――Two wishes and hope――











「私の記憶ではここまで」

少女はそう言った。
この後は、兄と共に皆が笑って暮らせる世界を描いたのだと言う。
無論、兄も自分も一緒に生きている絵だ。

「でも、私は足が動かないだけの状態なら、真司君だって同じような状態じゃなくちゃおかしいよ・・・・」

少女と兄が存在して、尚且つ皆が笑っていられる世界を作るために、歪みを背負った2人。
秋山は正直、二人を怒鳴り散らしてやりたいぐらいの衝動に駆られた。

「なのに、真司君は私以上の歪みを背負ってる・・・・」

少女の言葉に、城戸を見やる。
秋山の視線に城戸は苦笑を浮かべ、テーブルのお茶を一口二口飲み込むと、口を開いた。

「俺はその後、もっと多くを望んじゃったんだよ・・・・」









ユイが消えた扉はその後、ゆらりと消えていった。
後には何もない道のみ。
だが、城戸は秋山を待つつもりでいた。
そして秋山にこれから兄妹が作り出す世界を教えてやるつもりだった。
だが、一つ疑問が浮かんだのだ。



“何故、モンスターは人を襲ったのだろうか?”



今更ながらだが城戸は改めてその疑問を考え始めた。

「モンスターが人を襲う理由は・・・・・食べるためだろ?」

モンスターは人を襲ってそれを糧にしていた。

「人間は生きるために他の動物を食う」

実際に他の動物を殺めたことは無いが、その後の塊なら喜んで食べていた。
つまりは・・・



「モンスターは生きるために人を襲っていた?」



モンスターだって、鏡の世界できちんと生を受け生きていたのだ。
腹だって減るに決まっている。
城戸は、急に寂しいような悲しいような気持ちに駆られた。

「・・・・そっか、生きたかったんだ・・・・」

誰もが生きたいと願う。
それはモンスターも・・・・もう一人の自分も同じではないか。
あれほど現実世界での存在を望んでいたもう一人の自分。結局その願いは叶わずに終わってしまった。

「なあ、お前も生きたいか?」

城戸は自分の胸に拳を当てて声無き相手に問うてみた。
当たり前だが声は聞こえない。聞こえないが、その時の心臓の鼓動がひときわ強くなったような気がした。

「そっか。そうだよな」

生きるために人を襲っていたモンスター達。
つまり、生きたいと願っていたのだ。
せめて、自分達に関わっていたモンスター達だけでも一緒に笑いあえないだろうか。
城戸は、その拳をもう片方の手で強く握り締め一人頷いてから、少女が消えた方を見た。

「あ・・・・」

先ほど木製の扉があった場所に、今度は金属で出来た酷く重そうな扉があった。

「つまり、この願いはそれほど重いってこと?」

苦笑を浮かべながら重そうな扉まで近寄って、扉に触れてみる。
ひんやりと、金属特有の冷たさが触れた掌に伝わってくる。
少女との願い半分。自分の願い全部。
自分の願いが少女とは違った歪みを生み出すことは容易に予想がつく。
この扉を開いて自分の願いをかなえてしまったら、きっと少女との願いである、笑いながらの再開は出来なくなるだろう。
なんせ、生まれてくる歪みを今度は全て自分だけで背負い込むことになるのだから。
それがばれた時、少女は酷く怒るに違いない。本気で針を千本用意するかもしれない。
だが、もう自分の中で決まってしまっていた。
仮に少女との約束が叶わず、針を千本飲むようなことに陥ったとしても、自分は後悔はしないだろう。


なら、やるべきことは一つ。


「ほんじゃ、いっちょやりますか」


この後、ここにたどり着くであろう秋山には心の中で謝っておくことにした。
きっと置いていかれたと分かったら怒るかもしれない。
城戸はその様子を浮かべ、小さく声を出して笑った。



扉の前で足を両肩幅に広げる。
そして、深呼吸一つして、余分な力を体から追い出し、冷たい扉に両手を当てて、全体重をかける。
金属の扉は、嫌な音を立てながら徐々に開き始めた。

「ッ〜〜〜〜!!!」

尚も、体重をかけて扉を押し開く。
そして、少しずつ少しずつ扉の中の光が城戸の体を包んでいった。




どこまで自分の体が残るんだろう?

まるで、今日の夕飯を考えるかのように城戸は思った。






そして、新たな世界は構築された。















戻る












カウンター