――Two wishes and hope――
目の前の画面に浮かぶENDのマーク。
北岡はデスクの上に、握っていたコントローラーを置いた。
死んだ訳ではなく、ゲームを終わらせてのENDマークだ。
「どう?面白かったでしょ?」
芝浦の作ったゲームは、確かにライダー同士を戦い合わせ、最後の一人を目指すものだった。
もちろん、倒した相手はその場で残酷にも契約モンスターに食べられてしまったり、微粒子化によって消滅しまったりと、リアルな再現を取られていた。
中には、時間切れによってバトルの中断等といったあの頃をそのまま再現してあったりもする。
北岡は以前の時間の中で芝浦の弁護をしており、弁護をするにあたった事件をよく覚えている。
同じ大学サークル内に置ける殺戮ゲーム。
そのゲームを作ったのが他でもない芝浦淳だったのだ。
心理学等を応用したゲームは、視界からの情報によって己の中の凶悪な部分を表にさらけ出させるといったものだった。
「芝浦」
「何?」
「一つ聞いていいか?」
「どうぞ」
気取った風に促され、北岡はエンディング画面を見ながら一つ息をついた。
画面には、北岡が進んできたゲームの抜粋された画面が流れていた。
どうやら進み方によってエンディング画面が変わるらしい。
手が凝ったものだ。
「どうして、主人公は城戸真司なんだ?」
ゲーム、つまりストーリーには主人公がいる。
それは当然だが、その主人公に城戸を使っていることが、北岡にはわからなかった。
もし、芝浦が再びあの殺戮ゲームを再び行うなら、まずは城戸を主人公に充てることはないだろう。
あの戦いの中で、城戸の存在はそれほどまでにイレギュラー過ぎるのだ。
城戸とはいっても、本人そのままを使っているわけではない。
確かにこの時間の流れにはライダーバトルは実際しない。
しかし、関わった人間は実在しているのだ。そんな中で何もかもリアルに再現すると、場合によっては人権侵害となる。
北岡が言った城戸は、名前だけであり、出てくるキャラクターは性格が似ており、顔は別だった。
因みにゲームの城戸の仕事は大手出版社、やり手の編集者。今や前とは雲泥の差である。
北岡の質問に、芝浦は特に表情を変えることなく、北岡の横からENDが浮かんでいる画面を操作し元のスタート画面へと持ってきた。
「芝浦?」
何をしたいんだ?
北岡は芝浦の行動を見ていた。
「これさ、色々と考えて、案を出し合って、条件が揃うと他のライダーでもプレイすることが出来る等というサービス満点のゲームなんだよ」
芝浦が何やらキーボードを操作し、再びゲームをスタートさせた。
すると、今度は最初に13人の人間が画面に出てきた。
どうやら、この中から好きな人物を選んでゲームを始めることができるようだ。
そうなると、ストーリーの流れも変わるのだろうか?
ふと、自分の話の流れはどうなっているのだろうかと、少し興味が湧いた。
「でも、最初は絶対あの馬鹿な甘ちゃんを出したかった」
「・・・?」
何を言いたいんだ、北岡は訝しげに画面を見たままの、芝浦の横顔を見るが表情からは何も読み取れない。
芝浦は、画面を見たまましばらく黙ると、口を開き、ぽつりぽつりと言った。
「どうして、あの馬鹿はあそこまであのゲームを止めたがってたんだろ?」
「芝浦?」
城戸がライダーバトルを止めたがっていた理由。
芝浦はこのゲームを作るにあたり、城戸の行動、思考パターンをざっと考えてみた。
お人良しで、他人が困っていたら必ず助ける。
ライダーバトルでは必ず不利な方へと着く。
それのために、幾度となく色んな人間に騙される。
その単純明快な行動パターンはゲームを作るには支障はあまりなかった。
しかし、
「何度もプログラミングし直して、何度も設定変更して、何度もシナリオを書き直した」
それは、構築の変更、環境の変化、色の再彩色
幾度となく行われたその作業。
城戸はさっき言ったように酷く分かりやすい人間だ。
分かり易過ぎるといってもいい。
勿論人間であるが為、悩むことも、困惑することもあるだろ。
―― ストーリー的にはそういった処も無くては困るが。
だが、城戸はきっと持前の単純な考え方で進んでいくのだろう。
このゲームでは実際、城戸真司なる人間はそういった人物に仕上がった。
だけど、
「どうしても、分かんないんだ」
北岡は「芝浦」と、名前を呼ぼうとしたが唇を動かすだけで声を出せなかった。
北岡が見ていた芝浦の横顔から見られる表情は、困惑、興味、不安、好奇心、恐怖、歓喜、そのどれとも呼べる、そして、どれとも呼べない表情をしていた。
正直、驚いた。
芝浦が城戸を知りたがっている。
何事もそこそこ出来てしまった芝浦は、物事に興味を持つことをやめてしまい、更なる刺激を求め、ライダーバトルへ参加した。
「芝浦、お前・・・」
「先生なら分かる?」
そこには、子供の顔があった。
分からないことを、誰かに教えてほしいことに対する答えを求める子供の顔があった。
浅倉の変化、芝浦の変化。
北岡は、この違う時間の流れに底知れぬ恐怖を抱いた瞬間。
そんな二人の様子を、芝浦の同僚の青年―― 蔵多 圭介 は、苦笑しながら困った風に頬を掻いた。
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ここでひと区切りといたします。
北岡先生はこれからもどんな人物と会っていくのでしょう。
それによって、この時間の流れをどう感じるのでしょうか。
次回からは再び秋山達を出していきたいと思ってます。