――Two wishes and hope――
「それにしても、二人とも本当に遅いですねー」
城戸の部屋についてあらかたの説明を終えた少女は、ほぅと息をついた。
まぁ説明といっても、リュウガから聞きかじったことと、城戸自身に聞いて注意するようにしていることなのだが。
「二人?」
「え?」
「あ、いや・・・秋山さんを待っていたつもりだったんですが、別の方も秋山さんと一緒にいらっしゃるんですか?」
「あ、お兄ちゃんが一緒に」
「ッ!?」
少女の言葉に目を見張った由良。
――― あれ、私は何か驚くようなことを言ったのだろうか?
目を見張ったままこちらを見やる由良に、少女は慌てて何か言おうと、口を開いたとき、
「お客様、何かご用事で急がれるのでは無かったのですか?」
「水谷君!?」
「え・・・あ、あぁそうでした」
基本礼儀が正しい水谷が、そんな客を追い出すような言葉を吐いた。
何なのだ、私はそれほど言ってはいけない何かを言ってしまったのか?
ますます混乱し始める少女に、水谷は笑いかけた。
「会計は僕がやるんで、片づけをお願いできますか?」
「あ、うん・・わかった」
由良が立ち上がり、伝票を受け取った水谷はレジで精算を済ませる。
「あの・・・」
「はい?」
レジカウンターで由良は小さく聞いた。
「ユイさんには、お兄さん・・・いるんですか?」
「ええ、いますよ」
この時間軸に一緒に存在しているのだ。
「一緒に、暮らしてるんですか?」
「ええ、このアトリで暮らしてるみたいですが?」
自分はアルバイトなので、詳しくはわかりませんが。
苦笑を交えて、由良に釣銭を渡した。
「そうですか・・・・あ、あのっ!」
レジを離れようとした水谷に、由良は最後にだけ教えてほしいと声を出した。
「なんですか?」
多分それを一番知りたがっているんだろうな。
水谷はこれから聞かれる質問を考えた。
「ユイさんの、お兄さんの名前って・・・カンザキシロウ・・・ですか?」
ああ、やっぱり。
想像していた質問に、水谷は心の中で小さく苦笑した。
「はい、そうですよ」
やはり、由良はこの時間の流れを知らないのだ。
だから、カンザキシロウの名前に驚いた。
以前の時間ではすでに存在がミラーワールドへと移っていたから。
あの死闘の元凶がこの時間に存在していることに驚く他はないだろう。
あーあ、また混乱する人たちを作ってしまったなぁ。
水谷は心の中でそう呟き、続けて、
まぁ、もうすぐ時間も尽きるから、これはこれでちょうどよかったのかもしれない。
と、考えを改めたのだ。
ライダーバトルでは、ライダースーツを着て、ミラーワールドで戦う。
それは同時に、ミラーワールドに馴れた人物を残すというものでもあった。
「ミラーワールドに馴れた?」
「そうだ。秋山、もしお前が素のままでミラーワールドにいたらどうなる?」
「かなり早い段階で微粒子化が始まるだろうな」
ライダースーツは、ミラーワールドにおいて9分55秒間、活動することができる。
「研究をしていっても、あの活動時間はあれが精いっぱいだったな・・・しかし、ミラーワールドと現実世界を行き来している個体には何かしら
変化があるのでは無いだろうかと考えたんだ」
微粒子化とは、双方の世界にとって異物を取り除く作業のようなものではないだろうかと。
カンザキシロウは考えた。
「鏡の世界のユイがヨリシロを使っても20歳まで生きられないのは、その体が鏡の世界に馴れてないからではないかと考えたんだ。
そのために、鏡の世界のユイには負荷がかかり最大で20歳までだと言った」
二十歳までしか生きられないといった。
ニ十回目の誕生日を迎えると死んじゃうよと言われた。
それでも生きていて欲しいと願ったのだ。
――― だから、考えた。
「つまり、鏡の世界に慣れた体が欲しかったのか?」
鏡の世界のユイが消滅する前に、新しいヨリシロを、と考えたのだろうか?
