――Two wishes and hope――
手塚と話した次の日。アトリでは午前中だけ開店することになっていた。
そのため、秋山はモーニングからランチの2時まで働き、午後から城戸の元へ向かった。
秋山は、前に城戸と約束していた紅茶の茶器セットを持って病院を訪れていた。因みにバイクでは無理なので普段あんまり乗らない車だ。
そのまま城戸の部屋まで行く。城戸がいるのは最上階の10階になっている。VIP用の部屋はその下にあるのだからある意味城戸の場所はVIPよりもすごい
のかもしれない。
秋山はエレベータに入り、目的の階を押す。閉鎖的な壁とは違い、一部ガラス張りのこのエレベーターはゆっくりと上がっていき、その景色を堪能できるように
なっている。
その景色を見ながら、秋山は一つ気になっていたことを考えていた。
城戸の入院費。
城戸は難病等の難しい病気のため、長期入院という形を取ってるといっていた。
それなのに、あれほどの設備。それにあの部屋は既に城戸が住むためにあしらってあるかのようだ。VIPの部屋を見たことが無いからどうか分からないが、も
しかしたらそういった部屋を改造したのではないだろうか?
そう思うほど、あの部屋は生活水準が保たれている。食事は病院から支給されるそ、週に2度ほどごみを回収しに係りのものが来る。
あれほど至れり尽くせりの中、普通の料金だったらそれはおかしい。それに、城戸は赤ん坊の頃からあそこに住んでいるといっていた。
それなら、保険などは一切利かなくなっているはずだ。あれは20年もずっと払ってくれるものではない。
では、一帯誰があの部屋の金を出しているのか。
両親は城戸の病院代を捻出するため海外に出稼ぎしているといっていた。今は城戸もリュウガも成人し、城戸は正社員、リュウガはまだ大学生のためアルバイト
としてOREジャーナルで働いていると言っていた。
全ての金を合わせれば月々の料金を払えるかもしれない。しかしそうなると城戸以外は生活が出来なくなる。
だが、そうなると先ほど考えたように城戸の入院費用は払えないだろう。
秋山は、そのことを城戸に聞くことにしていた。
あの七色の光に包まれた部屋で約束したこと。城戸は苦笑しながら、「約束したから仕方ないか」とこちらが聞くことは話してくれる。
そうこうしているうちに目的の階へとついた。
そして開く扉。それと同時に1階とは違った薬品の匂いが混じった空気が流れてくる。普通の薬品ではないが、どこが違うのだといわれると説明をつけられな
い。それが、城戸の部屋に撒かれているものだから判断つくのだ。
秋山はエレベーターから出ると、そのまま城戸の部屋へと向かった。
すれ違う看護士に軽く会釈を交わす。
「城戸」
部屋の前に着くと、何時ものように受話器を手に取り、中に呼びかける。城戸の部屋は受話器がいたるところに設置してあり、直ぐに対応できるようになってい
た。そして、部屋の中の受話器を取らないと、こちらから呼びかけた声は部屋の中で放送される。向こうが受話器を取れば放送ではなくなるといったシステム
だ。
『蓮!?』
聞こえてきた城戸の声は、何か酷く慌てていた。
それを不審に思っていると、ガラスの向こうにあるカーテンが大きくゆれ小走りに駆け寄る城戸の姿が写った。
『蓮どうしよう!!』
「どうしたんだ?」
受話器片手になにやら城戸は酷く慌てており、おろおろとするばかり。
『忘れてったんだよ!!今日使うって言ってたのに!!』
「・・・・落ち着け。誰が何を忘れていったんだ・・・?」
『リュウガだよ!!』
「リュウガ?」
慌てている城戸を受話器越しに宥め、問いかけると意外な人物名が出てきた。
『あいつ、今日大学の講義で提出するレポート、さっき忘れてったんだよ!!あれださないと単位もらえないって頑張って書いてたんだけど!!』
「どうしようどうしよう!?」と、慌てる城戸に秋山は小さく溜息をついた。どうやらリュウガはしっかりしているように見えて、案外城戸に近いらしい。
未だ慌てる城戸に秋山はもう一回落ち着けと、言い聞かせた。
「俺が届けてくる」
『え?』
「俺が渡してくるから一先ずお前は落ち着け」
『蓮!!』
ガラス越しに見れる笑顔。その顔に心で安堵の溜息をつくと、一先ず受話器を戻した秋山は城戸の部屋にいつものように入った。
そして、出口で待っていた城戸に茶器と交換で渡されたレポート。
「講義は4限目って言ってたから、2時40分からなんだ!!蓮頼む!!」
「任せておけ」
今は1時半。今からリュウガ達が通う大学までは来るまで20〜30分。十分間に合うはずだ。
秋山はそのまま来た道を戻った。
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