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――Two wishes and hope――








それは、この時間の中で初めて会った仮面ライダーガイ―― 芝浦淳であった。

「・・・誰、だ?」

目の前の相手に、北岡は一先ず誰だ、と聞いた。
ライダーは記憶を持っているか否かは分からなかったからだが、芝浦の目は一瞬だけ開いたように感じられた。
北岡の中で、それが答えだった。
こいつも、記憶を持っている。

先ほどの浅倉はどう考えても何かを知っていた。



『お前はまだ知らないのか?』
『何だって・・・?』
『お前はまだ会っていないのか?』



自分が知らない何か。
自分が会っていない誰か。


果たしてそれは何なのだろうか。
正体は分からないが、それがこの時間の流れに大きく関係することだけは確かなはず。
何も知らないのを悟られると先ほどの浅倉のように教えてもらえない可能性がある。
そのため、北岡は記憶がない振りをすることにしたのだ。
誰だと問われた当の芝浦は、少し考えた様子を見せたが懐から名刺を取り出すと、北岡に差し出してきた。

「挨拶が遅くなってすみません。僕は小さなゲーム制作会社の代表を務める芝浦淳といいます」

『僕は』と来たよ、この猫被りの狸騙しは。
その上、先ほどの生意気そうな言葉は引っ込み丁寧な言葉遣いになった。

「ご丁寧に、私は北岡法律事務所の北岡です」
「ええ知っていますとも」

満面の笑みだ。
つまり、物凄く胡散臭さ120%。

「貴方程の若さで代表とは感銘しますね。それで、本日はどのようなことで?」

北岡と芝浦はお互い交換し、北岡がその名詞を見ると、そこには確かにゲーム制作会社と、代表として芝浦の名前が記載されていた。
へぇー、あのおぼっちゃんがねぇー。
内心、少し驚いてもいるのだがそこはプロ、一切顔には出しません。
芝浦は北岡の名詞をケースに入れ、懐にしまうと一瞬だけ時計を見た。
誰かと待ち合わせでもしているのだろうか?

「黒をも白に変えてしまうと謳われる北岡弁護士の名前をお借りしたく着ました」

芝浦は先ほどの胡散臭い笑みも飛んでいくような、さらに胡散臭い微笑みを浮かべてそう言った。







立ち話もなんだからと、法廷の近くにあるカフェレストランへと二人は入った。
さて、いったい何の話しなのやら。
店員に案内され、一先ず珈琲を頼むと店員を下がらせる。

「で、名前を貸してほしいとはどういう事でしょう?」
「簡単なことです。貴方に僕の会社の顧問弁護士を請け負って欲しいんです」
「顧問弁護士?」

会社はその地位を安定させるため、外から投石してくる敵に対し防波堤を作らなくてはならない。
その役目に当たるのが大体弁護士の仕事となることが多いのだが。
基本的には大きな組織が行う手法である。
確かに小さくとも顧問弁護士を雇う会社もあるだろう。
しかし、それは会社の利益がそれ程安定していると言うことだ。

「失礼ですが、去年の経常利益はどれくらいでしょうか?」
「経常利益も、何もありませんよ。先月立ち上げたばっかりなんで」

再び浮かべれられる胡散臭さ150%の笑み。

「・・・コレから先があるか分からない会社の弁護をしろと?」

いくら昔なじみとは言え、それは失礼に値するだろう。

「それまた失礼ですね。ですが、先が無い会社ではないです」
「と、言いますと?」

芝浦の笑みが少しだけ含みのある笑みに転じた。

「北岡先生はゲームショーというのをご存知ですか?」
「え・・ええ、知識としては」

年に一度、東京で開催されるゲームショー。
各ゲーム会社がこぞって新製品や既作品の紹介をこぞってする展覧会みたいなものだと記憶してた。

「今度行われるゲームショーに我社は出展する予定なのですが、ネットによる事前アンケートに我社の商品は大手のメーカーを抜いて、今現在5位にあります」

ゲームに関しては殆どと言って知識は無いのだが、全国から挙ってやってくる会社の中で5位というのは流石の北岡にも意味は分かる。

「しかし、最初の商品が期待を多く持たれるのはどの世界でもよくあることでは?」

最初のネタがヒットしたお笑い芸人や、最初曲がヒットしたシンガー等。
一気に火がつくと直ぐに冷め易いのが世界の常だ。
北岡の質問に再び芝浦は笑った。

「先生も分かっていっているんでしょう?」

その言い草は再び胡散臭い。
嫌な予感だ。

「つまり?」
「貴方の弁護士としての名前をお借りして、会社の安定性と商業方面の大々的な広告宣伝を行いたいのです」

あー、つまり俺は歩く宣伝広告塔ということですか。
ま、確かに俺は有名人だから名前で会社の安定性は保証されるがね。
北岡は内心ため息をついて芝浦を見ていた。
そんな北岡に、芝浦は更に言い募った。

「まぁ、まずは商品を見ていただきたい」

商品、つまり作ったゲーム。
この後は一旦事務所に戻り、由良と今回の浅倉の事件についての資料を整理し、明日にある別の事件についての資料をまとめることになっていた。

「すいませんが、この後事務所に戻らなくてはいけない予定がありますので」
「そうですか・・・なら、明日の5時程ではいかがでしょう?」
「明日?」

正直、自分が宣伝広告塔になるのは自分の事務所だけが望ましいのだが、仕方ない。
この芝浦は自分の知らないことを知っているのだ。
少しでもヒントとなる事を集める必要がある。


城戸の闘病生活。
浅倉の性格の変化。


以前の時間には無かったこと。


「・・・・分かりました、では明日5時にそちらの会社にお伺いすると言うことでよろしいでしょうか?」
「ええ、お待ちしております」

席を立ち、領収書は芝浦がさっさとレジへと持っていった。




















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