――Two wishes and hope――



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次の日。
佐野は再び辺りを見渡しながら、挙動不審に構内を歩いていた。
何時ものように逃げる為・・・・ではなく、今回は東條を捜していたのだった。
昨日の事故で助けてくれた御礼をしなくては、と辺りを見渡し歩いていた。
とはいえど、大学+大学院があるこの校舎に一体何百人の生徒がいるのだろう?
それに、教授や関係者やらなんやらで人が沢山いるのだ。
探そうとするならいっその事呼びだしてもらって・・・・いや、大学側がんな親切はしてくれない。
個人の為には出来ないのだ。


「うーん・・・」
今まで東條と遭遇した場所は・・・・外の通路を歩いていてばったり。
階段の踊り場でばったり。

・・・・だめだ、余りにも情報が少なすぎる。

仕方なく、虱潰し行き当たりばったりで・・・・つまりは運に任せることにしよう。











「鹿島が・・・たく、あの軽薄者が・・・」

その日の昼休み、食堂には大河と東條の姿があった。
前日の件を大河へと相談していたのだった。

「大河・・・これは・・・」
「やっちゃいけない事だ。いくら100%安全と保障していても、そもそも誰かの命を脅かすような行動は根っから間違ってる」
「だよね・・・」

大河の言葉に、安堵の表情を浮かべた。

「鹿島は多分、佐野の中にある“自分を殺そうとする東條”のイメージを“自分を助ける東條”にすり替えたいんだろうな」

多分、佐野の中にある東條へのイメージは佐野を殺そうとする東條、だろう。
そのイメージを根っから変えようとしてるのだろうが・・・・
いくら何でもやりすぎだ。
誰かを危険にさらすなんて決してやってはいけないことだ。
考え方は分からなくはない。だが、もっと他に方法があるはずだ。

「でも、鹿島はやり方を変えるっていってたから・・・・」

多分、今回のような無茶な事は無いだろう。

「・・・・分かった、今回は俺も何も言わないでおこう」

もしかしたら、少しは佐野の中のイメージは変わったかもしれないのだから・・・。



大学の講義は基本90分の1時間半。
朝9時からスタートし、10時半に1限目が終わり、移動を含めた10分休みの後10時40分から、12時10分までが2限目となる。そして1、2限目が終わり、昼休みの50分が終わり、午後の講義が始まる。
午後は3,4,5,6限目まであり、1時からスタートして、6限目まで行けば大体6時過ぎだ。
その講義と講義に移動、休憩時間として入る10分休みの間、移動しながら東條を探しているのだが、やはり見つからない。

 ・・・もしかして、今日は来ていないのか?

必須の講義をぬかせば、自由に自分で時間割を組める大学の授業。
授業は各カテゴリー別ーーーー社会、国語、数学等ーーーーに区枠をされ 、そのカテゴリー毎に最低限の取得単位数(簡単に言うとポイントである)があり、その最低限の単位を取得し、更に大枠(カテゴリーをフォルダー別に纏めたようなものか)の単位数を取得する。
つまり、この曜日に講義を取らなければ、その日は休みとなり、休みたい曜日も自分で選べるのだ。
アルバイト、家の事情、色々な理由で、休みを決める学生たち。
変な話、最初の1年、講義殆どを欠席しても残りの年数で大学側から出されている最低限の講義時間数をクリア―すれば大学は卒業出来るのだ。
まぁ、途中試験等もあるが・・・・閑話休題。
東條は今日は来ない日なのかも・・・。
佐野はそう考えると自分の次の講義室へと足を向けた。

次の講義は物理学の基本的な物。
正直、数学交じりの授業の様だが、これまた中々面白いと評判であり、人数制限のある小さな講義室、申し込み人数が毎回オーバーするとか。
運よく半年の講義に名前を入れられた佐野は、本日2回目の講義に早くも胸を躍らせていた。
担当教諭は・・・香川教授。






「講義を始める前に、今日はアシスタントとして、ゼミ生に手伝ってもらう」


その言葉に慌てて入口へ顔を向けると、少し影のある、あの東條が立っていた。

―――― っいた!!

