< プロローグ >
そこは、成田空港。
飛行機のエンジン音、案内放送、利用客達の雑談といった様々な音が飛び交っている。
今は春。学校はまだ春休みという時期だ。そのため海外への子連れ旅行者をよく見かけ、同じくらいに迷子放送も聞こえてくる。
そんな中、長身な青年3人が、フロアに設えてあった喫茶店でコーヒーを飲んでいた。
「真司の便は・・・1時40分・・・だったな」
「ああ」
「後20分ぐらいだ」
円形テーブルの右から、スーツでびしっと決めた北岡秀一、蛇柄のジャケットにGパンの浅倉威、少々影を感じさせる雰囲気だがやたら目立つ紅いジャケットを
着た手塚海之。
それぞれが変に目立ってしまうため、先ほどから近くを通る人は必ず視線を向けるのだが、本人達は気にしていない。
いや、もう慣れたという感じである。
「にしても・・・長かったな・・・15年」
「・・・15年か・・・」
「あの頃は仕方ないものなんだと、よく自分に言い聞かせていたな・・・・」
この3人。
苗字こそ違うもののれっきとした血の繋がる兄弟である。
兄弟が幼い頃、両親が不運な事故によって早死にし、頼れる親戚等もいなかったため、必然的に施設に預けられた。
そこで5年を一緒に過ごしたのだが、それぞれに里親の話しが持ち上がった。
最初は兄弟4人で過ごしたいと強く希望していた。
しかし、里親の方もいきなり4人は迎えることが出来なかった。
当時15歳で、今度の春には高校生だった長男、秀一には4人でやっていける経済力も知識もなかった。
そのため、兄弟は泣く泣くばらばらの里親の下へと引き取られることになった。
だが、不幸というものは続くものだとそのとき知った。
一番下の真司は当時7歳だったのだが、引き取った里親が急な海外転勤のため真司も一緒に渡米することとなり、日本にはいつ帰ってくるか分からなくなってし
まったのだ。
その時の事を思うとどれだけ後悔してもしきれない。
どうしてあの頃自分達は子供だったのだろう。大事な者さえ守ることが出来なかったのだろう。
あれから15年。
それぞれが里親の下で育ち、独り立ちを始めた。
長男の秀一は弁護士に。次男の威は決まった職に中々つけなかったが、今は私立探偵事務所を経営している。そして、三男の海之は占い師となり、巷では結構な
評判である。
そして、今日。
渡米していた一番下の真司が、親から独立し日本で就職することになり、アメリカから帰ってくるのだ。
兄弟4人で過ごすのをどれほど望んだだろうか。
3人は幼かった頃の思い出話に花を咲かせ、今か今かと末っ子の帰りを待った。
「・・・15年・・・か」
飛行機の中。先ほどアナウンスでもう直ぐ着陸するため、安全ベルトを締めるようにと知らせが入った。
窓から見える風景は緑。そして住宅と思われる点と道路と思われる長い線、
帰ってきたのだ。日本に。
窓から見えるアメリカとは違う風景。城戸真司は帰ってきたことを強く実感していた。
幼かった頃の自分。
施設で過ごした生活は今でもはっきりと覚えている。そして、兄達のこともちゃんと記憶に残っている。
貰われていった先では、いきなりアメリカに行くこととなり、里親という心の準備も何もかもないまま日本を離れた。
あの時、兄達に会いたくて会いたくて、どれほど泣いただろうか。
夜な夜なアメリカの家を出て、空港を目指したことは数え切れないほど。
その度里親は「すまない」と泣きながら謝るだけだった。
幼い自分には理解できなかったのだ。何故、自分だけだがアメリカに来なくてはいけなかったのか。
何故、兄弟皆で過ごすことが出来なかったのかと。
「長かったなぁ・・・・」
今はもう皆成人している。確か一番上の秀一はもう今年で三十路のはずだ。
アメリカを出ることを決めた時、文通やメールをよくしていた長男の秀一に連絡した。
そして、今日の日本着の時間を予め連絡をしていた。
向こうは3人で迎えに来てくれると返信があった。
真司は持っていたリュックから手帳を取り出すと、その中に終われていた写真を取り出した。
幼かったころの自分達。
4人で取った写真はそれが最後だった。
右から威、海之、秀一、その秀一にしがみ付くようにして笑顔を見せる自分。
今は面影が残る程度だろうか?
そんな期待と不安を残し、写真をしまった真司は座席のベルトを締め、着陸の態勢を整えたのだった。
空港内の玄関フロア。
1時40分。アメリカからの便が無事に日本に到着したと掲示板に表示された。
コーヒーを飲み終えていた3人は、迎え口となるフロアへと移動を始めた。
そして待つ事10分。
次々と大きな荷物を携えた利用客が出てくる。
その中に茶色の髪を肩口まで伸ばし、左耳に小さなピアスを嵌めた青年が大きなスーツケースを押しながら出てくる姿を見た。
最初に走り出したのはどちらだろう。
気がついたら兄弟は長年の空白を埋めるかのようにしっかりと抱き合い、15年ぶりの再会を心から喜んだのだった。
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実施したアンケート(まだ実施していますが)のパラレルに票が入っておりました。
やってみたいなーと前々から考えていたのですが、
これを機に頑張ってみたいと思います。