――Two wishes and hope――
「お前等は・・・確か・・・」
秋山の前に立つ2人の青年。
片や紅く長い髪を一まとめにし、片や黒い髪を首筋までの短く切り。
間違えることは無い。城戸の病室に初めていった時に会った、前の契約モンスターである。
実をいうと秋山はあの時から、一度もこの二人に会うことは無かった。
リュウガには数回すれ違うように会ったことはあったのだが、何故だかこの二人にはあわなかった。
そして、ダークウィングにもだ。
因みに、手塚の契約モンスターであったエビルダイバー事、水谷浩哉という青年にもあってはいない。
確か城戸が言うにはこの二人はリュウガと同じ大学と言っていたが、手塚が説明するには院のことだという。
だが、院はこの棟の隣に建てられており、余り用が無いと院生はこちらに来ないとも手塚に聞いたことがあった。
では、何故この2人はここに居るのだろう。
「秋山蓮」
「何だ?」
時田竜也は座っている秋山を見下ろす形で名前を呼んだ。
「真司のことについて、リュウガに聞きに来たそうだな」
「ああ」
「悪いが、俺達も同席させてもらう」
「・・・かまわん」
竜也の横に立っていた竜馬に言われ、秋山は少々訝しげな表情のまま頷いた。
2人を経ち合わせなければならない何かがあるのだろうか。
そう考えていると、秋山の隣に竜馬、竜也と並んで座った。
再び、雨の音が聞こえてくる。
「一つ、聞きたい」
「何だ?」
暫く雨の音を聞いていた竜也は秋山を見ずに言葉を発した。
視線は窓ガラスを伝い流れる水を見ているようだった。
「何故、真司のことを聞く?」
「理由がいるか?」
「俺は理由を欲してる」
「・・・・・」
秋山が城戸のことを知りたい理由。
はっきり言ってしまえば、そんなものは無い。無いのだが、それでもきっかけみたいなものは無くはない。
だが、余り他人に公言してもいいようなことでもなかったりする。
「どうした?」
暫くの沈黙に、竜也はその金に近い薄茶の相貌を向けてきた。
竜馬も同じようにこちらを見てくる。
「・・・城戸のことを知りたい。ただそれだけだ」
「その知りたい理由を俺は聞きたい」
はぐらかす様な答えに、竜也は眉間に少し皺を寄せ、再度訪ねた。
その目はふざけているのか、と問うている。
別段ふざけたつもりは無かったのだが・・・。
「城戸が好きだからだ。その他の理由がいるか?」
他の理由を述べた方が良いか、と言われ竜也は目を瞑りゆるく首を横に振る。
まだ許せる気持ちは無い。
無いが、信じてもいいのかもしれないという気持ちは少しずつ自分の中に芽生え始めている。
その時、竜也の携帯電話にメールが入った。
携帯電話の画面を開くと、着信は飛来大輔。
内容は、『今、門の前に着いた。これから食堂に行く』との簡略な文だった。
「秋山蓮」
「・・・何度もフルネームで人を呼ぶな」
「では、秋山」
「何だ?」
「これからダークウィングがここに来る」
「何っ!?」
「アイツは常々お前に謝りたがっていたんだが、中々会うことが出来ずに居た」
「・・・・」
飛来は前の時間で秋山がライダーになった原因を作り出したことに、強い罪悪感を今も尚持ち続けている。
そのため、何度となく秋山に会おうとしたのだが、結局挫折していた。
「だから、リュウガが来るまで悪いがあいつの相手をしてもらう」
「拒否権は無いのか?」
「欲しいのか?」
「いや。・・・・いらないな」
真司が喜ぶことはどんなことでもしてやりたい。
それが竜也の考えること。
秋山と飛来を会わせる事も、真司は願っていた。
だからの行動だったのだが、何故か竜也から見た竜馬の表情が何処と無く不機嫌に見えた。
丁度その時、食堂の入口から、一人の青年が入ってきたのが見えた。
襟足が隠れるぐらいの黒い髪をした青年は、バイクのメットを小脇に抱えこちらへと駆け寄って来る。
「ようやく来たか」
「・・・すまない。道が、混んでいて・・・」
バイクから此処までの道を走ってきたのだろう、青年の息は酷く荒い。
「・・・・・ダークウィング、だな?」
そんな中、秋山の声が静かに聞こえる。
椅子から見上げる相手は、横の二人とそう大した違いは無い背丈だ。
「・・・・ああ、そうだ。仮面ライダーナイト。秋山蓮」
「・・・・・・・・」
静かに相手を見ていた秋山に、飛来は行き成り体を曲げて、秋山に深く頭を下げた。
「・・・・すまなかった」
