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――Two wishes and hope――












話は少し、遡る。
水谷がアトリでアルバイトをし始めた頃。



北岡弁護士事務所では、北岡が出かける準備をしていた。

「さて、と」
「先生」

出入り口で、由良がアタッシュケースを差し出す。
北岡は、一言礼を言うとアタッシュケースを受け取り、玄関を出た。

何時ものように由良が運転する車にて、クライアント先に出かける。

「で、今日は確かアイツのとこだっけ?」
「・・・ええ」

話しかけられた由良の顔は緊張気味であった。

「これも、腐れ縁って呼ぶのかねー?」
「・・・・」

そうこうして車を走らせ、着いた場所は『拘置所』。

「じゃぁ、ごろちゃん。行って来るから後よろしく」
「先生、やっぱり俺も・・・」
「大丈夫だって、警察だって馬鹿じゃない。じゃ、頼んだよごろちゃん」
「・・・はい」

別件の仕事での資料が足らず、由良には検察の資料室に行ってもらうことになっていた。

「ああ、ごろちゃん」
「何でしょう?」
「時間が空いた時でいいから、城戸の方も頼んだよ」
「はい。分かりました」

城戸の事。
入院している理由の裏にある何か。
その全てを、北岡は知りたかった。





拘置所の門を通り、受付で訪問者記録を書く。
名前、時間、訪問理由。

自分ほど有名であれば顔パスでも構わないのだろうが、其処は一応規則なので仕方ない。

記録用紙に書き込み、暫し待っていると案内の監視員がやってきて、面会室へと案内される。

「ここで、少し待っていてください」
「分かりました」

そして、どれ程だろう。
待つこと暫し。アクリル板の向かい側の扉が開かれ、クライアントが入ってきた。

「よう」
「・・・・」

所員に促され、クライアントは北岡の前に、背もたれにもたれかかる形で座った。

「・・・・さて」
「・・・・・」

北岡は備え付けのテーブルに書類を色々と並べ、事情聴取の際に使うテープレコーダーを置いた。

「じゃ・・・始めましょうかね、浅倉?」
「そうだな」








「・・・・何を、したんだって・・・?」

今日は浅倉と警察の職員を含めた三人での面会だった。
その中、北岡は驚愕の表情で職員に再度説明を求めた。

「浅倉は、夜遅く商店街を歩いていた女性が不審者に襲われているところに出くわし、女性を助け、
その際に犯人を殴り、過剰防衛として犯人に傷害罪で訴えられています」
「だ、そうだ」

職員の説明に、浅倉は興味がなさそうに呟いた。
しかし、北岡の表情はぽかんとしていた。

「あ、あの・・・・助けた?」
「え?ええ」
「・・・・」

暫しの沈黙。

「あの、北岡弁護士?」
「あ?・・あ、すみません」
「・・・・・」

北岡のあからさまな動揺に、小さく肩を揺らす浅倉。
どうやら笑っているようだ。

「すみません、こいつと二人にしてもらえますか?」
「分かりました。では、話しが終わったら声を掛けてください」
「はい」

職員が出て行き、アクリル板に挟まれた部屋の中で二人になった。

「・・・浅倉威・・・だよな?」
「ああ」

北岡は未だ信じられずに居た。
あの浅倉が人を助けた。
決してありえない話ではないのか?

「ちょっと変な質問してもいいか?」

様子を見てから聞こうと思っていたことがあったのだが、北岡は思わず質問した。

「何だ?」
「何かさ、変な夢・・・見た覚えないか?」

先日病院で会った城戸を見る限り、ライダー全員が夢で記憶を思い出すわけではなさそうだが、
自分は夢が影響していたため、浅倉もそうではないかと考えた。
そして、


「例えば・・・・ライダー、とかか?」


帰ってきた模範解答。
やはり、という感じが沸いた。
目の前にいるのは、仮面ライダー王蛇の浅倉威なのだ。

「・・・・・覚えてんだ?」
「ああ、はっきりとな」

北岡は、唖然と浅倉を見るが、浅倉は未だ椅子にもたれたままだ。

「それなのに、人助け・・・?」

あの浅倉が?
未だ信じられないと言った感じの北岡に、浅倉は少し罰が悪そうに椅子に座りなおした。

「悪かったな・・・」
「へ?」
「前の時間・・・迷惑をかけた」
「・・・・・」

浅倉は罰の悪い表情で、そっぽを向いていた。
しかし、北岡は唖然保然。

あの浅倉威が・・・謝った?

「お前、本当に浅倉か・・・?」

信じられず、再度同じ質問をするが帰ってくる返事は変わらず、

「ああ」

だった。










――カツン、カツン。

リノリウムの廊下を進む人影。
その手には小さめの紙袋。

受付で訪問記録を書き、目的の箇所に面会、間柄の箇所に家族と書き記す。

「ああ、いらっしゃい」
「どうも」

何度も着ていたらしく、所員と親しげに挨拶を交わす。

「悪いねぇ、今弁護士の方がいらっしゃってるんで、暫く待っていただけますかね?」
「・・・弁護士?」
「ええ、弟さんが指名した北岡弁護士です。TVとかに出てくる有名人だからお兄さんも聞いたことはあるでしょう?」

―――キタ・・オカ。

兄と呼ばれた男の唇が、声を出さず形取る。


「だもんで、面会が終わるまでちょっくら待っててくれませんかね?」

「・・・分かりました」



















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