――Two wishes and hope――








雨が降る日、ドラグレッダーであった時田竜也の携帯に一通のメールが入った。

『秋山蓮に真司のことを話す。悪いけど、一緒に来て欲しい』

件名は無い。簡略な文のみだ。
それを横にいるドラグブラッカーであった竜馬に見せ、ついでにダークウィングである飛来大輔へも転送しておく。
今は丁度大学院の講義が終わりを告げた時間だった。
リュウガはこれから講義だから、秋山に話すのには昼休憩だろう。
そう考え、竜也はふと今の城戸の経緯を思い出していた。



二人はドラグレッダーの契約者であった龍騎――城戸真司の願いによって、新たな時間の中、再び生を受けた。
双子として生まれたお互いは、物心ついたときから――いや、着く前から、もしかしたら生まれる前から、自分達が異形のものとして、鏡の世界で空を自由に飛 んでいた記憶を持ち合わせていた。
そして、きちんと物心つくころには、自分達が生きていることは城戸の願いなのだと心と頭の何処かで理解していた。

物心がついて記憶がしっかりしてきたある日。
母方の親戚である、城戸家に待望の赤ん坊が生まれた。しかも自分達と同じ双子。
予想していた通り、その双子は方や真司、方やリュウガ(龍牙)と名づけられ、母親から「4人で遊べたら楽しいね」と言われ、心から4人一緒に遊ぶことを望 んでいたのだ。
しかし叔母が――つまり双子の母――退院したと連絡が入ったのだが、真司はまだ病院に残っていると自分達の母親が電話で話しているのを聞いた。
それについて、幼い自分達は子供の知識で、ただ単に入院と言うものが長引いただけなのだと思っていた。

「真ちゃんはまだおうちに帰れないけど、帰ってきたら皆で遊びに行きましょうね」

母の言葉に頷いた。
そして再び数週間経ち、真司も無事に家に帰ったと連絡が入ったため、家族で見に行くこととなった。
大き目のベビーベッドに二人で仲良く並んで寝ていた姿は今でも鮮やかによみがえる。
まだ幼すぎる元契約者達に、自分達はなんとも言えない感情で、お互いの顔を見合わせて笑いあった。
その笑い声に目を覚ましたのか、いつしか赤ん坊の真司とリュウガは自分達の顔をしっかりと見ていた。
そして、真司はドラグレッダーである竜也に、リュウガはドラグブラッカーである竜馬にそれぞれ手を伸ばした。
首も据わっていない乳飲み子の小さな手に心々恐々しながら握った。
握ったら潰してしまいそうな小さな手は、予想以上に強く握り返してきて、今生きていることを伝えてくれた。

その後、何度か会いに行くようになったのだが、何時の時からか真司の方だけが嫌な感じの咳をするようになった。
それに次いで入院もよくするようになってしまい、よく病院まで見舞いに行った。

ある日、母親に電話がかかってきた。
母の妹、真司たちの母だった。

『お姉ちゃん・・・どうしよう・・・どうしたらいいの・・・・?』

電話からこぼれる声は深い悲しみと不安に支配されている。

「貴方は母親なのよ?もっとしっかりとして!」

それに対する自分達の母は出来るだけ強く応対していた。
電話から数日後。城戸家は一週間程、山奥に住むことになったのだと母に告げられた。
その理由を聞くと、

「真ちゃんは体がいたいいたいで、お山のある所がいいんだって」

と、悲しそうに告げた。
離れてしまい、今までのように頻繁に会えなくなるのは悲しかったが、そういう理由なら仕方ないと幼い自分達は頷いた。
しかし、一週間経たないうちに城戸家は再び東京に戻ってきた。
真司の様態が良くなって向こうで住まなくても良くなったのだと、自分達は喜んでいたのだが、それは違っていた。
城戸家が東京に戻ってきてから、親に会いに行こうと何度となくせがんだのだが、両親はなかなか首を縦に振らない。
業を煮やし、自分達だけで会いに行こうと話し、家から出て大通りを二人一緒に手を繋いで歩いていたのだが、道が分からなくなり結局迷子となってしまい、近 所の 交番で保護された。
その後、車で迎えに来た両親は、自分達の行動に怒るでもなく、そのままとある白い大きな建物に連れて行った。
どこなのだろうと、不思議がっていた自分達に病院だと教えてくれたのは父だ。其処はとても大きく、自分達が考えていた病院という物とはかけ離れていた。
そしてエレベータを使い最上階まで上り、とある部屋の前まで来た。そこは、大きな大きなガラスの窓に、大きな大きなカーテンがあった。
何時ぞや父に連れて来てもらった水族館を彷彿とさせたのを覚えている。
そして、母が壁についていた電話機で何かを話しかけると壁伝いにあった扉から入った。
入って暫くするといきなりドライヤーのように空気が出てきて驚き、あれよあれよと次々と扉を開き中に入っていった。
最後の扉を開くと、中は自分達の家のリビングダイニングぐらいの広さで、城戸の家で見たベビーベッドが一つ置いてあった。
その横に真司達の母親が悲しそうに笑いながら手招きしていた。
ベッドに寝ているのは真司。リュウガは母親の腕の中で寝息を立てている。

