――Two wishes and hope――






そのまま外来の前に居ては人目を引き過ぎるので、病院の中にある喫茶店へと移動した秋山等。

「で、なんなのよいったい?」
「それはこっちが聞きたい。貴様の病気は消えたんじゃなかったのか?」

席に着くなり、お互いを睨みながら言う二人に、由良は小さくため息を付いた。
さて、何から話せばいいのか。

「秋山さん、先生は以前の病気はありません」
「・・・」
「記憶を取り戻してから、慌てて病院で検査をしてもらったのですが、病気の影はまったくありませんでした」
「・・・そうか・・・」

由良の説明に、一先ず安堵の息を吐いた秋山に、未だ不服そうな顔をした北岡が声を掛けた。

「てかさ、なんちゃら山」
「・・・秋山だ」
「何で、お前は俺の病気が消えてること知ってんのよ?」
「・・・・・お前等は・・・」
「あによ?」
「いつから記憶が戻った?」

一瞬ぽかんとした、北岡は由良を見やった。
視線を向けられ、少し考えるように試案顔になる由良は暫くしてから口を開いた。

「俺は・・・話せば情けないんですけど、ちょっとした傷害罪で裁判所に行くことになって、そこで先生に初めて会ったんです。 それで、初めて会ったとき、何か引っかかる感じを覚えて、その夜から変な夢見るようになったんです」



北岡に初めて会った夜、拘置所で冷たく硬い布団に入って寝むる。
そして見た夢。
北岡弁護士事務所という少し洒落た内装の事務所。
今日会ったばかりの弁護士に『ごろーちゃん』と呼ばれ、彼の秘書や雑業を行っている自分。
何故だろう。違和感が無い。
そればかりか、泣きたくなる程の幸福感。
何なのだろう。この夢は。

夢から覚めると、泣いていた。

そして、それは裁判が終了するまで毎夜続いたのだ。

裁判が終わり、判決で由良は無罪放免となり出所しすることになった。
拘置所の出口にいる、警官に軽い会釈をし重そうな扉から一歩、外へ出る。
そこに、知らない車が止まっていた。
いや、知っている。自分はその車を何度も運転したではないか。
隣に、『先生』を乗せて。
車の扉が開き、中からスーツ姿の北岡が出てきた。


「今さ、新しい事務所を構えたばかりで秘書をしてくれる人、探してんのよ」
「・・・・秘書」
「だからさ、もう一度やってくんない?俺、もうごろーちゃんの料理じゃないと口に合わなくて」
「先・・・せ」
「どお?給料弾むよ」
「・・・はいッ!!また、頑張らせてください!!」
「お帰り。ごろーちゃん」
「お帰りなさい、先生」





「それで、今現在に至るわけです」
「俺も、大体同じよ。ごろーちゃんの弁護した日から違和感感じて、出所する前夜に夢で思い出して」
「それはいつだったんだ?」
「そうですね・・・今から、2年ぐらい前でしょうか」

別に、特に意味なく聞いた質問だったのだが、やはり自分より早く記憶が戻っていると言うことに、秋山は少なからずショックだった。

「で、そっちも答えてくんない?」
「・・・」
「何故、前が俺の病気について知ってるんだよ?そりゃー前の時、お前には俺の病気のことばれちまったけどさ、今回はさっきのが初対面のはずだろ」
「・・・」
「なのに、お前は俺の病気がないことを知ってて。・・・説明してもらおうか、何チャラ山?」
「・・・ちょっと、待ってろ」

秋山はそういうと、席を立ち店を出て行った。

「どこ行く気だろ?」
「さあ・・・・?」

残された2人。



秋山は、病院の外にいた。
手にしているのは携帯電話。
病院の中からかけるわけにも行かず、ここまで出てきたのだ。
短縮番号を押し、耳に当てる。

『秋山か?』
「ああ」

掛けた先はリュウガだった。
別に、お伺い掛けなくてもいいのだろう。
だが、そのまま会わせるのに気が引けたのは、やはりあの話を聞いたからなのかもしれない。

リュウガに聞かず城戸に合わせてしまうと、俺は、北岡に弱音を吐いてしまうかも知れない。
だから、リュウガに云うことによって、自分で自分に再び楔を付けたいのかもしれない。

秋山は一息ついてから、北岡のことをリュウガに告げた。

『北岡か・・・』
「ああ、これから城戸のところに連れて行く」
『分かった・・・だけど、まさか俺に連絡してくるとは驚いた』

軽く揶揄される声音。
秋山は小さく息を吐き、何も云わずそのまま通話を切り、そのまま先ほどの喫茶店に戻った。



「ようやく戻ってきた」
「お帰りなさい」
「・・・」

戻ってきたのはいいが、さぁ、なんと説明しようか。

「で、何チャラ山」
「秋山です。先生」
「何で、俺のことを知っていたのか教えてもらいましょうか?」

椅子に深く腰掛けたまま見上げてくる北岡に、秋山は小さくため息を吐いた。

「何よその態度?それが物を聞いてる人に対しての態度?」
「お前のは唯の傲慢と我侭だ」
「ちょっと聞いた?ごろーちゃん」

「ついて来い」

秋山は伝票を北岡に押し付けると、そのまま席を立ち上がりさっさと歩き出した。
文句を言いながら後を着いてくる北岡とそれを宥めながら着いてくる由良を引き連れて先ほど使ったエレベータへと乗り込み、目的の階数ボタンを押した。

「お前、だれかVIPの知り合いでもいんの?」

どうやら北岡も病院での階数仕組みを知っているようだ。
まぁ、この弁護士のことだからそういった客は五万といそうだが。

「・・・・」
「少しは答えたらどうよ?」
「・・・・」

北岡の呼びかけに応えず、秋山は着いた階で降りると、再び歩き出す。

「ちょっ・・・待てって!」

そのまま歩くこと2,3分。
目的の部屋の前で秋山が止まると、着いてきた北岡と由良は嵌めこみのガラスに不思議そうな顔をした。

「で、なんなのよ」
「ここは・・・?」

不思議がる二人をよそに、秋山は壁に備え付けの受話器を取り、中の人物に話しかけた。

「城戸」

中へと呼びかける。

「城戸?」
「それって・・・」

『蓮?』

帰ってきた受話器越しの声。
暫くすると、ガラス越しにあるカーテンがゆれ、目的の人物が出てきた。

「城戸!?」
「城戸さんっ?」

驚く二人と同時に、カーテンから出てきた城戸は、受話器を取るのも忘れ、ガラスにへばりつき「北岡さんに由良さん!?」と、口を動かした。








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