――Two wishes and hope――






6月半ば。
梅雨独特の湿気と、もうすぐ夏という高めの気温に、近頃は外を歩くだけで不快指数が高まること請け合いである。
電気量の問題もあり、節電にご協力くださいと、デパートやビジネスビルでは冷房の温度を高めたり弱めたり。
言ってしまえば生ぬるい温度に設定している。
そんな中、病院だけは病気や怪我云々の都合によりそういったことは無い。
確かに冷房は弱めに設定しているのだが、他で感じる生ぬるさは感じさせない。

秋山は今日も城戸の部屋に訪れていた。

「なぁ、今日って暑いのか?」
「不快指数が急上昇だろうな」

城戸の部屋は常に適温に設定されているため、外の気温はテレビで見る数字か、窓から見える人の服装でしか知ることが出来ないでいる。

城戸の入院費用について、リュウガから聞き出してから約1週間たった。
その間、今までのように城戸の部屋に訪れていた秋山は、未だ何も言えずにいた。
それを情けなく思いながらも、秋山はどうしても切り出せずにいた。

「蓮?」
「・・・いや、なんでもない」

少し呆けていた秋山の姿が最近多いと、城戸は何となく感じている。
ここ1週間だろうか。この部屋に訪れても、自分を見ながらどうもぼーっと何か考えている風なことが多い。
だが、約束したのだ。自分は秋山に全部話すと。
きっと、秋山もそのうち今悩んでいることを話してくれるだろう。
城戸は、信じることにしていた。

「そーいやー、アトリのメニューもサマーバージョンにしたんだって?」
「ユイに聞いたのか?」
「そ。昨日の午後に来てくれてさ。話したんだ」

昨日の午後、OREジャーナルの仕事をこなしているとカンザキ兄弟が来てくれて色々話しをした。



『ねぇ、真司君』
『何?』

テーブルを3人で囲んで、手土産の有名店のケーキを、蓮がもって来てくれた紅茶でおいしく頂いていると少女が思い出したように聞いてきた。

『今度、アトリのメニューをサマーバージョンにするんだけど』
『おばさんに言われてな。何か新しいメニューを考えるようにと』

どうやら、宿題を出されたようだ。

『それで、前に真司君が聞いてきた赤シソのジュース、あれを聞きたくて』

そういえば、前の時間でそんなことも取材で聞いてきたことがあったか・・・・待てよ?

『それなら、確か今日・・・うん、今日だね。リュウガが取材に行ってるはずだよ?』

前の時間、城戸が取材に行った場所殆どにリュウガが出向いている。
そして、会社への報告を終わらすとその足で城戸のところにやってきてその日の取材内容を事細かに話してくれる。そして、その記事を城戸が作るのだ。

『そうなの?』
『うん。きっと・・・シソは持ってこれないと思うから、取材の資料と瓶詰めのシソジュースをもって、6時ぐらいには来ると思うよ』

そんなこんなで、昨日はリュウガが来るのをそのまま3人で待つことになった。




「蓮も宿題だされたんだろ?」
「・・・・」

宿題と言われると、何故だか情けなく感じるのは気のせいだろうか・・・。
そんなことを考えながら、秋山は一応うなずく。
昨日、閉店後の掃除最中に店主であるサナコに夏用の新しいメニューを考えるよう言われているのは確かだ。

「で、何か考えた?」
「・・・・・」

考えていないわけではないのだが、まだはっきりとイメージが決まったわけではない。

「一応夏だからゼリーとかを考えてはいるが・・・・」
「そっか」

ふと時計を見やるともうすぐ昼になる。

「あ、もうこんな時間か」
「そろそろ戻るか」

秋山はそう言って出されていた麦茶を飲み干すと、立ち上がった。

「じゃぁまたな」
「ああ、明日」

そのまま病室をでて、来た時の用にエレベーターで1Fへと降りる。
出口に向かう通路は何通りかあるのだが、一番近いのは外来を通る方であり、秋山は外来が込んでいなければこの道を通るようにしていた。
そして、診察室の前を通りかかると中から扉が開く。

「それでは、ありがとうございました」
「お大事に」

その声に、秋山は思わず足を止め顔を向けた。
振り向いた先には、今も新聞やニュースなどでよく見かける、自分が良く知っている人物がいた。

「・・北・・・・岡?」
「・・・・ん?」

振り向いた相手の顔は、やはり北岡秀一だった。





何故?


何故こいつがこんな場所にいるんだ?


城戸とユイによって病は消えたのではなかったのか・・・?


なら、城戸は?ユイは?


何のためのに城戸は・・・ユイは・・・





あふれた感情を抑えることが出来ず、秋山は北岡の襟を掴んだ。

「どういうことだ!?」
「ちょっ何だよ!?」
「貴様ッ病気は治ったんじゃないのかッ!?」
「何なんだよッ!!?」

そのまま壁に押し付けた秋山は猶も強く、北岡の襟を握り締めた。

「離・・・せよッ!!」
「貴様ッ!!!」
急に始まった騒ぎに他の外来患者や看護師等が小さく騒ぎ始めた。
だが、秋山には周りを気にしている余裕は無かった。

「答えろ!!貴様の病気は消えたんじゃなかったのか!?」
「く・苦しいって・・・ッ!!」
「秋山さん!!」

誰かが秋山を北岡から剥がした。
その力の反動で、秋山は地面に軽く投げ飛ばされる形となり、とっさに受身を取る。
そのまま慌てて北岡の方を見やると、其処には北岡を庇うように、由良吾郎が立っていた。

「落ち着いて、ください。秋山さん・・・」
「お前は・・・・」
「何なんだよ・・・いきなり・・・」








城戸


お前が望んだ世界は


どうなってしまったんだろうか










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