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――Two wishes and hope――















「で、どこから話そうか・・・」

城戸がいる部屋。
四角いガラスのテーブル。
城戸の前にユイがいて、秋山はその二人の横に座った。

「まず、全て俺が分かるように説明しろ」

ユイが何か言う前に、秋山は二人にそう言った。
この中では自分だけがまったく分からないのだ。
そんな置いてけぼりの気持ちのままでいるのは我慢できないと、二人を見た。

「そうだね・・・」
「分かったわ蓮」


そうして、城戸はユイと視線を合わせ一つ頷くと秋山に向き直り、


「俺が死んだ後のことなんだ・・・・・・・」

静かにしゃべり始めた。








城戸は、秋山に看取られながら静かに息を引き取った。

――幽霊とでも言うのかな。とにかく自分でも死んだなって分かったんだ。

そして、ユイと再び会った。

「ユイちゃん・・・」
「真司君、ゴメンね。本当に・・・ごめんね・・・・」

何もない道が続く場所。草の根一本も無い真っ白な道。
そこに2人は立っていた。
少女は泣きながら謝り、城戸は・・・

「ううん。俺こそゴメン。ユイちゃんを助けてあげられなかった・・・・・」

自分の未熟な感情では、この少女を助けることが出来なかった。
それがただただ心残りだった。

「いいの、私は真司君がそう望んでくれただけで嬉しかったんだもの・・・」

泣いていた少女は小さく笑みを浮かべ、城戸へと顔を上げた。

「真司君。私とお兄ちゃんはこれからまた新しい世界を作ろうと思うの」
「え?」

泣き止んだ少女は城戸を見ながら微笑んだ。

「皆が笑って幸せでいられる世界。私が望む世界」

両手で水をすくい上げるようにして、少女は幸せそうに微笑んだ。

「蓮も真司君も、皆笑っていられる。それが私の望む世界」

少女の言葉に、城戸は小さな疑問が浮かんだ。

「ねえユイちゃん。その世界に、ユイちゃん達はいるの?」

このライダーの戦いは少女を救いたいがため、少女の兄が強いたものだ。
もし、この戦いが無いのだとしたら、ライダーはいなくなる。
それはつまり、少女に生きてもらいたいという兄の願いもなくなるということ。

「・・・・」
「どうなの、ユイちゃん」
「・・・・居ないよ。私とお兄ちゃんはいなくなってしまう」

でも、いいの。と微笑む少女に城戸は首を横に振った。

「良くないよ・・・ユイちゃんが良くても、俺や蓮や・・・叔母さんが・・・皆が、悲しむじゃんか・・・・」
「真司君・・・」
「良くない!やっぱり良くない!!皆が笑える世界なら、ユイちゃん達もいなきゃ・・・・!!」
「でも・・・そうしたら、また歪みが生じるんだよ!!」
「歪み・・・?」

少女の言葉に、驚いたように城戸は聞き返した。
悲しげな顔をした少女は、ぽつりぽつりと語った。

「そう・・・。もともと私を生かそうとして、お兄ちゃんはライダー同士の戦いを何度も繰り返した。ライダーがある要因はライダーの戦いがあったから――― 私を生かそうとしたからなの・・・」

少女は一つ区切り、再び語り始めた。

「北岡さんの病気やエリさんだってそう。その他のライダーになった人たちだってライダー自体が無ければ今と性格や生活は違うはずだよ・・・?だって、ライダーの戦 いがそうさせてたんだもの・・・・」

つまりは北岡の不治の病や、蓮が戦いに参加した理由の小川絵里の植物人間、浅倉の性格等・・・それら全てひっくるめて、ライダーの戦いをするために、ライ ダーの戦いに参加させるがためにそれらは発生したのだ。
城戸を見ていた少女の視線は徐々に落ちていく。

「私を生かせるためにライダーの戦いは始まった。無から有は生まれない。そのライダーの戦いを―――私を生かすために、どうしても対価が必要だった」

少女は自分の足を見つめ、両の手を強く握った。

「それが、ライダーをライダーにするための要因であり理由なの」
「それが、歪み・・・?」
「そう。私が生きるにはその対価であるライダーの戦いが――若しくはそれと同等の何かが必要になる。でも、逆に言ってしまえば私が生きていなければそれは 無いの。ライダーの戦いに関わった人たちはなんの問題も無く幸せに過ごせるの」

