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カウンター






朝のモーニングタイムの忙しさを終え、本日アトリは一時の休息となった。
本日、店長は紅茶の茶葉を買い付けに行くため、朝早くから出掛けており、帰りは夜だと言っていた。
そんな中、店長の姪っ子はノートを開きながら思案気な顔をしていた。

「んー・・・・」
「どうしたんだ?」

一通りの片づけを終え、この店の店員、秋山は少女に問いかけた。

「・・・ほら、新しい紅茶の名前。決まってないじゃない?」
「そういえば・・・・」

紅茶の名前を考えているうちに、夕飯の時間となり、城戸と夕飯を食べていく(省略)、で口喧嘩となってしまい、 結局紅茶の名前は決まらずじまいであった。

「早めに決めなくちゃと思って」
「そうだな・・・」

アトリのオーナーは早くても来週までにはこのオリジナルブレンドを出したいと言ってた。
そのため、名前を早く決める必要がある。

「真司君は今日も、来るんだっけ?」
「ああ・・・確か、昼過ぎとか言っていたか?」

紅茶、珈琲の特集記事に乗せるため、アトリの取材を行っている城戸。
今日は昼過ぎに来るとのことだった。

「じゃぁ、その時までに少なくても3つ、候補を挙げておいてね」
「3つか」
「真司君にも、そうメールしておいてねー」

少女はそれだけ言うと、まだ残っていたラッシュ時の片づけへと戻って行った。
秋山は、去っていた少女に言われ、仕方なくポケットから携帯電話を取り出し、城戸宛にメールを打ち始めた。
しかし、その顔はどこか嬉しげであり、その様子をこっそりと確認した少女は小さく笑みをこぼし、そっとその場を離れた。









〜〜〜♪♪♪

「ん?」

ズボンのポケットに入れていた携帯電話からメール着信の音が鳴った。
確かこのメロディーは・・・

「蓮だったっけ?」

ポケットから出して、確認すると、やはり秋山からのメールだった。

「何々?」

携帯電話を開いてメールを確認する。


『件名:Re

  本文:今日来るまでに、新しい紅茶の名前の候補を3つ挙げておけ。』


件名もけなければ、文面もそっけない。
秋山らしいメールであった。

「3つ・・・・うーん・・・・・・」

いきなり3つあげておけと言われても、困ってしまう・・・・
城戸が悩んでいると、

「おーい、真司ぃー!ちょっと手伝ってくれぇ!!」
「あ、はーい!!」

編集長に呼ばれ、そっちの手伝いへと向かった。








そうこうして、お昼。
午前中迷一杯働いた自分に休息と安寧の時間を。
と、言ってもお昼は近くで買ってきた弁当なのだが。

本日、次男の威は仕事が山場に入っており、涙をのんで(多分、血を飲み込む思いで)一緒の昼食を諦めた。 (探偵事務所の従業員がこの辺りでどれほど頑張ったかを考え、褒め称えてほしい)
三男の海之はこの日はどうしても外せない用事があったようだ。(占いでも予め分かっていたのか、最初から諦めていた)
長男は、今のクライアントの裁判があるため、猫の手も借りたいくらいに忙しいらしい。
せめて、秘書の由良に弁当をこしらえさせ、次男との昼食の約束がない時は、持って行かせようと(半ば無理やり)したが、 コンビニ弁当も中々美味しく、好きだからという言葉に、諦めざるえなかった。

因みに、後でアトリに行ったとき、何か食べようと思い、弁当は心持小さめである。
オフィスの後ろには、会議用兼来客用の机と椅子が設けてあり、基本、ここで社員皆が顔を合わせて昼食を食べることになっている。
そうすることによって、自然と、お互い仕事の話をし、今後の仕事に生かし、スムーズに業務をこなせるように、ということらしいが、
やはり、ご飯は皆一緒に食べるのが一番である。

「ほひ、ひんひ(おい、真司)」
「はひ?(むぐむぐ)」
「ほあえ、ほふううひいあううんえうあ?(お前、特集記事は進んでるか?)」
「いあ、いんあゆーゆうえう(今、インタビュー中です)」
「あんあえよ(頑張れよ)」
「うい!」

「物を食べながら喋るんじゃない!!


今日も賑やかなOREジャーナル。




で、アトリにやってきた真司。
結局、名前の候補は一つしか思い浮かばず、どうしようかと正直悩んでいた。
何時ものように、秋山のバイクの隣にスクーターをつける。
駐輪場として使っているこの場所は、れっきとした駐車場なのだが、このアトリには自動車がない。
どうやら、昔は使っていたようだが、今はこうやってバイクや、若しくは自転車を置くのが主となっている。
スクーターからキーを抜いてポケットにしまい込むと、少し重い足取りで階段を上る。
扉を前にして、小さく息を吐き中へと入る。

―― カラコロン・・・

ドアのベルが心地よい音を出す。

「いらっしゃ・・・あ!真司君!!」
「こんちわー」

少女の姿に挨拶をし返し、あたりを見渡す。

「あれ、連は?」

秋山の姿はフロアには見当たらない。
中だろうか?

