――Two wishes and hope――
リノリウムの床。元々は白かったのだろう、茶色く汚れた壁。
所々に組み込まれている木造の柱がこの建物の古さを教えてくれる。
ガラスは所々にステンドガラスが入り込み、太陽の光にその美しさを反映させている。
そんな廊下を慌てふためく男が一人。
「大変・・・だ」
呟きながら走る男は、結構疲れているようで・・・・
べちゃ。
こけた。
「あいたた・・・・・」
こけて強打した膝頭を撫でる。
涙目になりながら、再び立ち上がり走り出す。
そしてたどり着いた扉の前。
木造の観音開きの扉。
少し重そうなその扉を押し開こうと手をかけ体重をかけ・・・・・・
と、いきなり扉が内から開いた。
「うわぁあ!!??」
「あ」
べちゃ・・・
本日2回目の転びである。
よくこける男のようだ。
「あいたー・・・・」
今度は顔面から強打したもよう。
「大丈夫?」
「東條ぉ〜・・・・・」
扉を内側から引いた男は、こけた男の横にしゃがみ声をかけるが、
「なんで、こうタイミング良くドアを開けるんだよー・・・」
「だって、佐野君の足音が聞こえたから」
だから開けたのだ、と。
その言葉に佐野と呼ばれた男は再び涙を一筋。
「嬉しいけど、できりゃー俺が開けようとしてる時はやめてくれよぉ〜・・・・」
「佐野君、前に扉が重いって言ってた」
だから開けたのだ、と。
「言ったけどさ!!」
「じゃぁ、今度から開けない」
「そうじゃなくて!!・・・・・ってあああ〜〜〜〜〜!!!!」
「どうしたの?」
何かをいきなり叫んだ佐野。
きょとんと見やる東條。
「そんなこと言ってる場合じゃないよ東條!!」
「だから、どうしたの?」
「俺たちの研究が大変なことになってるッ!!」
「?」
強い日差しが徐々に柔らかくなってきた。
ゴルトフェニックスがアトリに来店してから2週間程過ぎた、初秋の午前中。
煩かった蝉の声も少しずつ弱まり、夜ともなると鈴虫やコオロギといった虫の音が響き始める。
そんな中、北岡は自分のデスクに座って次の仕事用の資料をまとめていた。
使っているノートパソコンの横には分厚い本がたくさん積んであった。
「先生、少し休まれたらいかがですか・・・?」
「ありがとう」
淹れたてのコーヒーを持ってきてくれた由良に淡く笑い、キーを打っていた手を止めた。
そのまま、大きく伸びを一つ。
「ちょっとさ、まとめる量が多くてね」
「俺でよければ何でも手伝います」
「ありがとう。その時は頼むよ」
「はい!」
由良から受け取ったコーヒーに口をつけて、ほっと一息ついたとき。
Rururu....Rururu....
「ん?」
事務所の電話が鳴っているようだ。
「俺出ます」
トレーを持ったまま、由良は受話器を散りに行く。
飲んでいたコーヒーを小さなサイドテーブルに乗せ、再び作業を始めようとしていた北岡に・・・
「せ、先生!!」
「どうしたの!?」
大声で呼ばれ驚いた北岡。
由良にとっては珍しく取り乱しているようだった。
慌てて受話器を持っている由良がやってきた。
「さ、佐野と名乗る男からで・・・・」
「佐野だぁ〜!?」
佐野と言えば、仮面ライダーインペラーのか?
慌てて由良の持ってきた受話器を受け取った。
「つまり、貴方達の研究が横から掻っ攫われそうだ・・・と、いう事ですね?」
「は、はい・・・」
「そういうこと」
場所は清明大学のとある講義室。
「えっと・・・もう一度お名前をと年齢を確認させてもらいます」
「佐野 満 21歳 清明の3回生」
「東條 悟 25歳 院生」
此処までの経緯を語ると。
ライダーだった者に呼ばれたので、やっている仕事を放り投げ一先ず駆けつけたのが先程のこと。
この二人特に佐野はバカだったな―と思いだしたのがつい今しがた。
東條は殆ど知らないなー・・って言いますか、殆ど顔を合わせたこと無かったな・・・
確か仮面ライダーガイをやっていたはずだ。
結構両極端そうに見えるが・・・こいつら仲良かったのか?