秋山の質問に、カンザキシロウは首を振った。
「俺は、命そのものが欲しかったんだ」
鏡の世界に慣れた命を、命尽きる前のその体に与えれば・・・
その命をどう移すかは問題だが、鏡の世界に慣れた命であれば、多分負荷は減少するだろう。
「だから、あの戦いを選んだ」
それぞれの欲望を強く持った彼等を集め、その欲望の強さを競わせた。
その欲望の強さこそ、命の強さだと考えたのだ。
強い命、鏡の世界に強い命。
「だが・・・」
少女は、誰かを犠牲にして生き残ること拒み、戦いは秋山である仮面ライダーナイトが勝利を収めた。
「もう一度世界を作ろうと思った」
自分が納得できるまで何度でも作り直そうと考えた。
俺にとっては、もう、それしか残っていなかったから。
それが俺にとっての全てだったんだ。
しかし、ユイに言われた。
絵を描こうと。
『私も、お兄ちゃんも、ライダーだった皆も居て、笑える世界を作ろう』
そう言われ、それが出来るのだと言われ、頷いた。
考えもしなかった。
その為にかかる負荷を。
それを誰が払うのかも。
以前、城戸の部屋に初めてたどり着いた時、時田兄弟とリュウガに説明された。
新しい世界を作るための対価をユイが払ったのだと。
そのための、今の足なのだと。
『そして、城戸はモンスターだった俺達のことも考えた』
竜也は言った。
『生きることを望んでいたのは、モンスターとて同じこと。
なら、せめてライダーバトルで共に戦ったモンスターだけでも一緒に笑って過ごすことは出来ないだろうか、と』
その為に自分達はこの世界に居て、城戸自身はその対価を払うためあの部屋に一生いなければならないのだと。
―――― 二人が負荷を背負ったため出来たのがこの世界なのだと。
向かいに座っている羽は静かにコーヒーを飲んでいたが、その表情は何処か痛そうに歪んでいた。
会計を済ませ、キッチンへとテーブルを拭く台拭きを取りにきた水谷。
「あ、あの水谷君!」
「何です?」
「わ、私・・・」
「・・・・ユイさんは別に、可笑しなことを言ったわけじゃないんです」
「え・・・で、でも由良さんが・・・」
由良の驚きは異常だ。
「多分・・・由良さんはこの世界の時間の流れを知らない」
「あ・・・」
ここ最近、この時間の流れを知っている人達の間だけで過ごしていたため、すっかりと忘れてしまっていた。
「じゃ、じゃぁ、由良さんはまだ」
「多分、マグナギガとか他の時間の流れを知る人に会っていないか・・・会ってても教えてもらってないんでしょうね」
「だから・・・」
兄が生きてることに、あれ程驚いたのか・・・
「でも、私が生きてるから、お兄ちゃんだって生きてるって考え方・・・あってもいいのに・・・」
確かに以前の時間では死亡記録があった・・・・
何とも言えない寂しさが胸を埋める。
「まぁ、確かにそうですよね・・・でも、ユイさん」
「?」
「もう後、半年・・・ぐらいですか。そうも悠長なことが言ってられそうもない」
「え・・・どうゆうこと・・・?」
何を言っているのか、分からない。
この少年は何を言おうとしてるのだろうか?
水谷は膝を折った。
ユイと同じ目の高さだ。
水谷の手が、少女の手を握る。
その手は思いのほか大きく、ああ、男の子の手だ、と、どこか見当外れの考えが浮かんだ。
握られた手は強く、力がこもっていた。
「だから、手伝ってください。多分貴方がいて、僕達がいれば・・・・
きっと・・・いや、多分何とかなるから・・・・何とかしてみせますから」
「水谷・・・君?」
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ここで区切ります。
一応この辺で中間地点まで着たぐらいだと思います。
え、40で中間だとしたら、おいまてこら。
80ぐらいまで続くってことか?
そりゃ何でも長すぎないか?
もっと短くまとめられないのか自分?
すみません・・・文書力がないよぉ・・・・
未だ謎めいた個所やまだ出てきていなライダーやモンスターがあります。
これからどんな謎解きになるか、どういった登場になるのか、
出来るだけまとめられるよう頑張りたいです。
書いてて、ちょっくら水谷は格好良いではないか、と思った。