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――Two wishes and hope――






「佐野に逃げられたぁあ〜〜〜!?」

長閑な午後の学食。
利用者はあまりおらず、その声はフロアいっぱいに響いた。

「煩いよ・・・」

東條は心底嫌そうに、大声を発した人物に文句を言う。
返された男はあわてて辺りを見渡して、他の利用客に頭を下げた。

「だってさぁ〜・・・」
「・・・・僕の顔みて、逃げちゃったんだもん」
「もんじゃないっしょ・・・あ〜・・・ったくー・・・」

東條の言葉に深いため息を吐いた。
年の頃は東條と同じ程か。
その男は頭をガリガリと掻きむしると、再び溜め息を吐く。

「でも、東條の顔を見て逃げ出すなら、覚えてるって事か、やっぱ?」
「わからないけど、可能性は高い・・・かも」
「二人して、どうしたんだ?」

そんな二人の背後から声をかけた男。
ラグビー部所属と直ぐ解るのユニフォーム姿。
背は比較的高く、ガタイが大きい。
東條の隣にいた男は、そのラグビー部員のために椅子を一席引いてやり、ラグビー部員は礼をいいそこに腰を下ろした。

「佐野が居たんだと」
「佐野が?」
「しかも、東條の顔を見た途端、逃げ出したっつーおまけ付き」
「・・・途端じゃない・・・」
「そーゆーのは途端っつーの!」
「落ち着け。声がでかい」

ベシッ。

後頭部に平手打ちを喰らった声のでかい男は、叩かれたヶ所を両手で抑え、怨みがましくラグビー男を睨んだ。

「先輩に何すんだよッ!」
「うるさいよ鹿島(かしま)」
「何だよ東條ッ今のは大河(たいが)が悪いだろッ!!」

「そこの3人ッ!!騒ぐなら外に行きなさいッ!!」

食堂を利用していた教授に怒られた。




場所は変わり中庭に配置してあるテーブルに。
それぞれ適当に買った飲み物を持参。

「鹿島のせいで追い出された」
「俺のせいかよッ!?」
「直ぐ大声を上げる癖をどうにかしろ」

二人に注意と文句を言われ、ぶーたれる鹿島。

「佐野を見たんだったよな?」

大河の言葉に頷く東條。

「去年度までは居なかったはずだ」
「と、なると今年度の新入生か」

大河の言葉に合いの手を入れた鹿島は飲み物にストローを挿し一口飲み込む。

「そうなるな」
「逃げたんなら、やっぱ記憶があるんだよな・・・」
「はっきりじゃなくても断片的にかもしれないがな」
「佐野のやつ、城戸の事は知ってんのかな?」
「多分だが、知らないんじゃないか?」

城戸と神崎ユイが作ったこの世界の事を。

「・・・・かな」

そんな中、二人の会話にぽつりと東條は呟いた。

「ん?」
「何だ?」

二人が見ると、東條は再び口を開いた。

「佐野君は、僕を許してくれるかな・・・・・?」




前の時間。


尊敬していた教授が理想としていた英雄から離れてしまい、自分の手で殺害した。
その後、拠り所のない東條に佐野は食べ物と自分の部屋を提供した。

――――その事自体は東條を自分に着かせようとした、佐野の策略に寄るものだったのだが。


尊敬していた教授を自身の手で倒した東條は、『大事なモノを自分で倒せば強くなれる』という方程式が出来上がってしまっていた。
そのため、ライダーバトルの最中、佐野に「親友だから」と、攻撃を仕掛けたのだった。


結局、東條には殺されずに浅倉にデッキを壊され、変身が解けてしまった佐野は、ミラーワールドで粒子となって消滅をした。



「佐野君は僕を許してくれるかな・・・・・?」

あの時間に仕出かしてしまった罪。
東條は心から悔やんでいた。
佐野にしてしまったこと。
ずっと怖かったのだ。
佐野に会う事が。








東條の記憶は大学に入って暫くして蘇った。

入りたい大学。
その為に2年間の留年を経験した。
憧れていた香川教授のゼミへ。
そして、会ってしまったかつての恩師。
自分の右手に生暖かい血と肉をえぐった感触が蘇り一瞬にして蘇り、そのまま大学のゼミ室で気を失ったのだった。
気がつけば医務室で、寝かされてるベッドの横には知らない顔の男が一人座っていた。

『お、気がついた?』
『・・・・ここは?』
『医務室だよ。お前、急に倒れてさ』
『倒れた・・・・?』

記憶の歯車がゆっくりと、鈍く軋む音を立てながら回り出した。
大学に入り、大学院へと上がった自分。
憧れ大学時代から入っていた香川教授のゼミ。
そしてそんな自分の前に現れた、白いトレンチコートの男。
憧れた英雄。
そのため、見失った道。
そして、自分は香川先生を・・・仲村を・・・
先生を・・・

