――Two wishes and hope――







思っていた以上に道路が込んでおり、当初の予定より、少し遅めに目的地へと到着した。
大学の駐車場に車を止め、レポート片手に大学の入口へと歩き出す秋山は、ふと視線の先に目的の人物が慌ててこちらのほうに走ってくるのを見つけた。

「リュウガ」
「あ、秋山!?」

こちらに気がついた相手は、何故ここに秋山がいるのか酷く驚いた表情をしたのだが、その表情を直ぐに慌てたものへと変えた。

「秋山!お前バイクだろ!!真司んとこまで乗っけろ!!!」
「断る」

慌てている理由は予想がつく。きっと・・・いや、十中十句、今秋山が手にしているレポートだろうが、秋山の手がそれを持っていることに気がつかないらし い。
リュウガは すげなく即答されてしまい、一瞬ぽかんとしたのだが、それも直ぐに怒りに変わり、秋山を強く睨みつけ「もうお前には頼まねぇ!!」と再び走り出 そうとした。
しかし、ここで行かれてしまっては意味が無い。秋山は、走り出そうとしたリュウガの首根っこを捕らえ、目の前ににんじん宜しくレポートを垂らしてやった。

「え?あ、これ、俺の・・・?」
「わざわざ届けに着てやったんだ。ありがたく思え」
「あ・・・サンキューな!」

怒っていた顔を直ぐに笑みへと変え、礼を言うとそのまま首根っこを掴んでいた秋山の手をはがして、リュウガは来た道を脱兎のごとく駆け戻っていく。
その様子に、やれやれと少し呆れながら秋山はリュウガに声をかけた。

「おい」
「何だよ!?」

呼び止められた方は直ぐにでも戻りたいのか、止まったところでジョギングのように足踏みをしている。

「貸し一つだぞ」
「げっ!?」
「じゃぁな」

リュウガの反応に、満足した秋山はそのまま踵を返し、歩き始めた。
未だ先ほどの位置から動いていない――動けないでいる、リュウガは秋山の背中に慌てて、言い返す言葉を捜していた。

「・・・だ〜!!もう、一つ、一つだけだかんな!!」

借りは一つだけだ、結局それしか思い浮かばず、未だ背中しか見せない相手に、リュウガは子供の癇癪のように「キ〜ッ」となりながら叫び返した。そして、丁 度鳴った校舎のチャイム音に慌てふためき、校舎の中へと戻っていった。
車に戻り、エンジンをかけた秋山は、先ほどのリュウガの台詞を思い出し小さく笑った。

「ガキかアイツは・・・」

早く、城戸のところへ戻ろう。




来た時とは違って、すいていた道路。
行きの半分の時間で城戸の病院へと戻った。

「城戸、戻ったぞ」

城戸の病室の前、秋山は何時ものように受話器で呼びかける。
暫くして、中のカーテンが揺れて、城戸がガラス越しに現れた。

『蓮、サンキューな!あ、お茶入れてくれよ!!』
「分かった。俺が行くまで準備していろ」

再びカーテンの中へと消えていく城戸を見届けてから、何時もどおり消毒や手洗いを終えて中に入る。
因みに今は白衣を着ていない。
城戸が言うには、白衣は見た目だけで、滅菌の薬品を散布している部屋の中には余り意味が無いそうだ。
最初だけは、どんな菌を持っているか分からないので、白衣を着てもらうのだが、その後、特に城戸の症状に変化が無ければ白衣は着る必要がないとのこと。そ れを聞いてから、秋山は遠慮なく白衣は着ないことにした。

「蓮!」
「きちんとポットは温めたのか?」

部屋の中にある簡易流しには電気ポットで沸かしたお湯をティポットへと注ぎいれている城戸がいた。
その手順を暫し見やってから、秋山は城戸の横に並び、ティーカップにもポットのお湯をいれ、温めた。
その後、二人であーだこーだ話しながら紅茶をいれ、最初に来た時に座ったテーブルへと、紅茶を運んだ。
そして、城戸は冷蔵庫をあさり始めた。

「城戸?」
「ちょっとまってて・・・えーと」

秋山に応えながら、城戸は冷蔵庫の中をあさり続け、何か探し当てたらしくアルミホイールで包まれたものを取り出した。
それを大事そうに、両手でしっかりと持って戻ってくると、秋山へと自慢げに差し出した。

「何だ?」
「昨日、サナコさんとユイちゃんと、カンザキが来てさ、お土産ってくれたんだよ」

秋山は受け取った包みをはがしながら、城戸の説明を聞いた。
中から出てきたのはパウンドケーキ。一瞬、秋山の眉間にしわがよった。
その様子を見ていた城戸が、慌てて秋山へと説明した。

「そのケーキは胡椒とか生姜とかスパイスを入れて作ってるから蓮でも大丈夫だと思うから!!」

その言葉に、一先ず秋山はケーキを一口だけ、口に放り込んでみた。
租借するたびに広がるスパイスの風味。
想像していた甘い風味ではない。

「・・・美味いな」
「だろ!!」

ケーキを口の中に放り込み、紅茶を飲む。
暫くそうやって他愛も無い会話を交わした。

「城戸」
「ん?」

そうやって粗方ケーキと紅茶を堪能し、秋山は城戸に今日聞きたかったことを聞くことにした。

「お前、入院費はどうなっているんだ?」
「ああ、そのことか」

城戸は一つ頷いた。きっと、そろそろ聞いてくるだろうとは思っていたことだ。
自分の環境がこれほどまでに整っていること。
小さい頃はそれが普通に思っていた。だが、大きくなって前の時間の記憶もしっかりと把握できるようになってくると、今いる自分の環境は余りにも一般とはか け離れていることに気がついた。
なんせ、リュウガが言うには自分の部屋の下に政治家等が入るVIP入院室があるというのだから、今自分がいる部屋はどれほどの物なのか想像もつかない。

「父さんや母さんが外国からお金を入れてくれる。俺もリュウガもお金を入れてる」
「だが、それでは生活費が払えないだろう?」

明確には分からないが、決して安くは無いと思われる入院費。

「うん。蓮の言うとおり、それじゃぁ父さん達も俺達も生活できない。父さんが言うには、どっかのNPO団体に助力してもらってるらしい」
「NPO?」
「そう。難病の人に援助してくれる団体らしいよ」
「らしいって、お前・・・」
「俺さ・・・」

城戸はカップに口をつけ、紅茶を一口飲み込んだ。

「詳しいこと、聞かされてないんだ・・・」
「・・・・」

持っていたカップを受け皿に戻し、城戸は一つ息をついた。

「きちんと聞きたいって言っても、NPO団体に援助してもらっているって答えが返って来るだけ。きっと、嘘じゃないんだと思う。NPOには援助してもらっ てるんだと思う。でもさ・・・なんか、違うんだよね・・・」
「どういうことだ?」
「NPOの援助を受けながら、まだ違う何かがあるように感じるんだよ」

それが、何かは分からないけれど、と城戸は少しだけ不安そうに顔をゆがめた。





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