Cat.9








その日、俺はOREジャーナルの取材でとある町にいた。
そこは長閑な田園風景が続く山間の町で、つい最近まで村だったそうだ。
ここでの取材は米作りについて。今、色々な品種のある米、関東内だけでどれくらいの品種があって、何をどうやって栽培しているのかを取材しようという、の んびりとした内容である。

「じゃぁ、ありがとう御座いましたぁ!」
「いえいえ」
「また、おいで」

取材を頼んだ農家のご夫妻はとても人のいい優しい人で、お土産として米を10kgも貰ってしまった。
ちょっと重いのだが、今日は車できていたので助かった。
会社に戻って皆で分けよう。で、俺は半分は貰うことにしよう。
蓮は米好きだし。つい最近収穫して、さっき精米したばっかの米だから、きっと・・・いや、絶対に美味い。
俺は楽しみにしながら、米を車に積んだ。
そんな時、

“ガサ”

「ん?」

車を止めておいた林。その奥の方で何か草の音がした。
何か動物でも出てきたのだろうか?
俺は好奇心に、デジカメ片手に音がした方へと近寄っていった。
すると・・・・

(あ・浅倉ぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!????)

林を少し進むと、そこは低い崖となっており、下には朽ちた民家があった。
浅倉の実家を彷彿とさせるのだが、浅倉はその民家の横にある古井戸から水を汲んでいた。
井戸の水を勢いよく頭から被ると、その場に座り込み、横に置いてあった袋から何やら取り出し徐に食べ始めた。
どうやら、これから昼飯のようだ。
えっと・・・・こういった場合はどうすればいいのだろうか・・・・?
ここで、いきなり、『やあ、浅倉』とか『お前も飯なの?俺にもちょっと分けて』とか『浅倉ぁ〜♪』等と、フレンドリーに出て行くのもおかしい。
しかし、俺は浅倉に対し蓮や北岡さんみたいなような感情は持ち合わせていない。
確かに、人質として女の子を取って立てこもったのは許せないけれど、あいつも一応人間だし。
だから、『浅倉!!ここであったが百年目!!!』や『浅倉!!覚悟!!』や『仇!!覚悟ぉ〜!!!』等といった敵意むき出しに出て行くのもおかしい・・・ 気がする。というか、仇なんて無いわけだし。
うーん・・・。
浅倉の様子を暫く見ながら考えていると、俺の頭の中に、ぴかっと豆電球が瞬いた。
そうだよ。この手があった。








「みゅぅ!みゃぁ!」
「・・・・何だ・・・・?」

林特有の少し湿った土。4本の足で歩くと、何ともいえない触感が足に伝わってくる。
痛くはない。小石とか小枝とかで痛いかなと、少々不安に思っていたのだが、長年積もった落ち葉が腐葉土となっているようで、歩くたび軟らかい感触が伝わっ てくる。
俺はそのまま浅倉の足元まで駆け寄った。

「みゃぁぅ」
「・・・どうした」
「み」

俺の猫の鳴きまねもなかなか上手いじゃないか。
浅倉の足元までやってきた俺は、浅倉が何を食べているのか覗き込んだ。
うっわ〜・・・これ、蛙ではありませんかいでしょうか?
・・・驚きの余り変な言葉遣いになってしまった。
浅倉が齧り付いていたものは、蛙の姿焼き。というか、丸焼き。
次にビニール袋を覗き込む。
あ、こっちはまともだ。袋の中にはおにぎりやサンドウィッチといった、普通の飯がはいっていた。
蛙だけがちょっと変わってるだけらしい。
袋に頭を突っ込んでいたら、子猫の俺は空中に浮かんだ。
もう、このパターンには馴れたものだ。蓮と同じで、浅倉に首根っこをつかまれて持ち上げられたのだ。
そのまま、胡坐をかいている脚の間に置かれ、そのまま背中をなでられる。
・・・・浅倉って、猫にはこんなに優しかったんだ・・・・・。
見かけによらず、実は猫好きらしい浅倉。新しい情報ゲット。
と、そんな風に考えていた俺の鼻に、何やら香ばしい香りが・・・。

「・・・食うか?」

差し出されたのは、浅倉が先ほどまで食べていた蛙の丸焼き。
・・・確か蛙って鳥肉に近いんだったよな・・・食感が。
こ、ここでコレを食べればもっと浅倉は心を開いてくれるだろうか・・・・?
はっ!!そうしたらライダー同士の戦いも良い方向に進められるかもしれない!!
頑張れ俺!!負けるな俺!!ここで男を見せなきゃ何処で見せる!!
俺はごくっと唾を飲み込むと、差し出された蛙に目を瞑って齧り付いてみた。
あむ・・・あむあむ・・・・
あ、結構美味いじゃんこれ。
更にもう一口。また更に一口。
あむあむあむあむ。
浅倉はそんな俺の背中を撫でている。

