はリュウガへと仕事用の資料が入った封筒を手渡し、それぞれが部屋の中にいる住人へと帰りの挨拶を交
わした。
「じゃあな、真司。また来るからな」
「じゃーねー真司君!」
「またねー!」
「仕事、頑張ってよね?」
大久保はそのまま秋山たちの横を通り、
「じゃ、久々の再開。楽しんできな」
その一言だけ告げて立ち止まることなく帰っていった。
秋山はいてもたってもいられず、大きな窓がある部屋へと廊下を走り始めた。
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