「真司に会いに頑張ってくれたんだってね、二人ともありがとう」

そう言い、自分達の頭をなでてくれた叔母の手は前よりも細くなった気がし、

「ここが真ちゃんの新しいお部屋なのよ」

と、教えてもらった。
幼かった自分達にはとてもとても広く、寂しい部屋に感じた。
それから、自分達はよくあの部屋を訪ねるようになった。小さな頃は両親が付き添い、真司たちが大きくなってくると週末はよく泊りがけで遊びに行くことも 会った。
そして、どちらの家の両親がいない時は、前の時間について話したり、4人で前の時間を再現して遊んだりしていた。




そうやって過ごしていたある日。
17歳になった竜也―― ドラグレッダー ――は、高校2年生となった夏、何時ものように城戸のいる病院へと向かうため電車に乗っていた。
その日、竜馬―― ドラグフブラッカー ――は部活で後から城戸の部屋で待ち合わせる約束をしていた。
病院の最寄り駅である東京駅で降り、複雑な駅口内を目指す出口に向けて歩く。
今は夏。セミの声が耳障りに聞こえてくるが、こればかりはどうしようもない。
目的の出口まで来ると、電車の中で丁度よく涼んだ体が再び熱い気温と、太陽の光で汗をかき始めるのを感じた。
暑い中歩くのは気がひけるが、真司が待っていると気分を奮い立たせ、人ごみの中を歩き出した。

そうして、呼び止められたのだ。
当時15歳であった仮面ライダーライアの手塚海之と9歳のエビルダイバーである水谷浩哉に。
城戸に会わせて欲しいと言われ、少し迷ったのだが真司が喜ぶだろうかと思い、連れて行った。
手塚達との再会に真司は喜んでくれ、安心した。
しかし、

「なぁ、竜也」
「どうした真司?」

手塚たちが帰り今部屋には竜也と真司がいる。
竜馬はまだ来ず、リュウガは手塚たちを下まで送っていった。

「手塚君達、連れてきてくれてありがとな」
「お前が喜ぶのなら何だってしてやる」
「・・・過保護」
「何が悪い?」

開き直ってそういうと、真司は笑いだし、悪くないと告げた。
そして、笑っていた顔を引っ込め、少し寂しそうな笑みを浮かべた。

「一つ、お願いがあるんだ」
「・・・何だ?」
「もし・・・さ、蓮が俺に会いに竜也やリュウガ達の所へ着たら・・・ううん、来ないように細工して欲しいんだ。後、ユイちゃん達の方にも」
「逢いたくないのか?」
「逢いたいよ?逢いたいに決まってる。でもね、記憶が戻ることが幸せとは限らないと思うんだ」

窓辺にあるソファーに座りながら、城戸は目の前の空を眺めている。
今日、手塚の話しを聞いたところ些細なことで前の記憶は蘇るのだと分かった。

「ユイちゃんやカンザキシロウには前の時間で味わえなかった楽しい時間を過ごして欲しい。それに、蓮にはさ・・・・」
「秋山には?」
「・・・うん、幸せになってもらいたいんだ。あいつ、前の時間ですごく辛そうにしてたから」

窓の外には鳩が2羽、飛んでいくのが見える。

「きっと思い出すとあいつは、引きずる・・・そんで、俺を探そうとすると思うんだ。でもさ、出来るだけ引きずって欲しくないし、思い出して欲しくないん だ」
「思い出して欲しくない?」
「折角何もない時間に生まれたんだ。俺のことを知ればきっと、少なからず足かせになるんじゃないかなって思うんだ。特にユイちゃんとは約束破っちゃてる し」

きっと、あの少女も何かしら抱えながら生活をしているだろう。
しかし、自分よりは良い筈だ。だからこそ、今の自分を気にしないで自由に生きて欲しい。
それが今の城戸の考えだった。

