――Two wishes and hope――






驚いた城戸の顔に、少し楽しさを覚えた秋山は、不埒な考えとして頭の中から追い出した。

「城戸、まだ入れるか?」

人数制限のある部屋では、一度出た人間ももう一度入れば2人目とカウントされてしまう。
受話器を取った城戸は申し訳なさそうに言った。

『ごめん、あと2人なんだけどリュウガと竜馬が来るんだよ』
「そうか」
「話しならここででも出来るでしょうが」

北岡の言い分に、秋山は北岡に受話器を貸した。(押し付けた)

十数分後。

「で、つまりお前は肺に異常があってここに物心着く前からこの部屋にいると。で外に出られない」
『ま、そんなとこ』
「この中なら死ぬことはないって言っても・・・まるで檻みたいだな」
『ん〜・・・住めば都って言っとく』
「・・・お前、前の時間より頭いいんじゃないの?」
『失敬な!!!』

城戸は生まれた時から肺に異常がある。
この中でしか生きていくすべが無い。
北岡に説明したのはこの事だけだった。全てを話す必要はないと、城戸が判断したのだろう。
なら、秋山はそれに従うだけだ。
城戸と北岡が受話器で会話していると、由良が少し話しをさせてくれと出てきた。

「お久しぶりです、城戸さん」
『由良さんも。元気そうだね』
「お蔭様で」

少し、秋山の眉間が動いたが、誰も気がつかなかったようだ。
唯の形式的な挨拶だ。そんな深い意味は無い。

「城戸さん、食べ物に制限は出てますか?」
『食べ物は平気なんすよ。俺、アレルギーもないっすから』
「じゃぁ、差し入れは・・・」
『えっ!?何か差し入れくれるんですか!!』

とたん、城戸の表情が笑顔になった。

『うっしゃーー』
「何かリクエストあります?」
『えっと・・・うんと・・・・あ!!あれ!!餃子!!!!』
「ぎょうざ・・・?お前そんなのが食べたいの?」

由良の横から北岡が受話器に話しかけた。

『そんなものって、北岡さん俺が由良さんに教えた餃子食べてないのかよ?』
「勿論、食べたよ」
『じゃぁ、すっげぇー美味いの知ってんだろ!?』
「まぁね。でも、ごろちゃんは何でも作れんのよ?この機会に、もと高級な料理とか、手のかかる料理とか、そうゆーもんを頼もうとは思わないわけ?」
『いーの。俺は餃子が食いたいの!!』
「ま、お前がいいならいいんだけど。にしても、相変わらずの庶民の舌だねぇー、お前」
『キーーーッ!!』

その様子を見ていた秋山は、ふとこんな表情豊かな城戸をここ最近見ただろうかと少し思った。
確かに元気だ。前のように馬鹿を言い、からかわれ、怒り。
だが、それでもどこか落ち着いた感じのようなものを感じていた。

北岡達を連れてきて良かった。

本当は、不安だった。
北岡たちを連れてきて、もし城戸に何かしらのショックを与えはしないかと。
けれど、それは早とちりだったようだ。
小さく安堵の息をついた秋山。

「じゃぁ、今度餃子作って持ってきます」
『うん、お願いします』
「任せといてください」

その時ちょうど、病院内で時刻を知らせる放送が入った。

「おっと、もうこんな時間か。次のクライアントは何時だっけごろちゃん」
「あと30分ですね。車で20分の場所です」
「じゃぁ、俺は仕事だからこれで行くよ」
『うん、来てくれてさんきゅーな北岡さん』
「おねしょすんなよ?」
『するかッ///!!!』
「じゃ、秋山も」
「ああ」

そういって、北岡はそのままエレベーターのある方へと歩き出し、由良は2人に一礼してから北岡の後に続いた。

「連れて来て・・・良かったか・・・?」
『うん、ありがとうな連』

秋山は久しぶりに城戸の心からの笑みを見た気がした。

『さっき出て行った筈の蓮が戻ってきたから、最初は忘物かと思った』
「俺が忘れ物なんて、お前みたいなことするか」
『いったなぁ〜!!!』

怒ってはいるものの、その顔に笑みが浮かぶ。
秋山はそのたびに、安心感が沸いてくるのを感じた。

『でも、本当にびっくりした』
「なんだ?」
『この頃の蓮、少し変だったから・・・』
「ッ!?」
『お前のことだから、北岡さん達を連れてこようか否か迷ってたんだな』

お前って、思い込み激しいからな〜。と、城戸がのんきに笑う。
いきなり爆弾を落とされた。秋山は勢い込んでむせ、しばらくごほごほと咳をする羽目に陥った。
城戸は、ただただ大丈夫かと必死に声をかけている。

「けほ・・・大丈夫だ」
『どうしたんだよ蓮?』
「なんでもない、気にするな」
『でも・・・北岡さん、元気そうだったな』
「ああ」
『由良さんも幸せそうだったし』
「良かったな」
『ああ・・・良かった。すっげー嬉しい』










病院の駐車場。
暑い日差しを物ともせず、北岡は歩いていく。

「ねぇ、ごろちゃん」
「はい」

車の前で立ち止まると、それまで後ろについてきた由良のほうへと向き直り、北岡は言った。

「城戸のこと、調べてもらえる?」
「・・・・」
「ほら、俺ってこーゆー仕事してるじゃない?だからさ、相手が嘘付いてるか付いてないか、分かっちゃうわけよ」
「城戸さんが何か隠してると?」

城戸は何かを隠している。それは秋山にも同じことだ。

「そう。何か俺には話せそうも無いこと、隠してる気がすんのよ。しかも、俺に関してのことで」

北岡は自分の病気について、秋山がまだ話していなかったことを覚えていた。
向こうは、城戸との再会で忘れたとでも思っていたのだろうが、自分はそんな馬鹿ではない。

「気づいてた?ごろちゃんが、城戸に『お蔭様で』って言った瞬間、秋山が小さく反応してたよ」
「秋山さんが?」

秋山が何故、そんな社交辞令のような会話に反応するのか。

「・・・分かりました。先生がそうおっしゃるなら」
「ありがとうね」

そのまま車に2人で乗り込むと、病院の外来駐車場には似つかない高級車は、その場を後にした。







「俺を誤魔化そうなんて、十年早いんだよ。ガキ共」











戻る
TOP







***********************************************
えー、ここで一区切り。
今回、短めに。
北岡氏はこれからもっと ご活躍の予定なので、皆様、楽しみにしていてください。











カウンター