Cat−V−
(この話は本編のCAT CAT CATの番外編となります。この前にある秋山氏が黒ネコになる話とは何の関係もありません)
「城戸、城戸!!おい、しっかりしろ!!」
寝室のベッドに置かれた子猫に、北岡は必死に呼びかけるが、子猫はぐったりとしたまま返事はしない。
この近くに獣医はどこにあった?必死に、北岡は普段から見かける風景を思い起こしていると、
「先生!!使えそうな薬持ってきました!!」
由良がこの家にある薬を持って部屋へと駆け込んできた。
「あ、ああ、ありがとう」
「どうかしたんですか?」
「ごろちゃん、この近所にある獣医ってわかる?」
「獣医・・・・?」
だって、城戸は人間・・・・
「あ」
思い出したようにつぶやく由良に、頷く北岡。
「そう。今のこいつは、たぶん人間の医者より獣医の方がいいと思うわけよ」
北岡弁護士事務所に依頼に来るクライアントは基本生活水準が平均以上である。
勿論、その中には飼っているイヌやネコにとても気を使っている人がいて、場合によってはやたら値が張る病院に連れてっているのだとかも聞かされる。
しかし、動物の飼育に関してこれっきし興味のない北岡はあくまで個人情報の範囲内で、今後の会話に役に立たせる程度にしか聞いていなかった。
正直、こうして必要になるとは思いもしなかった。
「お、俺、タウ○ページ調べてきます!!」
「お願・・・・あぁ!!!」
「せ、先生!?」
由良が駆けだそうと、北岡が頼もうとした時、北岡は何かを閃いたように声をあげた。
慌てて、ドアに向けていた体を回転させる由良。
「どうかしたんですか!?」
「戻せばいいんだよ!!」
「戻すって・・・・城戸さんを?」
「そうそう!こいつを人間の姿にすれば、俺の息のかかった病院で診てもらえるじゃない?」
「でも・・・・どうやって・・・・?」
北岡の考えに由良は一層不安な表情をした。
「一応、方法は知ってるんだ。でも、それにはまずこいつに目を覚まさせなきゃいけない」
「でも・・・・」
正直、目の前の子猫は本当にぼろぼろなのだ。
「本当に、少しの間5秒・・・いや3秒でいい!!城戸!!!城戸!!!」
子猫を揺らさないよう、優しく背中に手を当ててやりながら、北岡は子猫の耳元で叫んだ。
そうして、しばらくすると・・・
「・・・ッ」
ピクリ。
微かに、耳が動いた。
「城戸!!おい、分かるか!?」
「きた・・・・お・・・・・」
微かに聞こえる声。
「ごろちゃん!!!!鏡ッ・・・鏡持ってきてッ!!」
「は、はいッ!!!」
北岡の言葉に慌てて近くにあった手鏡を北岡に渡す。
渡された手鏡に、子猫を移し、北岡は子猫の右前脚そっと掴んでを斜め上に向って伸ばした。
「城戸、『変身』て言え!!」
「城戸さん!!頑張って!!」
―――― ヘ・・ン・・・シ・・・・ン・・・・
二人の声に、子猫は、聞こえるかどうかの微かな息を吐いた。
その瞬間、
ヒュン。
風が一瞬にして抜けるような音がしたと思った瞬間、子猫の姿は消え、そこには、全身酷い裂傷傷等を負った城戸がいた。
「真司君!!」
「城戸、無事か!?」
アトリに由良から連絡が入り、指定された病院。
扉を開けると、そこは個室となっており、白いベッドには痛々しいほどの包帯を巻いた城戸が静かに横になっていた。
部屋の中には由良だけがあつき添っており、北岡は席を外していた。
「城戸!!」
慌てて近寄る秋山。
「真司君は・・・」
「大丈夫です。今、薬で眠っているだけですから、もうしばらくすれば目が覚めるといっていました」
由良の言葉に安堵の様子を見せる面々。
「でもいったい何が・・・?」
「先生の見た様子じゃ、烏に襲われたんじゃないかって・・・」
「烏・・・?」
「城戸さんの毛皮に黒い小さな羽毛が結構ついてたんですよ」
――烏と争って、抵抗して、必死に逃げたのではないか?――
北岡の考えはこうだった。
由良の言葉に、秋山はとたんに柳眉を逆立てた。
「だから言っただろうが!!!」
「ちょっ蓮!」
静かな病院に響き渡る秋山の罵声。
「だから外に出るなと言ったんだ!!この馬鹿がッ!!」
「やめなよ蓮!!!」
少女の止める声にようやく怒鳴るのをやめたが、その眼には怒りが出ていた。