「それが真司の願いなのなら、聞くことにしよう。後でリュウガ達にも話しておく」
「ありがと」
「だが一つだけ言っておく。俺達は生まれてからずっとお前達を見てきた。しかし一度も足枷と考えたことは無い。それは叔母さんたちだってそうだ」
「・・・・うん。分かってるよ。ありがとうな、竜也」

その後、真司の希望をリュウガ達に話した結果、真司に繋がるであろうOREジャーナル――の出きるビジネスビル一体にあるガラスや鏡といった物全てに細工 を施した。
過去にライダーであったものにだけ発動する仕掛け。
リュウガは元は鏡の世界の住人だったためか、今でも鏡を使った些細なことだったらできる力を持っており、それを応用した。
無論自分達も少しはできるのだが、何故かリュウガの方がそういった力は強い。
仕掛けは、ライダーであった者が細工を施したガラスや鏡の前を歩くと、OREジャーナルへの道が他の道に繋がてしまうといった極々簡単なもの。
しかし、それでも近寄ってくる者は出るだろうと考え、更に近寄ってきた者には酷い頭痛を齎せる仕掛けを追加させた。
そして、リュウガがOREジャーナルへと入社することによって其の細工を更に強固のものとしたのだ。
それは大きなの要塞のようにOREジャーナルを囲んでいた。

竜也と竜馬は大学に通っていたのだが就職せずダークウィングである飛来大輔と大学院への道を選び、リュウガは高校を出てからOREジャーナルへと入社し た。
そして編集長である大久保に真司のことを話し、次の月には真司も新入社員として入社することになった。
そうして一年が過ぎ、やはり大学に通った方がいいということになり、リュウガはOREジャーナルでアルバイトをしながら今の大学に通うようになった。
そうしていても、真司へ繋がる物には細心の注意を払っていた。
そんな中、カンザキ兄妹が何やら動き出していたのを感じ取り、リュウガは尚更のこと細工を念入りにした。


しかし、そんな中たどり着いてしまった一人の男。
秋山はリュウガの施した細工の中、たどり着いてしまった。
だからリュウガは仕方なく秋山たちを連れてきた。
真司の願いを断ったことは一度も無かったリュウガだったから、驚いた。
リュウガは悔しげに顔を歪めており、最後は仕方ないと苦笑していた。





「真司のこと・・・か、なら入院費用だろうな・・・・」
「やはり、そう思うか?」

大学院の学生食堂。
リュウガが通う大学の隣に立てられている建物だ。
そこで竜也と竜馬は二人でコーヒーを飲んでいた。
リュウガから連絡があってから二人は一度ここへ来た。特に理由は無く、なんとなくだった。

「リュウガは余り話したくは無いだろうな・・・」

竜馬の言葉に頷くことで返事を返す。
真司の入院費用は自分達が逆立ちしても出るような額ではない。
一生がむしゃらに働けばなんとか2人で5年は持つか持たないかといったぐらいは出せるかもしれない。
そんな状態だが、リュウガは大学に行き、二人の両親は外国へと出稼ぎだが、行っている。
小さい頃から一応援助団体からの補助もあった。
だが、それだけでは到底足りる物ではないのだ。真司の入院費用は。
つまりは、それを更に支えられる何かがある。
その何かを知っている2人はどうしても不安になる。

「俺だって話したくは無い」
「知っている」

竜也の言葉に静かに頷く竜馬だが、其の顔は少しだけ不安そうにしていた。
もし、秋山が本当のことを聞いたら、それは真司へと流れてしまうのではないだろうか?
真司の耳に入らなくても、事実を聞かされた秋山はどうなるだろう。

「しかし、リュウガが決めたんだ。きっと秋山なら大丈夫だと感じたんじゃないのか?」
「どうだか・・・あの男は信じられんな」

竜也は――ドラグレッダーは前の時間の秋山を知っている。
今思い出しても腹立たしいのだ。あの頃の城戸に対する秋山の態度が。
仕方ないのだとは分かっている。向こうも必死だったというのは百も承知だ。
しかし、今の竜也にはどうしても許せないという感情が心に胡坐をかいているのだ。
それは真司やリュウガの兄のような存在として生きる自分の我侭なのだとは理解している。
しかし、真司が喜ぶのであればできることはしてやりたいという思いもある。

「やはり、なるようになるしかないのだろうな・・・・」

竜馬の言葉にコーヒーを一口飲み、横にある窓を見上げた。

「雨か・・・・」

今更の様に呟くと、残っていたコーヒーを全て飲み干した。

「行くか?」
「ああ・・・ここでぐだぐだしていても仕方ない」
「そうだな」

そうして二人で隣の大学へと歩き出した。







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