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――Two wishes and hope――














「遅いですね・・・」
「ごめんね、由良さん。せっかく来てくれたのに・・・」
「あ、いえ・・・こちらこそ何もお聞きせず勝手に来たんですから・・・」

アトリのテーブル席に座り、紅茶を飲んでいた由良はそろそろ他の用事があるためお暇することにした。

「すみません、秋山さんによろしく伝えてください」
「本当に、ごめんなさい。あ、私でよければ伝言を受けますけど・・・」
「ああ・・・だったら、教えて頂きたいことがあるんっすけど・・・」
「教えてほしいこと?」
「ええ、城戸さんの部屋に入るのに何か注意しなくてはいけないことがあるのか、と」
「真司君の部屋の?」

少女の返しに由良は頷く。

「城戸さんの部屋には何か注意しなくちゃいけないことって何かあるんすかね?」
「ああ、何だ」
「へ?」

由良の聞きたかったことは、何も秋山を待つことはなかったことで、こんなことなら自分や水谷が答えればよかった。

「真司君の部屋に入る注意点なら私も知ってるから、私でよければ教えてあげます」
「お願いします!!」
「そ、そんな頭下げなくても!!」











空調機が静かに響く店内。



時計が一秒一秒を刻むたびに、俺は恐怖が募っていくのを感じた。
ユイが死ぬこと。一人にされてしまうこと。


ミラーワールドに存在していたユイにはこちらの世界はタイムリミットが科せられた。
そのタイムリミットをどうやったら消すことができるか。
最悪、どれだけ延ばすことができるか。
それがカンザキシロウにとっての課題となった。

「それが、ライダーバトルの発端だと?」
「簡単に言ってしまえばな」

ユイを死なせないための方法。
ライダーバトルは、それ故に考えた結果だった。



まず考えたこと。
何故、こちらの世界では20歳までしか生きる事が出来ないのか?
その根本的な理由が少しでも分かれば希望が見えてくる。

「そして、次に考えたのが現実世界と鏡の世界との関係性だった」

鏡とは、物を左右対称に移すことが目的である。
普段の生活では自分を写し、物を写し、様々な角度から見たりしている。
その向こうには、ただガラスの板と何種類かの金属メッキしかないことを信じて。
しかし、もし、そこに写っている物体が、“1”だとしたら?

「つまり、鏡の向こうに写っている“物体”か」
「そうだ」

羽の言葉に頷くカンザキシロウ。
自分を移しているつもりでいて、実は鏡の世界に存在しているものが映っているのだとしたら。
しかし、そうなると、向こうの住人はこちらと寸分違いのない行動をとることを意味することになる。
それが変わることはありえないのだ。

「確かに、違う動きをする鏡は怖いだろうな」

自分が写っているというのに、全く違った行動を起こす。
場合によっては、覗き込んだ鏡には自分は映らないかもしれない。
それでは鏡ではなく、ホラー映画だ。

「だから、ミラーワールドとこの世界の繋がり方を研究した」

アメリカに渡って研究していたこと。
向こうには、空想物理学に知識のある教授がいる事を聞き、留学することを決めた。

「空想物理学?」
「実際に出来ないことや、見る事の出来ない物事に物理を持ち込んで考えることだ」
「・・・・?」

首をひねり、いまいち分からない様子の秋山。

「そうだな・・・原子力は知っているよな?」

自然界には同位体といって同じ原子番号であるにも関わらず、原子核の質量が異なる2つの原子がある。
片方は安定しているが、片方は不安定であり、自然界に微量しか存在しない。その不安定な方はエネルギーを出しながら崩壊している。
例えば、ウランという鉱石から不安定な原子だけを濃縮して人為的に崩壊を早めると莫大な熱エネルギーが得ることができる。

「まぁ、一般的知識ぐらいには」
「それでいい。その原子力だが、一応人間の手中できちんと眼で確認しながら計算出来るレベルだとする」

原子力の力を人の掌におけるものだと仮定して、

「その原子力の遥かに凌駕する太陽のエネルギーはどうやって計算すると思う?」
「太陽・・・?」
「勿論、太陽光エネルギーのことじゃなく、太陽本体におけるエネルギーだぞ?」

太陽が爆発すると、今ある銀河系と呼ばれるこの地球を含めたいくつかの惑星は、その爆発に巻き込まれ、消滅するといわれている。
太陽の力はそれほどまでに大きいのだ。
その力を正確な数値でもって計算することは、今の科学技術においては不可能に近い――いや、出来ないのだ。
相手があまりにも大きすぎて、強すぎるために。