がさがさ

ん?何の音だ?
蛙の肉を咥えながら上を見上げると、浅倉がおにぎりを食べ始めていた。

「みゃうみゃうみゃう!!」
「・・・」

人が食べている姿を見ると自分もそれが食べたくなると言うのは何故なのだろう?
そう思いながらも、俺はおにぎりを要求。
一瞬だけ細めた目でこちらを見た浅倉は、持っていたお握りを解して、掌に載せた。
そしてそれを俺の前に差し出してくれた。
あむあむあむ。
確かミルキーウェイとか言うんだよな。コンビニでお握りに使っているお米の種類って。
冷たくしても固くならないお米とかいったっけ。
あむあむあむ。
お、これおかかだ。
浅倉の掌にあったご飯は瞬く間に無くなった。
はぁ〜・・・食った食った。
このサイズだと少量の飯で済むから経済的だよなぁ〜。
俺は腹いっぱいとなり、浅倉の足の間で伸びをする。
なんか、のんびりでいいな。攻撃的じゃない浅倉も見れたし。
浅倉は二つ目のお握りを食べ終わると、さっさとサンドウィッチも食べ終わり、先ほど組んでおいた井戸水の入った桶から水を飲む。
鳥の長閑な鳴き声が聞こえてくる。
ふわぁ〜・・・・
思わず欠伸が出てしまったそのとき、

――キィイイン!!

「「!!」」

聞こえてきたのはモンスターの音。

「飯も食い終わったところだ。丁度良い、食後の運動でもするか・・・」

走り出した浅倉を追いかける形で俺も走り出す。そして、音がする硝子窓まで行くと、

「ドラグレッダー!!!」
「何っ!?」

俺の呼びかけに、ガラス窓から投げ出されたカードデッキ。
俺はそれに飛びつくと、

「変身!!」

――カシィイイン・・・!!

「・・・龍騎だと・・・・?」
「あ・・・・・」

やってしまった。








その後、モンスターを倒しタイムリミットぎりぎりに戻る。入ってきたガラス窓を抜けた瞬間、

ぽしゅん。

何かが抜けたような音と共に、俺は地面に落ちた。何のことは無い。また猫の姿に戻ったのだ。
どうやら、猫からライダーに変身すると、普通のライダーになるが、その変身を解くと変身する前の子猫の姿にもどるらしい。
がさり。
音のする方を振り向くと、其処には浅倉が立っており・・・・

「お前・・・龍騎なのか・・・・?」

目つきが危ない。(ように見える)

「あ・・・あははははは・・・・・・」
「随分、面白いことになってるじゃねーか・・・・」

すばやく首根っこを捕らえられ、浅倉の目の前まで持ってこられる。

「は・離せ!!」
「何を怖がる?飯をやっただろうが・・・」

そうは言いながらも、不適に笑う浅倉が怖い。

「こ、コレはカンザキシロウが・・・・」
「成る程な・・・アイツが何かしたわけだ・・・・・」



で、結局。




「そろそろ俺、帰らないと・・・」
「まだ居ろ」

俺は浅倉の腕のなか。浅倉は俺を抱いたまま、横になって寝る体制だ。
あの後、戦わない代わりに一つの条件を突きつけられた。
それは、猫の姿のまま、浅倉の傍にいること。
因みに、何時間いるのか聞いていない。
でも、かれこれ3時間は過ぎようとしてるんじゃないか?
俺、一回会社に戻らなきゃいけないのに〜!!
って、そうだよ!!お米!!今日もらったお米を皆で分けるんだよ!!
もし帰りが遅くなったら、間違いなく罰金と称してお米をごっそり持ってかれる!!
帰らなきゃ!!!!!

「行くな」
「いや・・・あの・・・・」

浅倉の腕から抜け出して走ろうとしたとたん、捕まれた尻尾。
捕まれた瞬間に、なんかすんごくぞわぞわした物が背中を張った。すごく嫌な感じだ。
そういえば、猫や犬の尻尾には神経が集まっているから触れるのを嫌がる仔が多いって言うよな・・・。
じゃなくて。

「離してよ浅倉!!俺帰らなきゃいけないんだ!!」
「なら、戦うか・・・?」
「それじゃぁ同じだろ!?」



あぁ・・・遠くで烏の鳴き声が聞こえる・・・・・



俺の帰れる日は来るのだろうか・・・・?













その日、俺の米の取り分は見事な少量だった。







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きっと、アトリに帰ったら秋山氏にどなられるんでしょうね。
米の取り分について(笑)(そっちかよ)
で、その理由(浅倉のこと)について話すと、
今度は違う意味でもんのすごく怒られるんでしょうね・・・・(笑)
やれ「お前は危機感が足りない」やら「お前はそれでも猫か」とか、
的外れな怒り方で(あははははは)