「今回は、確かに城戸の落ち度はある」
「手塚さんっ!?」
秋山を弁護するような手塚の発言に、驚く少女。
「だが秋山、城戸に予め今の時期、カラスの繁殖期だって言うことを伝えておかなかった俺たちにも落ち度はあるんじゃないのか?」
手塚は道端で仕事をしている。
そうすると、街の様子がとても分かるのだ。
特に、時折見かける烏の様子にはいつも注意していた。
秋山だって、一応烏の繁殖期は知ってる。
そのことについて、注意はしなかった。
確かに100%落ち度がないとは言えないが・・・
「まぁ、今回城戸が勝手に出掛けてしまったからな。注意しようがなかったのも現実だな」
よくよく見ると手塚の目にも静かな怒りが見て取れる。
どうやら手塚も怒っているようだ。
男二人の様子にどうしようかと困っている少女。
そんなとき・・・
がらり。
病室の扉が開いて、北岡がやってきた。
「先生!」
「北岡さん!」
「お、来てたのか・・・・って、どうかしたのか?」
男二人から醸し出される怒りオーラ。
先ほどの話を聞かされた北岡。
「成程な。確かにこちらに落ち度は無くはないが・・・そんなちっぽけな落ち度ぐらいだったら、俺が白にしてやるさ」
つまりは、城戸は100%有罪か。
少女は心の中だけで呟いた。
「まぁ、とにかく医者が言うには命には別状ががないそうだから、このまましばらく入院して治療に専念することだそうだ」
「入院・・・?」
「ああ、まぁそんなに心配するほどでもないそうだから。大丈夫だよ」
入院という言葉に固まる秋山と心配な表情をした少女と手塚に、安心しろと、北岡は促した。
「ああ、入院費のことだけど・・・」
「いくらですかッ?」
入院したと聞いて、慌ててきたので手持ちはあまりないが、おばさんに言えば城戸の入院費ぐらい出してくれるだろう。
「ああ、いや別に払ってもらう必要はないから」
「え・・・?」
北岡の言葉に、アトリの面々が驚いた。
「ここの病院の委員長は、以前俺が裁判で受け持ったとこでね、顔を利かせてもらって、入院費は病院側が負担してくれることになったんだ」
いいのだろうか・・・?
いいのでは?
向こうがそう言うのなら、それに甘んじよう。
三者三様、お互い顔を見合わせた。
「だから、入院費については気にしないで。ああ、あと帰りがけに保険証を出しとくの忘れないように」
「ありがとうございました」
と、素直に頭を下げる少女。
「・・・・」
「・・・・・北岡」
不審がる男2人。
「なによ?」
「お前、慈善事業はしなかったじゃなったか・・・・?」
「何を企んでる・・・?」
この北岡秀一はビジネスはビジネス。
と、一刀両断するほど割り切る男なのだが・・・・
城戸相手に慈善行動をとっている・・・・
その事が、とても不思議で、不気味でならなかった。
「ちゃんと、見返りは貰うにきまってんでしょ」
「見返り?」
「誰に?」
「城戸から」
秋山の血管がプチンと切れた。
「貴様、城戸にどんな猥褻(わいせつ)なことをする気だ!!??」
「誰もそんなこと言ってないだろうがッ!!」
「そうじゃなくて・・・・」
眉間に指をあてる北岡。
「ちょっと仕事を手伝ってもらうだけだ」
「本当だろうな・・・?」
「先生、仕事なら俺が・・・・」
「勿論、ごろーちゃんいも手伝ってもらうよ」
「北岡・・・まさかお前・・・」
「…だから、何なんだよ?」
手塚は北岡を見据え、
「子猫の姿で四六時中一緒にいて、仕事を手伝ってもらうなどという口実で、ふわもふに触りまくるんじゃないだろうな・・・・?」
ギクッ!
「で、でもこのまま真司君を治療してもらえるんだし・・・」
北岡が言わなくても、城戸自身が自分から言いそうだ。
「まぁ・・・・」
「確かにそれはそうだが・・・・」
少女の言葉に、渋々に頷く・・・・
「まぁ、何せよすべては城戸が起きてからだ」
それはそうだ。
「じゃあ、俺は仕事があるから一先ず帰るな」
「お大事に」
そう言って出ていく北岡と、由良。
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北岡氏のやりたいことは、お見通しなのですよ(笑)