城戸は何も言わず、俯いてしまった少女を見ていた。

「生の反対は死。私を生かすためには誰かを殺さなければいけなくなる」

つまり、自分がいなければ北岡は健康で浅倉は――どこまでかは分からないが――普通の性格で・・・・ライダーに関わっていた人たちは、元々の性格、生活、 健康体に戻ることが出来る。
それが、ライダー同士の戦いの仕組み。

「そんなことなら・・・私、生きていたくない・・・・」

小さく、しかしはっきりとした声で少女は言った。


「なら・・・・・俺と一緒に引き受けよう」


「え?」

俯いていた顔を上げ、城戸を見上げた少女の涙を城戸は優しくぬぐった。

「俺とユイちゃんで、その歪みを引き受けよう。それで俺達がどこまで駄目になるか分からないけど」

少女の手を取り、自分の手で包み城戸は続ける。

「ユイちゃんがいて、カンザキの奴がいて、蓮や北岡さん、浅倉や手塚君、ライダーに関わった人たちが幸せに暮らせる世界。俺達で作ろう」
「真司君・・・何言って・・・」

世界を作る。
やり直すことが出来るのは、鏡の世界に強く関わった兄妹の2人だけ。

「俺だって、鏡の世界にはもう一人の自分がいるんだ」
「あ・・・・」

リュウガ。

今は城戸の心の奥で眠っているが、それはミラーワールドの住人であり、鏡の世界の城戸。
つまり、城戸は兄妹と同じぐらいに鏡の世界に関わっているのだ。
城戸にも世界の構築たる力は少なからず有る、ということになる。

「ユイちゃんと俺。二人で歪みを埋めよう」

カンザキよりも、鏡の世界にもう一人の自分を持つ2人ならきっと死ぬような状態にまでは落ちることはない。
城戸は心のどこかでそう思えた。

「で、でも、そんなことしたらきっと真司君、障害とか難病とか・・・ッ!」

しかし、きっと今までのような一般の生活は出来なくなるだろう。
少女は自分はともかく、城戸にまでそんなことが起こってしまうのはいやだと首を横に振った。

「俺はユイちゃんがいない世界の方が嫌だ。そんな世界で笑ってなんか暮らせない」

勿論、蓮だって。
と、城戸は続けた。

「真司君・・・」
「だから、二人で一緒に歪みを埋めよう。そんで、その上で皆が笑える世界を作ろう」
「・・・・・・」

本当は不安と、寂しさで心が潰れていた。
だけど、少女の心にあった重い石は徐々に脆く崩れ始めている。
それに、きっと、何を言っても目の前の青年は首を横に振るだろう。
何でもかんでも一直線で、決めたことは意地でも貫こうとするのが少女の良く知る青年の性格だ。

「・・・いいの?本当に・・・いいの?」

それでいいのか。
少女の言いたいことは分かる。
自分も少女もどうなるかわからない。
しかし、皆がいてこその世界なのだ。
誰一人でもかけたら、きっと自分は嘘っぱっちにしか感じないだろう。

「うん。俺はユイちゃんに生きていて欲しい」

きっと、秋山だってそう思うだろう。
城戸は、秋山の頷く姿が頭に浮かび、小さく笑みをこぼした。

「分かった・・・・どうなるか分からないけれど、真司君がそこまで言ってくれるんだもん。私も一緒に生きたい。皆と一緒に笑いたい」
「うん」

その時、少女は何もない道を振り返った。

「お兄ちゃんが呼んでる・・・」

「じゃあ、行って。そんで皆で笑える絵を描いて」
「え、真司君は?」

驚いたように、こちらを見た少女に城戸は笑いながら首を横に振った。

「俺は蓮の奴を待っていたいんだ」
「・・・・そっか。じゃあ、今度会うときは次の世界だね」
「うん。次の世界で笑って会おう・・・・・ユイちゃん」
「何?」
「歪みは2人で半分ずつだからね?絶対一人で多く背負い込まないこと」

約束。と、城戸は少女に小指を差し出した。

「うん。約束だよ」

少女は青年の言葉に小さく笑いながら頷き、小指を絡ませお馴染みの歌を歌った。

「「♪指切った!」」

そしてそのまま、少女は呼ばれたと言うほうへと駆け出した。
その先にはいつの間にか茶色の木製の扉があり、少女は一度だけ振り返り、手を振った。
城戸も振り替えし、その姿を認めてから少女は扉の向こうへと消えていった。


















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