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――Two wishes and hope――










審判は当たり前だが、

「被告人浅倉威を、無罪とする」

裁判長の声が、裁判所の中に響いた。
何度も言うが、当たり前だ。
第一浅倉の取った行動は人助けになる。
浅倉が何もしなかったら襲われた女性はどうなっていたか。
それに、自分が弁護をしたのだ。
こんな事件で無罪を勝ち取れなかったらそれこそ問題なのだ。

「さて」

被告人控え室に足を向ける北岡。
裁判所の廊下を歩き、目的の部屋の前まあで来るとふと入り口に立っている人に樹が付いた。
それは、拘置所で受付に居た青年だった。

「まずは、礼を言う。弟に力を貸してくれて感謝している」
「お、とうと・・・?」

今回北岡はこの裁判に立ち会うに当たり、浅倉身辺の調査を行った。
確かそれには家族構成もあり、その中に以前には見られなかった字があったのは覚えている。
しかし、それが今目の前にいるとは・・・

「浅倉・・・聡志」

アサクラサトシ。
浅倉威の5歳年上の兄。
浅倉家長子として生まれ、3兄弟の長男。自分と同い年。
以前には居なかった存在。
以前の時間とは違う存在に、北岡の中で何かの警告音が響いている。

「さすが弁護士だな。家族構成も調べているのか」
「・・・基本ですから」

それだけ応えると、相手は小さく笑い再び礼を言った。

「威に会いに着たんだな?」
「それ以外、この部屋を訪ねる理由がありますか?」

被告人控え室には今回の裁判で被告人に当たる浅倉本人と、警備員がいるだけだ。

「ないな」

北岡の返した言葉に、あっさりと同意すると、そのまま踵を返し出入り口へと歩き始めた。

「・・・・何なんだ?」

いったい何をしたかったのだろう?
怪しく思いながら、北岡は浅倉の居る被告人控え室へと入った。

「・・・」
「よう、気分はどうだ?」

備え付けのソファーに踏ん反りかえるよう座っていた浅倉は、此方をちらりと見やり、口元にニヒルな笑みを浮かべた。

「悪くないな」
「そりゃーよござんした」

どうやら裁判に勝ったことより、今座っているソファーの座り心地がいたく気に入ったようだ。

「今、ここに入る前にお前の兄とやらに会ったぞ」
「・・・・」

兄と言う単語に、浅倉の眉がピクリと動いた。

「なぁ、浅倉」
「・・・何だ?」

この浅倉の件に関わる前、城戸に会った時に感じた違和感。
浅倉はソファーに座る体制はそのままに、顔をこちらに向けた。

「お前は、この時間が本当の時間の流れとか言うやつだと思うか?」

城戸の病気。
浅倉聡志という存在。
以前には無かった、存在しなかった事柄。
北岡は本当の流れとやらが本当にこの時間なのかが図りかねていた。
当の質問された浅倉は、一瞬だけ間の抜けたような顔をし、その後何か納得したように、笑い始めた。

「・・・浅倉?」
「ハハハハッ!!・・・・成る程、これは良い・・・最高だ!!最高に・・いいキブンだ」

猶も笑い続ける浅倉に、北岡はわけが分からず、訝しげな表情をした。
一通り笑い終えた浅倉は、乾いた唇を舌で濡らした。

「浅倉・・・?」

何なのだいったい。
自分は何か可笑しなことを言ったのだろうか?

「お前はまだ知らないのか?」
「何だって・・・?」


―― 知らない?
―― 何をだ?


「お前はまだ会っていないのか?」


―― 会う?
―― いったい誰に?


「なら言うことはない」

浅倉はそれだけ言うと徐に立ち上がり、そのまま扉へと進んだ。
慌てたのは北岡だ。

「ちょっ!!待てよ、浅倉!!」
「言ったろ?俺から話すことは何も無い」

浅倉の肩に手をかけ、出て行こうとするのを防いだ北岡に、浅倉はさも楽しいといった表情で笑って見せた。

「じゃぁな」
「お、おい!!」

北岡の手を払い、そのまま浅倉は北岡の制止もなんのその、すたすたと歩いていってしまった。
慌てて後を追おうとしたとき、ふと廊下の角から誰かが此方にやってきたのに気がついた。

「北岡弁護士」
「・・・お前・・・」

スーツ姿の自分より背の引くい青年。

「貴方にお願いがあってきたんだけど」


それは、この時間の中で初めて会った仮面ライダーガイ―― 芝浦淳であった。














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