その前に、こいつらは記憶はあるのだろうか?
いや、多分あるんだろう。
だから自分の事務所に電話が掛かってきたんだろうと、推測した北岡。
こいつらの研究は、物理学に基づくものらしく、まだ研究途中のため公やけに発表はしていない。
それをどこで聞きかじったのか、とあるグループが同じような研究をし始めたそうだ。
研究の仕方は、二人と同じ方法で。
しかも、それを公やけに発表しようとしているそうだ。
そうなれば、先陣を切っていた二人も慌てるのは当たり前だな・・・。
さて・・・・
どうしたものか、と北岡が考えていると、
「遅れてすいません」」
と、講義室に入ってきた一人の男。
教授の香川英行である。
「貴方が北岡弁護士ですね?」
「ええ、貴方は・・・・」
「この子たちの研究の監督者をしている香川英行と申します」
それはかつて、オルタナティブ・ゼロをやっていた男だ。
「他の二人はどうした?」
他の二人?
香川の言葉におや、と思った北岡。
「休みです」
「ちょっと用事で、今日は休むと言ってました」
東條と佐野の言葉にそうか、と頷く香川。
「普段は4人、でやってるんですか?」
「ええ、この二人ともう二人で役割分担をし、研究してるんですが」
まさか、こんなことになるとは・・・、と床を見つめる香川。
その同じ研究をしているグループとやらは、大学側に電話をかけて煽ってきたとのこと。
内容は至極簡単。
『この金額を用意します。今までの研究をまとめて、すべてこちらに渡してもらえないでしょうか?』
つまり、今後この研究には手をつけるなということだ。
「相手のグループは分かってるんですね?」
香川も今まで学生たちが頑張って研究してきた物をいきなり掻っ攫われる形となり、酷く怒っているようだ。
「ええ、高見沢グループです」
「高見沢・・・」
何かの巡り合わせだろうか・・・?
北岡は東條と佐野をちらりと見やった。
二人は不安そうにこちらを見て、北岡と視線が合い佐野は驚いたように肩が揺れた。
北岡が会ったことのあるライダーは、城戸、秋山、浅倉、芝浦。
そして、今回・・・東條、佐野、それに高見沢。一気に数が増えた。
「勿論のこと訴えようとしたんですが・・・」
「相手の弁護士に遣り込められたと・・・」
「お恥ずかしながら、法律の方は専門外でして・・・」
「成程・・・」
遣るべきことは纏まった。
それに・・・
「棚から牡丹餅・・・だな」
「え?」
「いえ、何でもありません。その仕事引き受けさせてもらいます。詳しい契約は後から書類を持ってきますのでその時にお話しします」
「分かりました。どうかよろしくお願いします。この子達の未来がかかってるんです」
「ええ」
立ち上がり荷物を持つ。
「ああ、そうだ」
「どうかしましたか?」
「すみませんが、一応参考のため、その二人からもお話を聞かせて貰ってよろしいですか?」
と、横に座ってい東條と佐野に視線をやった。
「?」
「ふへぅ!?」
首をかしげる東條と、異様な驚き方をする佐野。
その様子に、特に佐野の方は脈ありと踏んだ北岡だった。
予鈴が鳴り、次の講義があるからと、
「では、後はお願いします」
「はい、任せてください」
香川はそうして、部屋を出て行った。
残ったのは、北岡と東條、佐野の三人。
「さーて」
「あ、あのー・・・・」
「?」
声をかけられ、ゆっくりと佐野を見やる。
「何かな?佐野君」
業とらしく声をかけると・・・
「ご、ごめんなさいぃ〜〜〜!!!!」
椅子から転げ落ちるように床に頭を付いた佐野。
やっぱり、な。
北岡はそれだけで、にんまりと口角を上げた。
