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「ねえ、蓮」
「どうした、ユイ?」

紅茶専門店アトリの店舗。
先程、城戸が取材の内容をまとめて帰って行った。
あとは店の片づけだけなので、比較的ゆっくりと片付けをしていた秋山と少女。

「蓮は真司君のこと、いつから好きになったの?」

  ――― ガシャンッ!!

思わず手にしていたティーポットを落とし割ってしまった秋山。

「ユ、ユイ・・・・・;?」

いきなり何を言い出すんだ?
秋山は少女を見やるが、当の少女の方は・・・・

「あーダメじゃん。ティーポットあまり在庫数が無いんだから」」

気をつけてよね、と、秋山が落として割ってしまったティーポットを片付け始めた。
中には何も入っていなかったので、火傷とかは無い。

  い、いや、気をつけても何も・・・・・;

「ユ、ユイ、一体何なんだ?」」

動揺を隠せない秋山氏。

「え?だから真司君のこと、どう思ってるのかなって」

ごく普通に、日常会話として交わす少女。
秋山も落として割ってしまったティーポットを一緒に片付けるが・・・・

 ど、どうって言われても・・・・・
 真正面から言われると困るというか、照れるというか・・・・何と表現すればいいか・・・

「でも、お兄さん達がすごそうだよねえ〜・・・」


ぴし。


持っていたティーポットの破片が、更に割れた。

「一番上の北岡さんだっけ?確かこの辺りに住んでるんだよね?」
「あ・・・ああ」

長男の北岡秀一はアトリ近辺に弁護士事務所を構えている。

「お仕事も弁護士だなんて、すごいよねー。頭が良いし収入も高いってことだよね」

まさに三高ってこのことだよねー将来年取ってもばっちし、と少女は一人頷く。
さて、秋山氏。
一応、定期的な収入は入るが、定額とは言えない時給制のアルバイト員。
しかも時給はあまり高いとは言えない。
因みに、980円である。
その上、国民健康保険の国民年金のみである。
将来はあまり良い色ではなさそうだ。
更に言うと、個人年金も組んでないぞ!

「次のお兄さんの浅倉さんも、確か真司君の事務所の近くだよね?」
「・・・・・・そーだな・・・・」

近くもなにも、一車線しかない道路を挟んだ向かいのビルだがなッ!
俺なんて、このアトリからだと単車で15分ぐらいかかるけどなッ!!

「手塚さんも、なかなかの食わせ者だよねー」

実はあいつが一番の要注意人物だッ!!!
来る日も来る日も、俺の邪魔ばっかしやがって・・・・
本業はどうした!?
俺の邪魔ばかりしてないで、仕事しろ!!

内心、炎メラメラの秋山氏。
秋山の様子をちらりと見た少女は、

「蓮、私・・・応援してるからね!!」
「・・・ユイ」

集めたティーポットの破片を用意しておいた新聞紙に乗せて手を払うと、ユイは秋山の手を握った。

「蓮が真司君にアタックできるように私も手伝うから!!」
「・・・・!!!」

感極まる秋山氏。

「絶対に真司君にアタックしてね!!」
「任せろ!!」

少女の応援によって、テンションが一気に上がった秋山氏であった。


    ―――― まぁ、真司君がどんな返事を返してくれるかは分からないけどね。











その頃。


「む・・・・・・・?」

ビル街のとある広場。
日がさんさんと当たる暖かい場所。
猫が欠伸なんかしてたりする。
そこに布を広げ、怪しげな小道具を置いている男が一人。

「なんか・・・・いやな予感がするな・・・・」

赤いジャケットを羽織っていた男は、徐にコインを三枚、懐から取り出すと・・・・


  
  ―――― ピィ・・・・ン。








Trrrr・・・・Trrrr・・・・


事務所の電話が鳴る。

「はい、浅倉探偵事務所です」
『手塚と言いますが、浅倉はいますか?』
「あ、所長の弟さん?ちょっと待っててねー」

浅倉の事務所での有名な手塚。
しばらく待ってから・・・

「オレだ」

電話口に出た浅倉は開口一番、挨拶なし。
どうやら手塚もすっかり慣れているようで、全く気にするそぶりはなし。

『少し時間あいているか?』
「何かあったか?」
『真司のことで、少し』
「今から、行く」

ガチャン!

少々乱暴に切られた電話。
時計をちらりと見やった浅倉。

「出てくる」
「あ、6時にミーティングがありますから、それまでには帰ってきてくださいねー」
「ああ」







Trrrr・・・・Trrrr・・・・



再び事務所の電話が鳴る。

「はい、北岡弁護士事務所ですが」
『手塚と言いますが、兄の北岡はいますか?』
「あ、ちょっと待ってて下さい」

事務机で裁判の書類に目を通していた北岡。

「先生、弟さんから・・・・手塚さんからお電話です」
「ん?・・・分かった・・・・もしもし、海之か?」
『修兄、近々秋山が真司にアタックすると占いで出た』

その言葉に、お兄ちゃんの顔つきも変わったのは言うまでもない。

「威には?」
『もう連絡した』
「・・・・お前達の行動力は相変わらずだな」

まだ、施設にいた頃。
一番下の真司は一番上の秀一にべったりだったが、後の二人は・・・まぁ歳がそうさせたのか、なんなのか・・・かなりの悪戯盛りだった。
大まかな計画は海之が立てて、細かな動きは威が決める。
威は短気で気持ちの変わりが早い気分屋だが、以外にも細かな作業は好きなのだ。
そしてこの二人の行動の早さと言ったら・・・・・
悪質な悪戯は遣らないよう強く言い聞かせてはきたが――『真司が真似したら、どうする気だッ!?』と。
内心ひやひやしたことも多々あったのだ。

「わかった、んでこれからどこに集まるんだ?」
『これそうか?』
「裁判はまだ当分先だからな。今日一日ぐらい自由にしても大丈夫だ」
「じゃぁ、これからそっちに行くから」

威兄もそっちに向かってるから、とつなぐ手塚。

「これそうも何も・・・俺の家かよ。どうせ、俺が動けるのを予め占ってたんだろう?」

リンゴーン・・・・

ちょうど、玄関のベルが響いた。
威が来たのだろう。
そして、電話口の手塚は笑みを含んだ声色で、


『企業秘密だ』

とだけ、告げたのだった。





















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秋山氏の勝率0%(笑)












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