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――Two wishes and hope――















次の日。
北岡は夕方となりつつあるビル街を一人、先日渡された名刺の住所へと向かって歩いていた。

「ここか」

ビジネスビルの間に建つ一つの雑居ビル。
案内板には3階に名刺と同じ名前の会社が入っていると書かれていた。
ビルを見上げると夕日によって白い壁は赤く染められていた。

「行くか」

時間を知るため、北岡は備え付けの階段へと足を向けた。




「ああいらっしゃいませ」
「お邪魔します」

迎え入れてくれたのは、芝浦と同い年ほどの青年だった。
どうやらここの従業員のようだ。

「ささ、北岡先生。此方へどうぞ」

と、通された来客用ソファー。
小さなスペースながらきちんとスペースを設け機材を上手く配置してある室内。
狭いながらも、上手く空間を使っている感じであった。
事務机とパソコン用デスクにパソコンが何台か。
室内を見渡し、ふと、芝浦が居ないことに気がついた。

「あの、芝浦さんは・・・?」
「あ、ああ・・・すみません。今ちょっと出かけているんで、直ぐ戻ってくるんで」
「・・・そうですか」

自分から来るよう言っておきながら人を待たすとは。
相も変わらず礼儀知らずのようだ。
北岡が心の奥底で盛大な怒りと溜息をついたとき、会社の扉が開いた。

「ったくあちー・・・・」

外から芝浦が帰ってきた。
その腕には500mlのお茶が入ったペットボトル数本。

「淳!!」
「ああ、悪い悪い。これを頼む」

・・・名前を呼ぶほど親しい友人なんぞ居るのか、と疑ったことがあったが・・・居たんだ。
少々的外れな考えを浮かべた北岡。

「すみません、北岡先生。このビル自販機や給水室が無いもんで少し離れたコンビニに買いに行かなきゃなんないんですよ」

どうやら芝浦は客に出す茶を自らが買いに出て行っていたようだ。
・・・・こいつ、こういう奴だったか・・・?
前の時間の記憶を紐解くが・・・・
違う。お茶は自分が飲む係りで入れる(若しくは買う)係りは他人、と明快な俺様主義の奴だ。
ここまでこの時間の流れは違うのか・・・・?
ある意味ショックな事実を知った北岡だった。

「さて、北岡先生。折角ですが此方の椅子にどうぞ」

芝浦はお茶を従業員に渡すとそのまま北岡を事務机の前に呼んだ。
その机にはパソコンとその他の機材が積まれている。
どうやらそれがゲームを作る場所らしい。
引かれた椅子に座ると、芝浦は機械のスイッチを入れた。
すると従業員の青年がコップに先ほどの冷たいお茶を入れてきた。
そのお茶を受け取ると、芝浦が何か操作をし始めた。

「コレが俺たちの作ったゲームです」

パソコンの画面にはゲームのスタート画面と思われる文字が浮かんできた。

「ゲームのタイトルは仮なので、まだ正式には決まっていないんです」

『Masquerade』

仮面舞踏会・・・?
少々悪趣味さを感じさせなくも無いタイトルの後、北岡は出てきた画面に目を剥いた。

「・・・なッ・・・!?」

パソコンの画面には仮面ライダー龍騎、ナイト、ゾルダ、ライア・・・といったあの時間に存在した13人のライダーが次々と流れるように出てきたのだ。
そして、画面はOPと思われる動画を流し、TOPの画面へとなった。
そこにはあの時間にいた13人のライダー達がそっくりそのままのデザインで立っていた。

「・・・なーんだ、やっぱ覚えてんじゃん」
「芝浦!?」

後ろで聞こえた声に、どういうことか問いただそうと椅子ごと体を向ける。
先ほどまで直ぐ後ろに居た芝浦は、芝浦の椅子と思われる立派な椅子にふんぞり返るように座って此方を皮肉な笑みを浮かべ見ていた。

「声掛けたときに『誰だ?』何て言うからてっきり覚えてないのかと思ったけど、しっかり覚えてんじゃん。先生♪」
「お前・・・」

このゲームはいったいどういうつもりなのだろう。

「お前・・・一体全体こんなもん作ってどうする気なんだ?」

芝浦は前の時間において殺人ゲームを作り上げ、実際の人間でそのゲームを実行させた。
その事件の裁判で、芝浦の弁護を北岡が受け持ったのだった。
ライダーバトルはそのまんま生き残りゲームである。
まさか、芝浦は再びあの頃のようなことをしようとしているのだろうか?
疑心に芝浦を見やるが、当の芝浦は先ほどの笑みのまま、余裕の様子でこちらを見ている。

「どうする気って、そりゃー売り物にしたいに決まってるじゃん、なぁ?」

最後は近くの椅子に座って此方の様子を見ていた従業員に投げかけた。
従業員は勿論だ、と深く頷く。

「お前、またあんなゲームをする気じゃないだろうな?」

北岡を呼んだ理由が、もしも会社の広告塔ではなく殺人ゲームの片棒を担ぐようなことであったなら?
ありえなくない。このお坊ちゃんならやりそうなことだ。
北岡が心の中で結論を出していると、

「でさ、そろそろゲーム始めてくれない?」
「まず、質問に答えてからにしてもらおうか?」

もし、本当にそんなゲームを出すために雇われたとしたなら、この仕事はどんなことがあっても降り、そのまま警察に直行してやる。

「質問って、このゲーム?」
「ああ」

北岡が頷くと芝浦はこれ見よがしに業とらしい溜息を一つついた。

「あーあ、コレだからおじさんって嫌になっちゃうよね」
「・・・・オジサン・・・?」

北岡のこめかみがヒクリと動いた。

「だから、それはゲームをやってからにしてくんない?」
「ささ、北岡先生。コントローラーはコレですから」

と、先ほどまで座っていた従業員は北岡の横にあったコントローラーを北岡に握らせ、無理やり画面に向き合わせた。
向かわされたパソコンの画面には変わらず13人のライダーが映し出されている。

「コレをやったら本当に教えるんだろーな?」
「教える教えますって」

首だけ後ろに回すと芝浦はウザイと顔に書いた表情で北岡を見ている。
仕方ない。
北岡は再びパソコン画面に顔を向け、握らされたコントロールのスターとボタンを押した。



















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