――Two wishes and hope――
朝、いつものように忙しいアトリ。
「4番のテーブルにアッサムのミルクティー、それからハムのサンドウィッチ」
「8番にオレンジジュースと紅茶のお変わり」
「ホットミルクと紅茶のセットを一つ12番様!!」
何とかてんてこ舞いで朝のピーク時をやり過ごす。
そして、ようやく一息つけるピーク過ぎ。
ずー・・・。
紅茶を少々すすりながら飲む音が店内に響く。
「相変わらず大変そうだなここは」
「そういうなら、お前も少しは働いたらどうだ・・・・?」
一人のんびりと紅茶をたしなむ手塚に、秋山は不機嫌そうに言い返す。
「そうだよ手塚さん。少しは手伝ってよー・・・」
少女は疲れたーと、手塚に泣きつく。
余談だが、本日の城戸は、病院での検査があるため今日1日会うことが出来ないでいる。
それがなおさら秋山の不機嫌を煽っているのは言うまでもない。
秋山の怒りも、少女の泣きつきもなんのその。手塚はまた紅茶を一口飲んでから、
「そういうと思ってな、実は今日はこちらでアルバイトを用意してきた」
そう言った。
「アルバイト?」
手塚の言葉に、少女は顔を上げた。
「で、でも手塚さん、うち余りバイト代は弾めないよ・・・?」
バイト代が弾めないのに手伝えと言うのだから、結構少女も気が太い。
それはさておき。
「何処にいるんだ?」
不思議そうに辺りを見回すカンザキシロウ。
手塚は一度壁掛け時計に視線を向けた。
そして、
「もう来るだろう」
と、同時に扉が開くベルの音が店内に響いた。
「秋山蓮は・・・・おはようございます、じゃなくてこんにちわかな?」
「人を何度もフルネームで呼ぶな」
「じゃぁ、秋山、こんにちわ」
カウンターに座る手塚の隣には一人の大学生。
それを囲むアトリのメンバー。
「えっと・・・・」
「手塚さん・・・こちらの方は?」
不思議そうな顔をした兄妹。
それを見て、手塚は一瞬ぽかんとした表情を取ったが、次に手をポンと合わせた。
「そうだ、紹介するのを忘れていた」
「海之ぃ〜〜・・・・」
しっかりしてくれと、手塚に泣きつく青年。
「秋山はもう知っているな。ユイちゃん、カンザキシロウ、こいつは水谷浩哉だ」
水谷浩哉。
はて、どこかで聞いたことあるような。
少し考える様子の兄妹。
「元、エビルダイバーと言ったほうが分かりやすいか?」
笑みを浮かべる手塚に、
「「ええええぇぇぇ〜〜〜〜!!??」」
店内には兄妹の驚きの声が響き渡った。
「改めまして、元エビルダイバーの水谷浩哉です」
「は、初めまして神崎ユイです・・・」
「カンザキシロウだ・・・」
初めてなのか初めてではないのか、とても微妙な位置だが今は議論していてもしょうがない。
「で、バイトをしたいと言うのはお前か?」
「はい」
「あの・・でも、うちはあまりバイト代弾めませんよ?」
頷く相手に少女は申し訳なさそうに言った。
「それでもいいんです。どうか働かせてください!!」
頭を下げる相手にどうしたものかと顔を合わせる現従業員の3人。
「どうしてそんなに働きたいんだ?」
条件の良いアルバイトなら他にも沢山あるはずだ。
秋山の質問に、青年は恥ずかしそうに視線をさまよわせた。
「じ、実は・・・今付き合ってる人が居るんです・・・」
「プレゼントか」
「は、はい・・・」
頷く相手に、少女は申し訳ない表情をした。
「本当に、うちはバイト代弾めないんですよ・・・?」
それで本当にいいのか、と聞く。
あまりにも高いプレゼントというのは気がひけるが、やはり折角ならそれ相応の物を送りたいというのが人だ。
だがうちで働くと言うことは、そういった物も買えるか分からない。
もしかしたらそこらのコンビにで働いた方が稼げるかもしれないのだ。
それなのにこのアトリで働きたいというのは何故なのだろう。
「実は・・・お恥ずかしいながら、自分はアルバイトをしたことが無いんです」
と、青年は少女に答えた。
「だから、最初は知っている人たちがいる場所で働きたくて、海之に頼んだんです」
アトリのメンバーは顔を合わせた。
安いバイト代でも構わないと言ってくれる安上がりな性格。
この青年がきちんと働けるようになったなら、秋山の城戸との面会時間は増えるかもしれない。
その前に、休憩時間が増える可能性大。
良い事尽くめの三拍子。
そして、
「決定!!」
店内に響く声一つ。
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この次の28を更新しようとして、誤って27を消してしまった馬鹿な管理人・・・;
気づいたとき既に遅く、27の文章は全て消え、上書き保存で28が27として残っておりました。
バックアップなんか取ってない自分。
やってしまったぁああ・・・・と、心の中で絶叫。
楽しみにしてくださった方々、こんな馬鹿な狼ですが、
今後ともお付き合いの程よろしくお願いします。(深々)