『ぅう・・・う・・ぁあ・・・・』
『おっおい、大丈夫か!?』

心配そうな声とともに肩に置かれた手。
思わず払いのけた。

『ぅウぅぅ・・・・ゥアああああアッ!!!!!』

頭が割れる様な痛み。


自分の手で二人を殺害し、今度は良くしてくれた佐野まで殺そうとした・・・
いや、殺したと思ったのだ・・・・



浅倉に何度も力で負けた


北岡に「英雄は英雄に成ろうとした時点で負けだ」と言われた


他のライダーを罠に嵌め、その後、何をすればいいか分からず街をさ迷った


トラックが走って来る


手を繋いで歩く親子


思わず走り出した足


それから・・・・・



『・・・・・それから』
『トラックに引かれそうになった親子を、身を呈して庇って、死んだよ』
『・・・・・・ぇ?』

今、何と言ったんだ?
ベッドの横に座っていた男は小さな笑みを浮かべていた。

『お前は、英雄になれたんだ』

そういうと、東條の頭をくしゃくしゃと撫で付けた。

『君は・・・・?』

何故、知ってるんだ?
髪をくしゃくしゃにした手はそのままに男は言った。

『俺はギカゼールだ』

ギカゼールの男は鹿島 拓哉(かしま たくや)と名乗った。
そして、告げられたこの世界の理。

『この世界は城戸真司とユイの2人で作られた』
『・・・・』
『そのため、あの二人は歪みを背負って生きている』
『・・・わかった・・・・かも』
『かも、じゃなくて分かれ!!』
『声うるさい』
『だーっもう!!! で、お前はデストワイルダーには会えたのか?』
『・・・・・分からない』
『・・・・つまり、会ってないんだな?』
『・・・多分』
『っ〜〜〜〜!!!!』

煮え切らない東條と短気な鹿島。
そんなこんなで、月日は過ぎた。
自分のせいで命を失ってしまった香川教授と仲村に記憶は無く、最初のころはいつ記憶が戻ってしまうかと怯えてもいた。
罵声を浴びせられるかもしれない。
もしかしたら、今度は自分が殺されるかもしれない。
だけど・・・・

『多分、二人は正式なライダーじゃなかった・・デッキだってカンザキシロウが作った物じゃなかった。
そりゃぁ瞬間記憶能力っていう変わった特技はあった。
それのおかげ・・・所為かな・・・自らデッキを作ってミラーワールドに関与してきた。
でも結局は一瞬見た研究内容の一部だ。カンザキシロウの作ったようなデッキは作れなかったんだと思う。
だから・・・・こう、薄い膜で包んだような存在だったんじゃねーかな・・・ライダーバトルとか、ミラーワールドとか』

そういって、器用に御箸で持ち上げられたのは学食デザート人気1 もちもち求肥のミルフィーユ、の求肥のシート。
手作りの求肥を薄くのばし、あんこ、クリーム、季節の果物、を交互に求肥も重ね5段に仕上げた学食のおばさん力作である。
価格、600円という学食には少しだけ高めだが、それでも1日30食限定のこのデザートは午前中で完売してしまうという。
実は大学外からもこっそりと食べに来る人もいるとか。

『だから、記憶は多分無いんじゃないかなって・・・・・・・・』

ぱく、あむあむ・・・・んぐ。

『おいしいーね、求肥』
『な・・・何・・・俺・・の、求肥・・・』
『ごちそーさま』
『ご地租ー様じゃねーよ!!俺の求肥返せよ!!!』
『別にいいじゃん1枚ぐらい』
『今日、やっと買えたんだぞ!!!』
『ほら、ヨーグルトあげるから』

東條は、自分の学食定食に付いていたフルーツヨーグルトを鹿島にあげる。

『俺の求肥ぃ・・・・』
『・・・ありがとう』
『え?』

求肥を食べられ、めそめそと泣いていた鹿島は東條を見た。

『色々ありがとう』
『え・・あ、いや・・・』

いきなり御礼を言われ、今度はちょっと照れたようだ。
少し、おたおたとしている。

『いやさ・・・これはこっちの役割・・・みたいなもんだし・・・・』
『んでさ、もう一枚・・・ちょうだい』
『メッ!!』

その後も、香川にも仲村にも記憶が戻ることはなかった。
だから・・・・

『東條さぁ〜いくらなんでも二人に尽くしすぎじゃねいか?』

場所は大学校舎の屋上。
今日は同じ研究をしている仲村に急な予定が入ってしまったため共同研究が出来ないと知らせが入った。
なので、東條で出来るだけ研究を進め、まとめた結果を仲村と話し合うことにしたのだ。
研究と言っても、準備、用意。
一分一秒で変わっていく結果。
そして、片付け。
それらを一人でやろうとするのは、酷く大変なことだ。

『急な予定っても、彼女とデートだぜ?』
『それでもいいんだ』
『・・・そーか?』
『だってさ、前はそんな時間だって・・・多分無かったから』
『・・・・まぁ、いいさ・・・俺も手伝ってやるよ』
『鹿島・・・・』
『その分、学食デザートの求肥のミルフィーユ、奢りな?』
『うん!!!』


奪ってしまった二人の時間。
少しでも、今に取り返せれば・・・・。




その後、大学2回生に同じゼミに入ってきたのは、デストワイルダーの大河 泰彦(たいが やすひこ)だった。











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少しだけ文章を訂正しました。<11,10,30>









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