――Two wishes and hope――






朝、アトリではモーニングの客で店は込み合う。

「パニーニのAセットですね、畏まりました」
「13番にモーニングセット一つ、アッサム、ストレートで」
「サーモンとチキンのサンド、14番だ」

再びここで働くことにした秋山。
店用に特注で作ってもらった車椅子で店内を自由に行き来するユイ。
2人よりは慣れていないものの、頑張って接客作業をこなす少女の兄。
そんな3人をカバーするように、カウンター裏で動く店主。


「あ〜・・・今日はなんだか、いつもにましてお客さん、多かったわぁ〜・・・・」

朝の客がひと段落着き、それぞれが一休みに入れてもらった紅茶を飲んでいた。

「蓮ちゃんがいてくれて助かったわぁ〜・・・」
「そうか・・・」
「本当、蓮がいてよかった。お兄ちゃんと叔母さんと、私の3人だけじゃもっと大変だった・・・」
「そうだな、だがユイ、まだ仕事は終わってないんだからな?」

疲れたと、テーブルに伸びている妹の頭を撫でると少々むくれた顔で「分かってる」と、帰ってきて苦笑する。
その様子を、苦笑しながら見ていた秋山は時計に目をやった。
只今、モーニングが終わり9時に差し掛かった。
その時間を確認すると、秋山は店主へと振り向き少し申し訳なさそうに告げた。

「すみません、昼には戻るので・・・」
「ああ、いつものとこ行くんだろ?いいよ、行っておいで」
「ありがとうございます」

そして、残りの片付け物を終えて、前掛けを外し外に出る準備を整える。

「あ、蓮。私とおにいちゃん、午後に会いに行くって言っといて」
「ああ、分かった」
「宜しくな、秋山」
「まかせろ」

兄弟と言葉を交わし、外に出ようと扉に手をかけたとき、店主に引き止められた。

「あ、ちょいとお待ち、蓮ちゃん」
「?」
「これ、昨日仕入れた茶葉なんだけどおいしいって有名なんだよ。もってっておやりよ」

店主から渡されたのは紅茶の葉が入った掌大の袋。それは、以前の時間の中、城戸が好んで飲んでいたものだった。
それだけのことに、どうしようもなく胸が熱くなる。

「ありがとう、ございます・・・」
「いいのよぉ!これからも店の手伝い、お願いね?」
「はい」
「それから、城戸・・しん・・じ君・・・だっけ?私も今度会いに行きたいって言っておいてちょうだいな」
「分かりました」

もう一度「いってきます」と告げ、そのまま外に出る。
右手にはメット、左手には先ほど渡された茶葉。
外のじめつく熱さに少し眉を潜める。そういえば今日は夕方から大雨に雷と昨日ニュースで告げていたか。
秋山は、出入り口においてある傘の中から折りたたみ式のを取り出し、腰のポケットに入れた。
そして、渡された茶葉を上着の胸ポケットにしまいこみ、バイクに跨ると一度空を見上げた。
あの頃となんら変わらない街と空。

―――自分はこれほどまでに変わったのにな・・・・

自嘲気味に呟くと、自分で失笑した。
持っていたメットをかぶり、バイクにキーを差込む。
エンジン音が響く中、ハンドルを握った。
城戸が待っている。

さぁ、行くとするか。



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