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――Two wishes and hope――






















3人の会話から一週間程が経過していた。
佐野は一先ず、東條を警戒しながら今まで通りに大学へと通っていた。
通路に出ては見渡し、教室に入れば見渡し、広場に出たら見渡し・・・・思いっきり警戒していた。
傍から見て・・・
いや、傍からではなくとも、物凄く不審者である。


確かにあれは夢なのだ。
夢にここまで警戒してるのは、相手に対して酷く失礼だろう。
なんせ、実際には起こってはいないことなのだから。
だがしかし。
正直自分でも分からない。
あそこまでリアルな夢で、しかも殺されかけた相手だ。
正直あれがこれからの未来、つまり正夢になるのか、それとも何かのお告げで前触れなのか・・・・
何にせよ怖い。
どうしようもなく怖いのだ。
だけれど、大学に入学するためすでに100万近い額を振り込んでいる。
それだけは何とか回収したい。
その為には、意地でも残りたい・・・・。
だがしかし、東條は怖い・・・・。

そんなこんなで、佐野は日がな1日、不審者っぷり満載で大学内を行き来していた。

そしてある日。
やはり辺りを見渡しながら構内を歩いていた佐野は・・・

「っ!?」

下り階段残り2段ほどで、誰かに背中を押された・・・ような気がした。
いきなりバランスを崩し、前のめりに倒れこむ・・・直前。

「佐野君!!」

誰かの声が聞こえ、何かに抱きとめられ・・・・たまま、一緒に倒れた。

「い・・・てて・・・・」
「・・・・ぅう・・・」

どたん!と大きな音を立てて倒れ、誰か巻き込んでしまったようだ。

「わ・・・わるい・・・」
「・・・だい・・・じょうぶ・・」

直ぐに退いて、慌てて後ろを振り向くが、階段には誰の影も見当たらない。
やはり自分の勘違いだったのだろうか?

「あ・・・あの」

下から聞こえてきた声に、ハッと我に返り、慌てて退いた。

「わ、悪い、どこか怪我とかしなかった!?」

と、手を差し伸べてから気づいた。

「大丈夫だよ」
「と、東條・・・・・?」

目の前に仰向けで倒れていたのは、自分がここ最近怯えて逃げまくっていた相手、東條であった。

「う・・うわぁあああ!?」

慌ててばらまいた荷物をひっかき集めその場から逃げだした。









そうしてたどり着いた構内の駐輪場。

「はぁ・・・はぁ・・・」

一先ず、自分の愛車までたどり着いて、もたれかかるように圧し掛かった。
そこでようやく冷静になれてきた。

「・・・・どうしよぅ」

 ――― 思いっきり失礼なことをしてしまった・・・・;

今まで逃げていた相手に、いきなり会ったのだから、しょうがないと言ってしまえば・・・・
いやまて。
しょうがないどころか、これは勝手にこちらが逃げている一人相撲なんだぞ?
そのうえ、危ないところを助けてくれたというのに、御礼どころか血相を変えてにげだしてしまった・・・・

 ――― 流石に、これは相手に謝らなくては・・;

そこまで考えてふと、思いついた。

 ――― もしかして、これは何かの作戦・・・だったり・・・?

確かに自分は感じたのだ。
あの時、階段から背中を押された感触を。
だがしかし・・・、東條は下で自分を助けてくれた。

 ――― いや、まてよ?

いくらなんでもタイミングが良すぎないか?
何であの時東條があの場所にいたんだ?
この大学は結構な広さだぞ?
それをあのタイミングであの場所にいるって、おかしくないか・・・?
疑い深いといってしまえば、そうかもしれないが・・・

「う〜ん・・・・」

だがしかし、もしもあの“夢”が現実のこれからの未来だと仮定して・・・
東條が今のうちに俺を殺そうとしたとしても・・・おかしくはないのでは・・・・?