まさかここで会えるとは。
佐野と眼が合った瞬間、東條は驚いたように目を見開き、その視線をそらした。

「・・・・・」

・・・・・えっと・・・;

何と無く、どうしようなどと心の中で考え始めた最中に・・・

「では、本日の講義を始める」

香川の声が講義室に響いた。


抗議の内容は物理学を簡単に説明してくれる講義だ。
模型を動かしながらの講義だったので、教授は説明役に徹し、アシスタントであるゼミ生が模型を動かす。
中々模型の出来が良いのか、講義の内容は面白く、必死にノートを取るのだが、その都度、東條が視界に入る。
講義が終わったら捕まえて、昨日のお礼と失礼な態度を取った詫びをしいう。
佐野はそう決めた。




そうして講義も終わり、佐野は片付けも程々に席を立つ。

「あ、あの――――」
「東條、少しいいか?」

タイミング良く、廊下から声がかかる。
外から呼ばれた東條は直様そちらを向いて、

「大河」

佐野に背を向け、話し始める。
どうやら同じゼミ生のようで香川教授も一緒になって何やら話し込み始めた。
こうなってしまうと外部である自分はどうにも入り辛い。
佐野は気がつかないまま声をかけた青年に軽く恨むぞー等と思いながらしばらく様子を見たのだが・・・・

「ありがとうございましたー」
「気をつけて」

他の生徒は荷物を片付け終えて、講義室を出て行き始める。
一人残るのも何だか変だし・・・・・・
仕方ない・・・・出たとこの階段で待っているとしよう。
しかし、階段で待てど暮らせど話は終わらず、そうこうしているうちにチャイムがなってしまう。

――――― しょうがない・・・・・

一先ず、東條が香川ゼミに入っていることが解っただけでも良しとしよう。
次の講義もあるので、佐野は仕方なくその場を離れた。





「にしても、佐野が来て居たとは驚いたな。」

香川教授のアシスタントを終えた東條は、香川教授と別れ、大河と共に構内のエントランスでペットボトルのお茶ーーーーー自宅から持参品ーーーーーを飲んでいた。

「・・・・うん」
「どうした、元気ないな?」

東條は小さくため息を着いてテーブルに突っ伏した。

「なんか・・・・・・ダメかも・・・・」
「何がだ?」

東條は小さく唸り声をあげて、嫌々と首を横に振る。
どうやら自分の感情をうまく説明できないでいるようだ。
大河は苦笑をこぼすと、もと契約者だった青年の髪を掻き乱した。

「ちょっ・・・・やめっ・・・」

やめてくれと自分の頭を両手で抑えてガードする東條を、今度はあやすようにぽんぽんと叩く。

「佐野と顔を合わせ辛いか?」
「・・・・・・・」

先程、講義が終わった講義室。
終わったのを確認して顔を出したのだが、その中には驚いたことに佐野がいたのだ。
そして、名を呼ばれた東條の表情は分かりやすいほどに、『助かった』と書いてあった。ー

「・・・・・・・」
「階段でのこと・・・・・気にしてるのか?

鹿島が昨日遣らかした事。
いくら自分のためとは言われてもこんな気分の悪いものはない。
東條と鹿島は親友だ。
自分が入学する前から知り合っている二人は、こちらが契約していたにも関わらず、何処か入りがたい所で繋がっているようだ。
そんな相手が自分を思ってやったことなのだ。
心境は複雑だろう。
大河は一つ息を吐くと、再び東條の頭を撫でた。

「うにゃ・・・・」

猫のような変な声が出た。
一応年齢的には東條の方が上になるのだが、どうも弟を見守る兄の心境になってしまう。
前は自分の半分程だった元契約者。
身長の分、気持ちも少しは近づけただろうか。
大河は小さく笑みを浮かべた。

「東條、今は起きたことにうだうだ言っていないで、これからの事を考えよう」

ゼミ室に居た佐野の様子はどうも東條に声をかけたそうにしていたし・・・・・
もし鹿島の思惑通りになっていたなら・・・・・
何はともあれ、鹿島がこれ以上馬鹿な事をしないよう警戒すべきだ。

「あいつも・・・お前が心配なんだな・・・・・・」

本当に・・・契約していたのは自分だというのに・・・・
何だか酷く置いてけぼりを食らっている、そんな気分だ。
大河は再び東條に声をかけた。

「次の講義の宿題、ちょっとみせてもらえるか?」

大学の講義は基本全学年を受け入れるから同じ教室に色んな学年が集まるのだ。
そして、次の講義で東條と大河は一緒に受講していた。

「・・・・珍しいね」

東條はようやく頭を持ち上げた。
大河はどんなに忙しくても出された課題はしっかりこなしてくるタイプだったが・・・・


「少しな・・・・」
「ふーん・・・・・鞄、ゼミ室だ・・・・」

今日の助手をするに当たって一回ゼミ室に行ったのだが、その時鞄をおいてきてしまった。
中には他の授業の教材もあるからなにしろ一回取りにいかなくては。

「なら、取りにいくか」
「一緒に来てくれるの?」

きょとんとした顔に頷いてやれば、嬉しそうに東條は笑った。










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