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 ――Two wishes and hope――



一年間という時間。

長くて短かったと思う。

敵でしかなかったというのに、共存してしまっていた自分。

弱かったのだのだろう。

負けるわけにはいかなかったのに。







ふと、誰かに呼ばれている気がして、秋山は未だ重たい瞼を薄く開いた。
未だ霞みかかる意識の中でも、秋山は今の現状を全部ではないにしろ理解していた。

「蓮!!」

そして、自分を呼んでいる声の方へと視線を向けた。
そこには、自分が良く知っていた少女が酷く心配した顔でこちらを見ていた。
場所はアトリのリビング。
それほど広くない部屋に、以前は無かった稼動式のテーブルと、各々が座る椅子、それから今秋山が横になっているソファーがあった。

「お兄ちゃん!!蓮が気がついたよ!!」
「おい、秋山!大丈夫か?」

もやの掛かる意識の中で、呼ばれた方へと目を向けると、少女を助けるべく、あの過酷な戦いを強いた男がこちらを心配そうに見ていた。

「神・・・ざ・・き?」

上手く発声が出来ない中、問いかけるように名前を呼ぶと、青年は頷いた。

「ああ、俺だ。秋山蓮。仮面ライダーナイト」
「っ!!」

その名前を呼ばれると、再び頭に鈍痛が走った。

「蓮!?」

少女が慌てた声を上げるが、小さく大丈夫だと一言延べ、その痛みへと手を伸ばした。
痛む箇所に手を当てながら深呼吸をし、痛みを紛らわしていると、

「蓮、大丈夫?お水飲む?」

少女の言葉に小さく頷き、差し出されたコップの水を一口二口と口に含んだ。
戻されたコップを受け取りながら少女は切り出した。

「・・・蓮、今話しても平気?」

常の少女なら、ここで再会に喜ぶはずなのだが、その時は違っていた。

「ユイ?」
「蓮、真司君には会った?見なかった?」

少女は何かを怖がるように秋山を見ていた。

「いや・・・」

その様子を疑問に思いながらも、会ってはいないと否定した。
まだ彼とは会ってもいない。
ここ最近の記憶を呼び覚ましても、見かけたような気はしなかった。

「それより、ユイ。足はどうしたんだ?」

秋山の前にいる少女は、以前の少女であって、以前とは違った少女だった。
電動の車椅子。寒さ避けなのか足の上に掛けられた毛布。
以前の少女とは似つかない。

「ユイは、生まれつき足に障害があって今は車椅子の生活なんだ」

少女の兄は少しつらそうに、そう告げた。

「障害?」

前の時間ではそんなものは無かった。
目の前の少女は自分の足で歩き走り、自由に動いていたはずだ。

「どういうことだユイ?」

これが本当の時間の流れなのだろうか?

「蓮、真司君を探して」

思いつめたように、切羽詰っているように、告げる少女。

「・・・ユイ?」
「お願い・・真司君を探して!早く!!」

取り乱さないよう、必死に自分を抑えている少女を疑問に思い、カンザキへと視線を向ける。
しかしカンザキも理由を知らないらしく、無言で首を振るだけだった。

「ユイ、どういうことか説明してくれ」
「・・・今は・・駄目なの・・・」

先を促してもしゃべらない少女は、何かを我慢するかのように、自分両手強く握り締めていた。

「お願い、真司君を探して・・・・手遅れになる前に・・・」
「手遅れ?」
「俺にも話してくれないんだ」

シロウが促すように、少女の肩に手を置くも、少女は固く口を閉ざし、首を横に振る。
秋山は、そんな少女に、静かに頷いた。

「ああ。必ず見つける」

この少女のためにも。
そして、己自身のためにも。


まだ、告げていない言葉と思いがある。
前の時の流れでは決して告げられなかったこと。
今、言いたいこと。


「見つけてやる。必ず。・・・・城戸」

自分自身に言いかけるよう、秋山は小さく呟いた。














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