「ああ、蓮は今買い出し中なんだ」
「なるほど」

ここに見当たらない理由になるほどと頷くと・・・

「で、考えてきてくれた?」
「う・・・・」

にこやかな笑み。
思わず、背中に背負っていたデイパックを後ろ手に支えてしまった。

「真司君?」
「あぅ・・・あぅ・・・」

この笑みにはどう返せばよいものやら・・・

―― カラコロン・・・

と、その時再び扉が開いた。

「何だ、来ていたのか」
「蓮!」

思わず、振り返る。
そこにいたのは、両手に沢山の食料を抱えた秋山だった。

「・・・どうかしたのか?」

少女に追い詰められた青年に訝しんだ。







「さて・・・それじゃ始めましょうか」

片付いたテーブル。
今日のアトリは、午前中のみの営業としており、店の中はすでに片づけられ閑散としている。
各個人の前には、未だ名前のつかぬ紅茶が一人一人に入れられていた。

「じゃぁ、それぞれ案を一つずつ出していこうよ」
「別に3つ出してってもいいんじゃないか?」

という秋山の言葉に、ビクリと揺れる城戸真司。

「うん、でも1つずつがいいと思うんだ」
「そうか?」

少女の言葉に、不思議に思いながらも、「ユイがそう言うなら」と、1人、一回ずつ考えてきた名前を言っていくことになった。

「じゃぁ、まずは私からね」

そう言って、少女は大学ノートを開く。その中には何枚か名前の書かれたカードが入っていた。

「最初は・・・・・」

と言って、一枚のカードを手に取ると・・・

「これだぁ!!」


――― brightness

「成程な」
「へぇ」

さながらカードゲームのように出された紙に書かれていた英単語。
意味、『輝き』。

「なかなか良い名前じゃないか」
「でしょ?」

自信ありげな少女の顔に、青年組ははにかむような、苦笑のような笑みを浮かべる。

「じゃぁ、次蓮ね」
「俺か?」

少女に名指しされ、少し驚いたが、すでに少女は聞く気満々である。
仕方なくといった風に装い、秋山はズボンのポケットからメモ帳を取り出すと、ぺらりぺらりと捲る。

「ひとまず、この紅茶の特徴を考えてみた」

紅茶の香りは花に近く、少し柑橘系の香りもする。
その味は、癖のない、さっぱりとした飲み心地。
渋みはなく、紅茶をあまり飲まない人でも、飲みやすいと思われる。



――― The World


意味、『世界』。

「この紅茶をブレンドするにあたって、色々な国の茶葉を混ぜたと聞いた」

それで、『世界』。

「蓮らしいね」
「確かに」

結構しっくりくるかもしれない。
さて、城戸の考えてきた名前は・・・・

「・・・うーん、シンプル」
「シンプルなのはいいが、ひねりがなさすぎるような気もするな」
「ぅ〜・・・・・」

――― Atori

花鶏。この店の名前である。

「こ、この名前と、この間こうゆうカップを取材先で見つけたから、どうかなって思ってさ」

ここで負けたら後がない。
そういうオーラをどことなく醸し出す城戸は、慌てて鞄から取材で使うテジカメを取り出すと、撮影してきたティーカップを画面に呼び出し二人に見せた。
画面の中に並べられたティーカップには、小枝に留まり、紅い実や青い実、柔らかな色の花等を咥えた花鶏が描かれており、とてもシンプルなデザインをしていた。

「このブレンドを選んでもらった人に、このカップで出せたら良いかなって思ってさ・・・」
「・・・・」
「・・・・」

考え込む二人の顔。

「あ・・・あのぉ〜・・・・・」

何も言われないというのは、正直辛いどころじゃないのだが・・・

「・・・・いいかも」
「え?」

そんな中、ポツリと呟かれた少女の声。

「後は価格だな」
「え?」










こうして、アトリ・オリジナルブレンド『Atori』は決まったのだった。










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すっごい久々の四人兄弟・・・・。
花鶏という鳥は、日本に冬鳥とし来る渡り鳥とか。
主に山形県、富山県等に飛来しきて、それから各地に散らばるそうな。
冬に来るなんて、ちょっとライダーの時期っぽいじゃないですか。
(でも多分、この花鶏さんは11月や12月とかなんでしょうね;)

未だにうまく文章がまとめられません;
しっくりこないのがとても悲しいです;






文章を一回完成させて、今回の話には全く兄Sが出てこなかったことに気がついて、
慌てて一部に兄たちを登場させました。
もっと兄たちが暴走出来る文章にしていきたいです。ふぁいと。