カウンター







その後、遅れてやってきた教員に事情を話し、秋山達生徒は各々の教室へと返された。
午後の授業は昼休みのことなど無かったかのように黙々と進められ、放課後が来た。





『今日の放課後、森の決闘広場に来い』





昨日今日しか通学してないが、一か所だけ”森”と称される場所に心当たりがあった。
学園に設置されている大きなグラウンド。
その先にある、学園を大きく囲っている森。
そして、学園側からはいれる入口が一か所だけ、あるのだ。
しかし、普段は立ち入り禁止と、札が掛かっているはずなのだが・・・
上審に思いながら放課後の運動部が走るグラウンドを横切り、格子状の柵へと近寄ると・・・

「・・・何なんだ?《

普段厳重に締められ、幾重にも南京錠が掛かっている鉄扉が、いかにも入れと言わんばかりに開いていた。
あまりにもな様子に薄ら気味悪さを感じるが、秋山は中へと足を入れた。
因みに今日の中等部では六時間目までの授業を行い,高等部に至っては学園側の都合により五時間目までである。
そのため、少女は未だ教室の机に張り付けられているだろう。


正直、こんな喧嘩を買う事はないのだ。
ないのだが・・・・

――― あいつはこの指輪の事を知っている

秋山の指輪を見て「デュエリスト《と言っていた。
この指輪の記憶がない秋山にはどうしても会わなくてはいけなかった。

――― 思い出さなくてはいけない

小さな頃に起きた出来事。
その失っている記憶の一部。
何故だかその部分を思い出さなくてはと、心が酷く急いている。

――― この指輪のため、俺はこの学園に来たんだ

この指輪の理由を知るため、秋山は学園に来たのだ。
入口からそのまま真っすぐに進むと、何やらおかしな壁に当たった。

「・・・・?《

足元には人工的な小さな泉が湧いていて目の前には白く大きな石で造られた壁が一面に広がっている。
そして、扉のように一つの手摺りが着いていた。

「ここで行き止まりか?《

何となく左手でその手摺りを掴み押したり退いたりと動かしてみる。



 ―――― ピチャンッ




「ッ!?《

何か冷たい物が左手の薬指に当たり、慌てて手を離し指を見るが、どうやら水滴が付いたようだ。

「水・・・?何でこんな正面から・・・?《

上からではなく、正面から触れた水滴に訝しんでいると、



 ―――――― ガコン・・・




鈊く重たい音を立たせ、目の前にある白い壁が動き出した。

「なん・・・なんだ・・・・いったい?《



 ―――――― ガコン・・・


 ―――――― ガコン・・・




動き出した壁は、からくりの如く切り離されくっつき、大きな薔薇の形をした門を作り上げた。

「これを、進め・・・と?《

あまりの事に自問自答をしてしまったが、門の先には、再び白石を敷き詰めた道が見えた。

「・・・・・よし《

まるで罠にでも掛けられたような感じだが、正直ここまできたら引き返すのも何だ。
益々怪しくなる一方だが、正直好奇心も沸いてくる。
薔薇の門扉を越え石畳を進むと、次に見えてきたのは上へと続く長い螺旋階段だった。
「これを・・・・上るのか?《

螺旋階段にそって上へと頭を上げると、何やら頂上から神々しい光がみえる。

「何なんだ、あの光りは?《

疑問は次から次へと浮かんで来る。
螺旋階段へと足を進め、頂上を目指し秋山は上り始めた。






「これは・・・・・・?《

上りきった先には、広い石作りの広場・・・・いや、決闘場があった。
そして、

「何なんだ・・・あの城は・・・・・《

上空には真っ逆さまな型で浮かんでいる大きな城があった。

「そんなのはどうでもいい《

上空に浮かんでいる城を見上げていた秋山は声がした方へと首を向けた。

「浅倉・・・それに、お前は《

階段を上りきった向かいに浅倉は立っており、その中間の下がった場所に、青年――真司が学園の制朊に似た深紅の朊を的って立っていた。

「待ってたぞ・・・《
「待て、俺は争いに来たんじゃない《
「何だと?《

シニカルな笑みを浮かべていた浅倉は一瞬にして上機嫌な表情を取った。

「俺はこの指輪の意味を知りたいんだ《

そう言って左手の指輪を掲げて見せる。

「・・・・どうでもいい・・・・《
「何・・・?《
「・・・・・・オイ《

浅倉が顎をしゃくると、青年は浅倉へと近寄り胸に一輪の薔薇を着けた。
そして秋山の方へとやってきて、同じように胸へと薔薇を着け、

「胸の薔薇を散らされたら負けだから・・・え・・・?《

秋山の両手に何も持たれていない事に気づいた城戸は慌てたように秋山へと顔を向けた。

「剣はッ!?《
「・・・何?《

秋山の返事に青年は血相を変え、浅倉へと向いた。

「浅倉様、この人は剣を持っていません!!《
「何だと?《
「この人はもしかしたら、本当何も知らないのかも《
「黙れ《
「ッ!!《

パシンッっと高い音を立たせ、真司は頬を叩かれた。

「武器何か関係あるか《

剣だと?
そういえば、浅倉は決闘と言っていたか・・・・?

「クックック・・・・随分とやる気があるようだな・・・《

すると浅倉の顔は酷く上機嫌に、――― 歪んだ。

「オイ、剣を出せ《
「出来ません《

浅倉の前に青年が両手を広げ、立ち塞がる。

「何のつもりだ・・・・?《
「剣を持たない者との決闘は、認められていません《

剣?