「お前、記憶あるな?」
「はい!!あの時は、本当にすみませんでした!!!!」
香川側に付いて、北岡達を攻撃し、実父が亡くなった後社長職を当てはめられ、その大金で北岡を買収しようとしたり。
結構あくどい事をやったのだ。
しかし、どれもこれも良い結果は生み出せなかったが。
「ま、とにかく座れ」
「・・・ハイ・・・」
未だ少し怯えている様子の佐野を椅子に座らせる。
東條をみやると、こちらを不思議そうに見ている。
「お前とは殆ど話さなかったよな・・・」
「うん」
「え、そうなの・・・・?」
佐野は、少し驚いたように二人を見やった。
「僕、途中で車に跳ねられて死んじゃったし・・・」
「・・・そう、か・・・」
淡々と語る東條に、佐野は何とも言えない表情で東條を見た。
「東條悟だったよな?」
「うん」
「お前、小さな記事だったけど自分が犠牲になって親子救ったって、“英雄”って新聞に載ってたよ」
その言葉に、少しきょとんとしていたが、
「そっか」
どこか嬉しそうに笑った東條だった。
「二人とも、記憶ははっきりあるんだな?」
改めて二人に問いかける。
「うん」
「俺もあります」
それを確認してから、
「お前らにちょっと聞きたい事があるんだけど、いいか?」
「?」
「何ですか?」
二人の研究内容を聞き、それをどう利用するのかも聞いてから北岡は部屋を出た。
駐車場に続く道を歩いていると、二人の男が反対側から慌てて走ってくるのが見える。
少し大柄な男と、足が速そうな二人だ。
「ちょっと待てって!」
「待ってられるかよ!!先に行くからな!!!」
さっさと行ってしまった足の早そうな男。見かけどおりだったらしい。
もう一人は、慌てたように先に行った男を追いかけ始めた。
何を急いでいるのかは知らないが、大変そうだ。
車に戻り、扉を開けて座席に座る。
世の中には共同研究というのもあるが、買占めようとする様子に高見沢らしいなと北岡は感じていた。
座席に深く腰をかけ、頭を預け、先程の東條達とのやり取りを思い出す。
『お前らは、この時間は正しいと思うか?』
最初に聞いた質問。
すると、二人は目を合わせ何とも言えない表情をした。
どうやら、この二人は粗方分かってるようだ。
『じゃあ、次の質問』
再びこちらを見た二人。
『この時間に誰か創設者的な奴がいるかどうか、知ってるか?』
その質問に、二人とも少し驚いたような表情をとる。
――― 知ってる。
北岡の中で勘が働いた。
『その答えの前に一ついいっすか・・?』
『何だ?』
『北岡さんは、そんなこと聞いて、どうしたいんすか?』
佐野の質問。
東條も頷いた。
『正直、俺たちは今が間違ってるっての知ってます。でも、今が壊れるようなことはしたくないんです』
『大事だから』
二人の言葉に少し間をおいてから・・・
『俺はね、下にいるのが嫌なの。知らないことは知りたいの。それだけだ』
対立とまではいかないが、答えの同意を得られない立場に立った北岡。
一先ずその場は、次の仕事の時間も迫っているため、退出した。
「さて・・・」
あの二人から何らかの情報を得るのは少し難しいようだ。
しかし、
「いるんだなー・・・この時間の創設者って」
それだけはあの二人の様子からはっきりとした。
さて・・・・
一先ず、今の掛かっている仕事を終わらせて、この仕事の契約書を作成。
この辺はいつものように由良に任せよう。
一先ず、いったん帰ってから、
「高見沢グループに出向くとしますか」
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