カウンター



――Two wishes and hope――










 ―――― 時間は巻き戻る。










夢を見た。


よく分からない、白のトレンチコートを着た男。
自分の待遇に酷く不満を持っていた俺。
知り合いに、金の良いバイトだと言われ、体よく押し付けられた駐車場の案内、整理。
大金持ってる癖に、俺にはなんの施しもしてくれない親。
全てが嫌で、そこから抜け出したくて必死だった。






ジリリリリ・・・・・


何か眠りを妨げる音。自然と、では無いが比較的あっさりと目が覚めた。

「うん・・・・」

目覚まし時計を止め、起き上がる。

「ふ・・・あぁ〜・・・何か、また変な夢見たな・・・これで何回目だぁ・・・?」

いつからか、何かきっかけがあったのか、忘れてしまったが・・・
あるときから決まっておかしな夢を見るようになった。
トレンチコートの男に、カードデッキを渡され、楽に生きたくば戦って勝ち残れと。
親に勘当され、不自由な暮らしにとてつもない不満を持っていた自分はそれに、一も二も無く飛びついた。
生き残るというのは、相手を倒すということ。
しかし、相手を倒すのだって面倒臭い自分。
すでにいる、他の連中に倒してもらい、最後の一人になろうと悪工みをした。
結局、最後は破滅するのだが・・・・

「何が、そんなに良いのかね・・・」

何が良いのか、親の七光に憧れる自分。
いや、七光というか、ただ単に楽して生きていきたい。ただ、それだけのようだ。


俺は佐野満。父親はとある会社の代表取締役である。


起きたら、布団そのままで洗面台に立ち、歯ブラシに歯磨き粉を着け、寝ぼけたまま歯を磨きだす。
六畳半のユニットバス着き木造築40年以上の古アパートに一人暮らしをしている。



「いくら何でも、ひど過ぎるな」

自業自得が、である。
結局何も上手くいかず、手の内に入ったと思った相手には手を翻され、戦い好きな狂った奴には大事なカードデッキを 壊されてしまい、変身が解ける。
そのため、夢の中の自分は鏡の世界から抜け出す方法を失い、婚約者に鏡越しで助けを求めながら泡のように体が崩れていく。
確かに悪さしまくりだったが、幾ら何でももうちょっとよさそうな自業自得は無いだろうか。
まぁ、自分で招いた結果を自業自得というのだから、これはこれで正しいのかもしれない。

「がらがらがら・・・・・・・っぺ」

歯磨きを終えて、吊るしてあった着替えを手に取りつつ、賞味期限が残りわずかな食パン(ワゴンセール品)を冷凍庫から1枚取り出し、電子レンジへ突っ込む。
電子レンジ、オーブントースターも完備の贅沢なマイハウスである。
ちなみに、粗大ごみの日に失敬し、知り合いの機械弄りが好きなヤツに直してもらった物である。

それがどうした。使えりゃ上等。

「さて、と・・・・」

パンが解凍されるまでに今日行く講義の荷物をまとめておく。
今日はまだ説明だけなので、筆記具とノートがあればいいだろう。

「ふわぁ〜・・・・・」

荷物をまとめ、いまだしゃっきりと覚めない頭のままあくびを一つ。

 ――― ッチン

レンジの小気味良い音が聞こえ、パンが解凍されたのを告げる。
レンジの扉を開き、温まったパンにジャムを塗りつけかじりつく。
口の中に甘味が広がる。
租借し、牛乳で一緒に胃の中に流し込む。

「もぐもぐもぐ・・・・・・んぐ」

租借し、流し込む作業をしばし続け。

「ご馳走様でした」

使った食器を洗い桶に突っ込み、洗剤を入れておく。

「さて・・・」

用意しておいた荷物を引っつかみ玄関へと足を向ける。






今年の4月から大学生をやっている。
今年の4月・・・というには、まだまだ日の浅い4月10日。
電車に乗って・・・・は、高くつくので高校時代からの愛車のペダルを力いっぱいこぐ。
ここから自転車で大学までは大体40分ほどだろうか。
清明大学、付属に院大もあったりする。

「今日は・・・ガイダンスだっけ・・・?」

入学してからしばらくは大学の説明、講義内容の説明、特に後者には1週間設けられるため、気分的には結構のんびりである。
大学構内にある駐輪場に自転車を止め、鍵をかける。

「まずはっと・・・」

どの講義を取るのか、最初に予定を立て、実際にその抗議の説明に出席し、最終決定を下す。
というのが基本で、時間割を自分で作っていくのである。
さて・・・

「昼は何食べようか・・・」

ぶらりぶらりと学食の方へ歩いていく。

「うわッ!?」
「ッ!?」

ホールの曲がり角で見事に誰かさんと打つかってしまった。

 ―― バサバサバサッ

散らばる書類の音。

「いてて・・・・て・・・、す、すんませんでした」
「・・・・・こっちこそ・・・・・」

手に触った書類を適当に、集めてぶつかった相手に渡そうと、初めて顔をげる・・・・・え?

「あ・・・・・」

相手も、こちらをみて目を見開いた。


何だ・・・、何処かで見た顔・・・
昨日?いや、もっと最近・・・
朝・・・?いや、それよりは前のような・・・・・



  ・・・・・夢・・・・?



夢!?



目の前にいたやつは、今朝がた夢の中で俺を殺そうと必殺技を繰り出した・・・

「あっあの・・・」

相手が何か言おうとしているが、一切耳に入らん。
召還した虎に似た化け物、そいつが獲物を力任せに引きずっていき・・・

ちらりと相手が着ていた白衣の左胸に視線をやると・・・

「とう・・・じょ・・う」

化け物が引きずっていく先には、鋭い爪を出して、今か今かと待ち構えるアイツ・・・




 ―― 東條!!






う・・うわぁあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!

折角集めた書類を再びばらまいて、佐野は走り逃げた。
残された男 ―― 東條は、ぽかんとしたあと、ひどく残念そうに溜息をつき、待ってというように上げていた右腕をゆっくり下ろした。






「・・・・・・・・佐野君」



ぽつりと、東條悟はつぶやいた。



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