――Two wishes and hope――
次の日は雨が振っていた。
秋山は、アトリの店主であるサナコに断り本日休暇を貰った。
そして、向かったのは城戸がいる病院ではなく、リュウガのいる大学である。
昨日のように、駐車場に車を止め入口へと向かう。さすがは大学であって、誰が入ろうとも止める人間はいない。
そして、天井をガラス張りにしてある中庭まで来たところで、秋山は目的の人物を見つけた。
「リュウガ」
「・・・・・・・・・・・・・」
いきなり現れた秋山に、いきなり声をかけられたリュウガは、何故ここに秋山がいるのだろう、今日は忘れ物をしていないはずだ、そもそもコイツがここまで来
ていることの意味は何なのだろう・・・?
頭の中がパニックを引き起こしていた。
「一つ聞きたいことがある」
「・・・へ?」
「へ、じゃない。聞きたいことがあると言ったんだ」
聞こえないのか?と、眉間に皺を寄せる秋山を見て、リュウガは何となく察知した。
今の秋山は、城戸真司という人間を中心として動いてる状態である。
その状態の中、わざわざこんな午前中からしかも天候の悪い日だというのに自分に会いに来るのだ。
用件は真司のことについてに決まっている。
そして、リュウガの中には、一つ聞かれるであろう内容に心当たりががあった。
それは、
「・・・何?」
「城戸の入院費のことについて聞きたい」
今の病院の入院費用。
それはリュウガを始め城戸家に対して、ある意味タブーでもあることだった。
「・・・喋らないって言ったら・・・?」
その言葉に、秋山は少しだけ目を見張り次に意地の悪い笑みを浮かべた。
「借りを返してもらおうか?」
「・・・・・」
昨日の借り。
昨日秋山がいなければ確かに、自分は危なかったのだ。
あのまま真司の部屋に戻って、再び大学に行くとしたら、もう教授はレポートを受け取ってくれなかったのだ。
まさか、こんな風に施行されるとは思いもしなかった。
しかし、借りた借りはさっさと返すのが自分の流儀。
それに、秋山になら話してもいいのかもしれない。真司のことを深く考えてくれるやつなのだから。
リュウガはそう考え付くと、小さく息を吐いた。
「分かった。だが、俺はこれから講義がある。悪いが終わるまで食堂で待っていてくれないか?」
リュウガは中庭に設えてあった時計に目をやり、終わるのは昼だと告げる。
「分かった」
直ぐに聞き出したいことだが、そういった理由では仕方なく、秋山は短く応えるとそのままその場を去った。
今の時間帯、食堂はそれほど込んではいなかったがちらほらとはいた。
友人と談笑するもの、ノートやプリントや教科書を広げ勉強するもの、ただ単に時間を潰すべく、携帯電話を開きメールするもの。
そんな中、秋山は一番奥の方にあったカウンターの席へと座り、先ほどここへ来る途中で買った缶コーヒーのプルトップを開け、一口含んだ。
苦味を伴った香ばしい香りが口の中に広がる。
直ぐ目の前にあるガラス扉には、雨が幾筋も伝い流れていく。
昨日、天気予報は関東の入梅を告げていた。そのため、朝から降っているこの雨は、夜まで続くのだとも流していた。
勿論、雨が降るということは、空は雲で覆われている。
こういう日は何時も思い出す。
灰色の雲の下、白い車体と青いジャンパーを紅く染め上げ、苦しそうに息を吐く。
その中で、薄っすらと笑みを浮かべる顔。
徐々に体温が奪われていく掌。
だから不安になる。
だから、毎日確かめに行ってしまうのだ。もう、大事なものは無くしたくないのだ、と。
ぼんやりと、ガラスに伝う雨を見ていた秋山は、ふと誰かがこちらに近寄ってくる気配を感じ、顔を向けた。
まだリュウガが来るには早いはずだ。
不審に思いながらも、そちらを見ると以前に見た、紅い髪を一つに括った男と、それと同じ顔をした黒い短髪の男が、こちらへと歩み寄ってきていた。
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