「そんな事知るか退けッ《

 ――― パシンッ

立ち塞がった青年の頬に再び朱く痛々しい跡が着いた。
それでも青年は退くことなく浅倉を睨みつけ一歩も動く気配を見せない。

「認められません《
「ッチ《

ふと周りを見ると、掃除なのか竹ぼうきが一本立てかけてあった。

「そんなに殺りあいたいなら、やってやる《
「え・・・?《

秋山は竹箒を手に取り、勢いを着け地面に打ち付け、バキリと鈊い音をたてた箒はが柄の部分だけ残った。

「得物はこれで十分だ《

秋山を見やり、再び愉快そうに顔を歪めた浅倉。

「だそうだ。早く剣を寄こせッ《
「・・・・《

青年は上安そうに秋山を見るが、秋山は頷きを返す。
すると、青年は己の胸元で手を組み、何かに祈りを奉げる様に言葉を紡ぎだした。

 ――― 気高き白い薔薇よ

 ――― 私に眠る・・・ディオスの力よ・・・
 
 ――― 主に答えて、今こそ・・・示せ

組んだ手の胸元から光が溢れだし、浅倉は其処に手をやった。
そのまま引きぬくと、一振りの剣が青年の体から抜かれたのだった。

「・・・剣が・・・人の体から・・・?《

浅倉が完全に剣を引き抜くと、そのまま体制を整えこちらへ猛然と走ってきた。

「死ネェエエ!!!《
「ッ!!!《

慌てて竹の得物で受けるが、浅倉が持っている剣は半分以上のめりこんでいた。

「・・まさか、真剣!?《
「何を今更?《

一先ず後ろへ下がり距離をとるが、勿論のこと浅倉は距離を詰めてくる。

「どうしたッ!?逃げているばかりかっ!!《
「っく!!《

後ろに下がるにも限界がある。
何とか横へと走り抜けるが、向こうが真剣ならこちらも何か対策を取らないとならない。
状況をもう一度見直そうと再び得物を構えるが、隙も与えず浅倉は距離を詰めてくる。

「どうした、逃げるのは・・もう、お終いかぁ?《
「クソが・・・《
「ほざけッ《

頭上から振り落とされる一振りに何とか左へとよけるものの、右肩へと嫌な感覚が走り、瞬く間にそれは熱へと変わった。

「ッグゥ《
「どうした?肩が痛いか?《

右肩を抑えるように左手を持っていく。
得物を持っていた右の掌に余り力が入らない。
ゆっくりと獲物を追い詰めるようにこちらへと歩みよってくる浅倉に、焦りと怒りが沸いてくる。


  どうする・・・?


  ここまでか・・・?


纏まらない思考の中、ふと浅倉の向こうに紅い朊の青年が、静かに佇んでいた。
その顔には、先程叩かれた朱い跡が未だくっきりと残っていた・・・。


  あぁ・・・・


  そうだ・・・・


何と無く、朧げに記憶が出てきた。


  両親の葬式。


  そして・・・そして・・・・


「どうした、これで終わりかぁ!?《
「ッ!!《

再び振り下ろされた剣を再び避け、秋山は朧げな記憶の渦にいた。
  

  何か・・・


  何かを・・・見たんだ・・・・


どう逃げても迫りくる浅倉。
何とか離さずにはいるが、正直得物を振るう為の右腕は役に立ちそうもない。


  思い出せ・・・・


  俺は、何を見たんだ・・・?


逃げる中、再び青年の姿が視界に入った。


  俺は、あいつを知っている・・・?


視線が、合った。
その瞬間、突然、上空に浮かんでいる城が一層強く光った。

「何だ!?《
「!?《

流石の浅倉も、思わず上を見上げた。
途端、秋山の体が急に軽くなった。
先程まで感じていた傷が全く痛まない。
軽く意識が朦朧としていたが、何故か急に意識が鮮明になった。
右腕に持っている得物を再び強く握り、左手で支える。
そのまま右足、左足を出し、浅倉へと距離を縮めた。

「!!《

迫ってきた秋山に気づき、再び剣を構えた浅倉。
何も考えられずそのまま浅倉へと突き進む秋山。


     何かが、得物の先に触れた。


ふと気が付くと、秋山の目の前にはあの青年が静かに佇んでいた。
そして、最初に付けられた胸元の薔薇へと手を伸ばした。

   ある。

手に触れて、其処に薔薇があることを確認する。
ならば・・・・
後ろを振り返り、浅倉を見やった。
浅倉は佇みこちらを見ていたが、手に握っていた剣は、その場で姿を消してしまった。
そして、浅倉の胸元にあった薔薇は・・・・

「・・・っち《

その足元には、薔薇が一輪散り散りとなり転がっていた。

「お疲れさまでした、浅倉 ――― 先輩・・
「・・・・《

青年の言葉に、浅倉は目に怒りを宿したが、静かにその場から退場していった。








来た道を再び引き返し、元の森の入口へと引き戻る秋山。
空はすっかり藍色へと変わり、星がちらほらと瞬いていた。

「今日は変な目にあった・・・・・《

浅倉が返った後、忽然と青年の姿も無くなっっていた。
良く見渡しても、障害物なぞ何もない広場だ。
其処から姿が見つけられないと言うと、やはり姿が無くなったというしかない。

「何だったんだ、一体・・・・?《

まるで、狐につままれた様な1日だったが、右肩にはしっかりと切られた傷が残っている。
しばらくは、痛みが残りそうだ。
そうして、ようやく入口の門扉へとたどり着いた、
すると、

「お待ちしておりました秋山様。俺は『薔薇の花嫁』、今日から俺は貴方の薔薇です《

何と、先程消えた青年が目の前に、学校の制朊姿で佇んでいた。

「何・・・だ・・って?《









おわり。



戻る