だが、待て自分。
東條の位置は階段の下だ。
背中を押してから下に移動と言うのは、無理だ。
いくら俊敏な人間でもこれは危ない。
確か、夢のなかでの東條は100%インドア派だ。
この現実世界での東條が、実は真逆のバリバリのアウトドア派であり、階段を一気に3段飛ばしで走れるとすれば違うが・・・・
たぶん、違うだろう。
たぶん・・・だが。

大体殺そうとしている相手を突き飛ばすことはあっても助けることはないのではないか・・・?
だって助けてしまったら意味はないのだらか。

ではやはり自分の勘違いだろうか・・・?
何か階段の窓が空いており、そこから突風的なものが入り込んで背中を押されたように感じただけだったのだろうか?
そうして、たまたま偶然にそこを通った東條が助けてくれた・・・?

・・・違和感はあるが・・・・だが、今回は確かに助けられたのだ。
これ以上疑うのは悪い。

佐野はそうやって自分を納得させてひとり、頷いた。










「鹿島!!」

場所は変わり、香川教授のゼミ室。
他のゼミ生もいるのだが、ちょうど誰もいないらしく、其処には鹿島と東條の二人がいた。

「何だよ東條?」

怒鳴り名前を呼ばれた鹿島に怒鳴った東條。

「何だよはこっちだよ!!何であんな危ないこと!?」
「ちゃんと佐野を受け止められただろう?」
「出来なかったら佐野君は危なかったんだよ!?」
「分かってるって。じゃなかったらあんなこと誰がやるか」

簡素なスチール椅子に飄々と座っている鹿島はどこぞで買ったいちごミルクのパックジュースをちゅーっと飲んでいた。

「何であんなことしたんだよ!?」


―― お昼休みにもうすぐ入るという頃。

―― 東條の携帯電話がメールの着信を知らせた。

―― 『12:15 東館3階特別室前の青階段の踊り場 絶対に来い』


わけが分からなかったが、一先ず鹿島からだったので、その時間にそこまで赴いた東條。
15分ちょっと前に付いて辺りを見渡したのだが、鹿島の姿は見当たらなかった。
なので、声をだして呼ぼうとした瞬間に・・・

「ッ!?」

階段で今まさにこちらに落ちるように前屈姿勢になりかけていた佐野の姿が目に入ったのだった。

「佐野君!?」

反射的に佐野へと腕を伸ばし、そのまま二人で倒れこんだったのだ。
視界いっぱいに東條が写りこむ、そのほんの僅かな瞬間、視界の端に確かに映ったのだ。
階段の大きな窓ガラスに、反対階段を音もたてず登っていく鹿島の後ろ姿が。




「言ったじゃんか」
「え・・・・?」

ぢゅー・・・っと、パックジュースを飲み干し、そのままゴミ箱へと放り投げた。
そして、にんまりとした笑みを浮かべた鹿島。

「東條と佐野の間を取り持つって」
「え・・それ・・え?」

意味が分からない。
それがあの行動とどう繋がるのだ?

「佐野のピンチをお前が寸でのタイミングで助けるんだよ」
「・・・・」
「いくら佐野でも助けてくれた相手に対して、無碍な態度は取らないはずだ」
「そりゃ・・・そうかもしれないけど・・・・・」

だけれど・・・

「もしもってことがあるじゃないか!」
「その時は俺が自分で助ける。まだいくらかは以前からの力があるからな」

以前の力。
モンスターであった頃の力が僅かだがある。
つまりは種も仕掛けもないイリュージョンができるのだ。
本当に危ないと感じたら、きちんと救出できる。

だけれど・・・

「でもやっぱ・・・・」
「大丈夫だ。お前は心配しすぎなんだよ」

そう言うと、鹿島立ち上がり東條の肩に手をおいた。

「ほら昼休みが終わるぞ。3限目あるんだろ?」
「・・・・」
「東條?」
「約束・・・・」
「ん?」

迷ってい下を見ていた東條の視線は、鹿島へと向けられた。

「いくら力があったって、やっぱ危ないものは危ないよ。だから、鹿島約束して」
「はぁ〜・・・」
「絶対に、今回みたいなことはやめて。こんなことまでするのはおかしい・・・と、思う・・・・」

鹿島へと向けられた視線は、最後の方は再び斜め下へと向けられてしまった。
その視線の動きに、東條の中で僅かな迷いを感じ取った鹿島。

「分かった。一先ず別の方法で攻める」
「うん」





東條が居なくなったゼミ室。

「さーて、今度は何で行こうかなー・・・」

鹿島は座ったままの椅子をゆらゆらとバランス良く揺らしながら一人つぶやいたのだった。















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