――Two wishes and hope――










話しを終えてからどれくらい経っただろうか。徐に、秋山が口を開いた。

「リュウガ」
「何だ?」
「城戸の病気は良くなることはあるのか?」

それは悪くなることはあっても良くなることはあるのか、と言われていることに気がつく。

「真司の病気は、真司の願いである俺達が原因だ」

リュウガは竜也、竜馬、飛来を見た。

「つまり・・・俺達がこの世で息をし続ける限り、真司の重荷は消えない。それに、例え俺達全員が死んで、真司の重荷が少しでもなくなったとしても、まだユ イちゃんとの願いが半分ある。だから、完治は一生無理だ・・・・」

考えたことが無いと言えば嘘になる。
自分が、自分達が死んでこの世から消えれば、真司の様態はまだ良くなるのではないだろうか。
少女の様子から見ると、もしかしたら真司も半身不随のような状態になるかもしれない。
けれど、それでも外には出ることが出来るかもしれない。
だが、自分達はこの世で生き過ぎた。
もし自分達が死んで消えたとしても、この世に生きた痕跡が残ったままではやはり、真司はあの部屋から出ることは出来ないのでは無いだろう か。
そんな考えが何時も最後に浮かんでくる。

結局、真司を解放することは出来ない。



そんな時、昼休憩を終えるチャイムが鳴った。

「じゃぁ俺、次もあるから、これで行くな」

秋山は何も言わずに、何処を見るでもなく机を見ている。
手塚は、何時ものように感情を出さない表情でこちらを見ていた。

「・・・何だよ?」
「いや」

他の3人は、さっさと席を立ち自分より先に扉へと歩き出した。
飛来は一度だけ秋山に視線を向けるが、結局何も言わずに出て行く。
その3人に続いてリュウガは廊下に出た。

聞かれたことに対しては全て話した。

「・・・リュウガ・・・」

廊下を歩きながら、竜馬が口を開いた。

「・・・何だ?」

ぶっきらぼうに返すが、竜馬の言いたいことを察していたリュウガは、どこか不安そうだった。

「この際、全て話せばよかったんじゃないのか?」
「・・・・」

真司のこと。
その病気のこと。
この時間でのこと。

そして、

「何故カンザキユイについて話さなかった?」


少女のこと。


リュウガは一度だけ立ち止まったが、そのまま何も言わずエレベーターに乗り込んだ。






部屋に残された秋山と手塚。
秋山は未だ椅子から立ち上がる様子は無い。
それを確認してから手塚は立ち上がった。

「秋山」
「・・・何だ?」
「俺は浩哉との約束があるから行くが、お前はどうする?」

そこで初めて秋山は手塚を見た。
しかしその表情からは何も読み取れず、秋山は再び机に視線を戻した。
ここにこうして座っていても仕方が無い。もし、なにか講義か会議で誰かが入ってきたら怪しまれるだけだろう。

「・・・戻る」

立ち上がると、そのまま先の四人が出て行った扉から廊下に出る。
その後から手塚が部屋の明かりを消して出てきた。
そして、二人共何も言わずに丁度来たエレベーターに乗った。
エレベーターの壁は硝子で、向こうの景色を眺めることができる。
見えるのは街と、未だ降り止まない雨と雲。
そのまま何も会話をせずに1階に来ると、遠くから手塚を呼ぶ声が聞こえてきた。

「海之!!」
「ああ、浩哉か」

秋山が声のする方視線を向けると、自分と同じぐらいの背丈の青年がこちらに小走りに近寄ってきた。
これが、水谷浩哉。
スポーツはあまりしなさそうな、どちらかと言うとインドアというイメージを与える相手は、ふとこちらに視線を向けた。

「初めまして・・・に、なるかな・・・?こんにちわ。エビルダイバー事水谷浩哉です。秋山蓮」

そのまま頭を下げる相手に、ただ「ああ」とだけ答える。
先程の話しの為か、今はあまり考え事が続かないで居た。

「今日は、秋山蓮も一緒に?」

相手の青年は確認を取るように手塚へと視線を向ける。

「いや、丁度秋山と一緒になっただけだ」

向けられた手塚は苦笑しながら、ゆるく首を振った。




気がついたら、秋山は城戸がいる病院前に居た。
車を何時もの場所に止めると、入口の前に立つ。
その正門の上を見上げると、城戸の部屋にある嵌め込み式の大きなガラス窓が見て取れる。

―― 試薬
―― 実験動物

先程から秋山の頭には何度も繰り返されている。
城戸は知らないのだとリュウガは言っていた。しかし、城戸は気づいている。

『NPOの援助を受けながら、まだ違う何かがあるように感じるんだよ』

昨日、城戸の部屋で話した時に言っていた。
何か違うものがあると。それが、何かは分からないが、と。
リュウガには、城戸に言うなと言われた。
話を聞く前、秋山は今日聞いたことを城戸に伝えるつもりでいた。
しかし、今はどうだ。
言うか言わないか迷っている。

城戸は約束した。

『分かった。蓮に言うよ、全部。約束する』

それは、こちらも全部話すという約束。
なら迷う必要もないだろう。だが、どうやって言えばいい。
お前は実験動物なのだと、部屋に撒かれる薬は、全て試薬なのだと、そう言えば良いのか。
勿論、両親の苦渋の決断だったことも言えば少しはマシかもしれない。
しかし、結果的には言っていることに変わりはない。
秋山は一つ溜息をつくと、病院へと入った。

何時ものようにエレベーターを操作し、乗り込む。
最上階に着くまで、城戸の部屋に着くまで、秋山は何も考えないことにした。

「・・・城戸」

守りたい存在。
それはただの自分のエゴでしかないのだろうか。


部屋の前に着いて、何時ものように受話器越しに呼ぶ。
するとやはり、何時ものように城戸の返事が直ぐに返ってきて、秋山は部屋の中へと入っていった。

「いらっしゃい蓮!」
「・・・・」
「今日は随分遅かったんだな」
「・・・・」

何時も秋山は午前中にやってきて午後には帰るのだが、今日は午後に来た。
何も連絡を受けてなかった城戸は何時秋山が来るのか、もしかしたら今日は来ないのではないのだろうか、少々不安になっていたところだった。

「どうしたんだよ?」

ふと、城戸は何時もの秋山とは少し違うように感じた。
相変わらず無口だが、此処まで塞ぎ込んでは居ないはずだ。

「蓮?」

何かあったのだろうか。
昨日までは別に普段と変わらない様子だったのだが。
今日の午前中来なかったのも、何か有ったからなのだろうか。

「蓮・・・?おい、どうしたんだよ・・・?蓮ってば・・・?」

秋山は、何も言わずに何時ものように椅子に腰をかけた。
城戸は不安になりながらも冷蔵庫から缶コーヒーを取り出すと秋山の前に置いた。

「何が、あったんだ・・・?」



―― 俺は、このまま話すのか?
―― 城戸に、話すのか?


秋山はどこか、他人事のように考えていた。

「蓮?」

秋山の前に、不安そうな城戸の表情がある。





―― 守りたい存在。






「蓮・・・・?」






秋山は缶コーヒーを開けて、一口飲んだ。




「・・・何でもない。唯の・・・寝不足だ」




そして、何時ものように小さく笑った。












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一先ず、此処で一区切りとさせていただきます。
勿論、続きます。(笑)
(前と、同じ文・・・かな?もしかして;)







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