Cat−U−
(この話は本編のCAT CAT CATの番外編となります。この前にある秋山氏が黒ネコになる話とは何の関係もありません)
天気うららか、そよぐ風が頬をかすめていく。
とっとっとっと。
小鳥の鳴き声、木々の囁き。
様々な音が耳へと届く。
てってってって。
いつもの視線より高いその先には、他人の家だが何かの木の実をたわわに実らせた木が見える。
とてとてとてとて。
名前も知らない花が咲いている木の下を通り抜ける。
とたとたとたとた。
城戸真司。
本日も子猫の姿で散歩中。
ちなみに、歩いているのは民家の塀の上。
いつも塀の上をしゃなりしゃなり歩く猫の姿を見てると落ちないのか、と不思議に思ったのだが。
案外落ちないものである。
しかし、本人のイメージとはかけ離れ、子猫の歩き方はしゃなりしゃなりと行かず、とてとたとてとた。
猫にしては美しいと言えない、むしろ愛らしい歩き方となっていた。
最初の散歩を猛反対されてからは、秋山は城戸が出かけるそぶり――それがたとえ、人間の姿、出勤時だとしても――を見せたら、事細かに聞いてくるようになった。
しつこいが、出勤時に対しても、だ。
さて、では何故今城戸が外に出て散歩しているのか。
しかも、子猫の姿で。
それは簡単。
秋山氏がいない時を狙っての散歩だったからだ。
開いていた窓から子猫の姿でそろりそろりと出てきたのだ。
そのため、多分他の人も城戸が出かけた事に気が付いていなかった。
だから注意できなかった。
今がカラスの繁殖時期にあたり、食欲旺盛な子供に親ががんばって餌を運んでいたことを。
その日、ちょうど住宅路の十字の交差点に来た城戸。
はてどちらにいこうか。
車の通りが少ないこの場所は、殆どといっていいほどに車との接触事故がなかった。
そのため、交差点によく見かけるミラーは置かれていなかった。
そして、あたりの住宅街のため塀が高く城戸から見たら、周りには何も自分を写す物はなかったのだった。
「さて・・・どっちに行こうかな・・・」
十字路。
まっすぐ行くと小さいが日当たりのいい公園へと出る。
片や右へと曲がると花が咲き乱れる空地へと。
左に曲がれば・・・・・
「なんだっけ・・・?」
というわけで。
「左に決定!!」
進む方向も決まって事で、再び歩こうとした時・・・・
バササァッ!!
あれ・・・?
カアーッカアーッ!!
・・・・・これは・・・?
塀の上、木の枝、屋根の上。
気がついた時には、城戸は濡れ漆黒のような羽をはためかせる数羽のカラスの群れに囲まれていた。
慌てて来た道を振り返ると、そこにも一羽のカラスが道路に降り立っていた。
四方八方、既に退路は断たれた。
慌てて周りを見回すが、城戸はここで初めて自分を映す物が何一つないことに気がついた。
「う・・・ぁあ・・・・」
じりじりとにじり寄るカラスの群れ。
一羽が翼を大きく広げると、後の数羽も同じように広げこちらへと迫ってきた。
「う・・わぁああああーーーーーーー!!!!」
晴天。
そんな日にはやはり洗濯物を干すのが一番だろう。
そう言えば、この頃布団を干せなっかったっから、ついでに干してしまおうか。
北岡弁護士事務所の弁護士、北岡秀一の秘書兼ボディーガードの由良吾朗は干し終わり、空になった洗濯かごを抱えるとそのまま部屋の方を向いた。
「・・・・・ん?」
ふと、緑色の芝生にはあまりにも似ていない薄茶色の塊が見えた気がして、足を止めた。
何だろう?
不思議に思い、籠を横に置くと、その塊へと近づく。
「ッ!!!」
5mほど近寄ってからそれが子猫であり、ぐったりしていることに気がついた。
慌てて、子猫を抱き上げてみると、カラスか野良犬にでも襲われたのか、茶色の毛並みは見事なまでにぼろぼろになり、傷がない場所さえ分からないほど
その小さな体は無残な姿だった。
「先生ッ先生ッ!!!!」
「どうしたのさごろちゃん!?」
庭から大声で呼ばれ、いったい何があったのだと慌てて出てきた北岡は由良が抱いていた子猫を見て目を見張った。
「城戸!!!??」
「えッ!?城戸さん!?」
そう言えば、この間、北岡がカンザキシロウによって城戸が子猫にされていたと言っていたが・・・・
「と、とにかく中で治療を!!」
「ごろちゃんは薬箱をお願い、俺はこいつを寝室に連れてくから」
「分かりました!」
子猫を北岡に預けた由良の行動は早かった。
「城戸、しっかりしろ!!城戸!!!」
しかし、子猫の息は虫の息のように細く、ぐったりとしていた。
二人がばたばたと慌ただしく部屋の中に入って行った後、しばらく経ってから、事務所の庭に黒い毛並みがちらりと見えたのだった。
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秋山氏の忠告はある意味正しかったと・・・・
あははははは。(笑ってすますな)