「・・・・何故謝る?」
理由は、先ほど竜也から聞いていたから知っているが、何故相手が謝るのか、どこか不思議な気持ちが浮かんでくる。
だから、秋山は何故?と、問うた。
「前の時間、お前の一生を狂わせた原因は俺にある」
「・・・あれは、カンザキシロウの実験の所為だ。お前も被害者だろう」
カンザキシロウの研究は、ダークウィングを無理やり鏡の世界から呼び出すものだったと言う。
―― これは、再会してから聞いた話だ。
鏡の世界とこちらの世界を繋ぐきっかけが必要だったカンザキシロウは、あちらのモンスターをこちらに一回呼び出すことを考えた。
そうすることによって、こちらとあちらを繋ぐ道を作り出したかったのだ。
そしてその為には生贄となる何かが必要だった。そのために、選ばれたのが、嘗ての秋山の恋人であった小川恵理だった。
研究は、かなり強引なやり方でダークウィングを引きずり出したらしい。
そのことによる一種のパニックによって、ダークウィングはかなりの暴走をとったのだとカンザキシロウは言っていた。
詰まりは、――結果的には罪であったとしても――あの時のダークウィングにも罪は無かったのだ。
「謝ることは無いんじゃないのか?」
「・・・・すまなかった」
こちらが譲ってもどうやら相手は一歩も引く気はないらしい。
少々呆れて、静かにこちらの様子を見ていた双子へと視線を向ければ、赤い方は意地の悪い笑みを浮かべ、黒い方は何が気に食わないのか少し不機嫌そうにダー
クウィング――飛来大輔を見ていた。
「俺に謝るなら、その姿勢を見せてもらおうか」
「・・・?」
仕方なく、未だ頭を上げない相手にそう言う。今度は困ったような不思議そうな表情を浮かべた相手の顔が上がった。
その相手を座ったまま秋山は見上げた。
「その謝罪の気持ちを忘れるな。その姿勢でこれから生活して行け」
「・・・・それだけ・・・か?」
今度はどこか泣き出しそうな表情だ。
随分と――こいつも城戸と同じように――表情が変わる。と、どこか考えながら秋山は「ああ」とだけ言った。
「他には・・・無いのか・・・?」
「死ね、とでも言って欲しいのかお前は?」
そう言うと、相手は目を見開いた。
どうやら、図星だったようだ。何処までネガティブに考えれば気が済むのだろう。
呆れて秋山は息を吐いた。
「悪いが、そんなことは言わんぞ。逆にそんなことをされたら迷惑だ」
「・・・・すまない」
「聞き飽きた」
「だ、だが・・・」
「お前は生きろ」
あの時、城戸に言った言葉をまた口にする日が来るとは・・・。
少々呆れながら秋山は小さく笑った。
相手はとてつもないショックを受けたかのように呆然としているだけだった。
「生きて、その罪償え」
唖然としたまま、震える手足。
そして、口元。
「・・・・・ありがとう・・・・」
今度こそ飛来は力が抜けたようにその場に膝をついた。
終業を告げるチャイムが響いた。
それと同時に、約束の食堂へと向かうべくリュウガは、講義室を出て廊下を歩き出す。
他の生徒達がその横を小走りに通過して行った。
秋山に話すことを頭の中でまとめていたため、今日の講義は右から左へ流れていくばかりだった。
後で、知り合いにノートを借りる羽目にになるだろう。
軽く息を吐くと、リュウガは廊下の先に見知った顔が居ることに気づき、酷く眉間に皺を寄せる。
しかも、相手はこちらに気づき歩み寄ってくる。
こんな時に会うなんて・・・。
偶然なのか、狙ってやってきたのか。
いや、こいつなら十分、狙ってやってきたと言える。
なんせ、前々からこいつにもしつこく聞かれていたのだ。真司の入院費用について。
「何故、貴様がここ居る・・・?」
直ぐ目の前に来た相手にリュウガは睨みつけた。
「浩哉との約束。それから・・・・」
相手は何処からか取り出したコインをピィィンと弾き、落ちてくるコインを手で掴み、開いた。
「『向かう先に知り望むことがある』と、出たからだ」
掌のコインを見せ付ける相手は――手塚は、静かにこちらを見ていた。
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*訂正2009年8月2日
ダークウィングこと飛来大輔の髪の長さを「スポーツ刈り」と書いてましたが、
絵の方では後ろ首に掛かるぐらいの長さにしてました;
これに気づいて、文章の一部を変更することにしました;