「そう言った、目で見て、仮定して、そこにどれだけのエネルギーがあるかを仮計算したりするのが空想物理学だ」

後は、実際に実在しない力を計算してみたり。
簡単に言ってしまえば、そう言ったものである。

「俺は、その空想物理学がミラーワールドを解明するのに、一番の近道だと考えたんだ」

そのため渡米して、ポトラッツ教授のゼミへと入った。

「そこで、鏡の世界についてずっと研究していた」

しまいには、教授にさえ理解し難いものだと言われてしまったが。

「で、ミラーワールドは結局何だったんだ?」

秋山とて、カンザキシロウがエリを巻き込んで実験を行わなければ、ミラーワールドというものは知らずに一生を終えていたはずだ。

「ミラーワールドは・・・そうだな、簡単に言うとポケットみたいなものか」
「ポケット?」
「ああ、しかも入口もなければ出口もないポケットだ」

こちらの世界とは全く関わりを持つことない世界。
それが、何かの偶然でこちらと向こうが一瞬つながったのだろう。
その一瞬の時に、触れ合った二つの世界。
たぶんきっと、双方そんな世界があるなんて知らずに過ごしていただろう。
――そもそも、向こうの世界に“意思”を持ったが存在するかも正直分からない。

「意思はあったんじゃないか?」

モンスターがいて、人間を襲う。
それは、モンスター自身の意思によって行われていた行為なのだから。

「だが、秋山。それは俺があの世界にかかわってから起きたことだ」
「つまり、その前はわからない、と?」
「ああ。実際、俺は向こうの世界に入ったが、あまり強い意志を持ったものはなかったような気がする」
「リュウガはどうなる?」

あれほどまでに、現実世界への存在を強く持った者。

「リュウガは、俺が作り出したものだ。あれはまた別の話にはいる」

そうだった。
リュウガは、このカンザキシロウのによって作られた存在だった。

「だったら、少女に接してきた鏡の世界のユイはどうなるんだ?」

秋山の言葉にカンザキシロウは頷いた。

「たぶん、曖昧な意思の中で、ゆっくり水が流れるような感じで・・・・ミラーワールドはそんな感じの世界なんじゃないかと思う」

きっと、あの鏡の中のユイも。
それが、ただの気まぐれか偶然か、現実世界へのユイに干渉してきた。

そして、次に考えたのが、


―― 鏡の世界の住人であったユイはヨリシロがあって20歳まで。
―― では、ヨリシロが無かったらどうなってしまうのだろう?


ということだった。
ミラーワールドのユイが現実世界のユイの体をヨリシロとして使ったなら、ミラーワールドは、現実世界において実体化は出来ないということになる。
つまりは幽霊みたいなもの、になるのだろうか?
ミラーワールドのユイがこちらの世界へとやってきた、こちらから向こうへと行くことは出来るはずだ。

「まさか・・・」
「ああ、その実験結果が俺自身だ」

秋山の呟きに頷いた、カンザキシロウはいつの間にか自分のコーヒーが空っぽになっていたことに気がついた。
どうやら、話している間に飲み干してしまったようだ。
その様子に、小さく笑いながら羽は再びアイスコーヒーを頼んだ。
因みに、秋山の分と自分の分も。
秋山とカンザキシロウが何かを言う前にさっさと運ばれてきたコーヒー。
二人はしばし如何しようかとお互いを覗っていたが、羽は二人に飲むように促した。

「・・・だが・・・」
「気にするな。これでも会長職だ、金は持ってる」
「・・・・」

少々、子ども扱いされたような気もしなくはないが、そこまで言うなら、と二人はそのコーヒーに手を出した。









由良と少女がフロアで話している頃、水谷は奥に入って紅茶をいれたり、洗い物をしたりと作業していた。
正直、由良の前でどうどうと歩いていて良いのかわからないのだ。
多分、多分だとは思うが、北岡秀一はマグナギガと会っていない。
本当に、水谷の推測なので実際はわからない。本当はあっているかもしれない。
しかし、由良の様子を見ていると、どうもそんな気がするのだ。

―― この時間の流れに対する小さな疑問を持ち始めた。

多分、そんなとこだろう。
最初店内に入ってきたときにユイの姿を見て、驚いていた。
驚くということは、以前のユイを知っていて、なぜそんなことになったのか知らないということだ。
知らないということは、この時間の流れを知らないということ。
流れを知らないというのは、契約モンスター等のこの流れを理解している誰かに会っていない。

『多分、北岡秀一は、それを知るために由良を寄こしたのではないだろうか?』

水谷にはそんな感じがしてならなった。









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