「蓮ってさ、人魚姫みたいだよな」







〜青の底〜








城戸の台詞に隣で紅茶を飲んでいた手塚は、一瞬咽る思いをした。

「・・・いきなり何なんだ?」

入れたばかりでは無かったのが幸いに、火傷などはしなかったが、いきなりの爆弾発言に手塚は隣で同じように紅茶を飲んでいる城戸を見やった。


人魚姫

それは、デンマークの代表的な童話作家・詩人でもあるハンス・クリスチャン・アンデルセンが書いた童話の一つで、
助けた人間の王子に恋をした人魚の姫が、自分の大切な声と引き換えに人間の足を手に入れ王子に会いに行くが、
違う女性と結婚することを教えられ、王子を殺して人魚に戻ることなく海の泡としてその命を落とすという悲恋な物語である。


これのどこが秋山に似ているというのだ。


「秋山はそれ程純情でもないと思うが?」

どちらかと言えば、タフな方だ。
手塚の言葉に、少々考える様子の城戸は気がついたように、笑いながら首を横に振る。

「あぁ、最後の方じゃなくて最初・・・・半ばかな?」
「半ば?」

つまり、人魚が王子に会いに行くために魔女へ己の声を差し出したあたりか。
手塚は頭の中に人魚の秋山を想像するが、どうも、やはり、どうしても、体格の良い真っ黒い人魚が出来上がってしまう。
ある意味、魔女の方がそれっぽい、等とまで考える始末だ。

「人魚姫ってさ、自分の大切な声を魔女に差し出すんだよな」
「話ではそうだったはずだ」

人魚はその声が酷く美しいと言われている。
つまりは、それが彼等の大切なものだったはずだ。
城戸は空にになった紅茶のカップを隅に退け、そこに伸びるように机にうつ伏せた。

「自分の命程大切だったその声を差し出して、人間の足を手に入れるんだ」
「・・・・・・」

城戸の言葉に、手塚は城戸の言わんとすることを何となく察した。

己の大切な物を引き換えに、手にした一つの希望。

「それなら、その他のライダーも人魚姫みたいなものじゃないか?」

それぞれが己の理由に戦うライダー。
皆、これからの人生、命と交換にデッキを――希望を手に入れた。

「そうだね・・・でも、俺、蓮と手塚君の理由しか知らないからさ・・・」

手塚は亡くなった友人の変わりに、このライダーの戦いを止めるため。
そして、秋山は・・・

「それも、そうだな」

恋をして、会いたくて、自分の声と引き換えに足を手に入れた人魚の姫。
奪われて、取り戻したくて、自分の一生と引き換えにデッキを手にした男。

「でも」
「ん?」

カップに残っていた最後の一口を飲んだ手塚は、未だ机に寝そべっている城戸を見た。

「蓮は、消えない・・・消させない」

泡となって、粒子となって、この世から消えてしまう命。

「ああ」

手塚は、城戸の頭を軽く叩いて頷いた。











カウンター
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以前、日記にUPしたものを移動させました。
人魚姫って、ローレライの唄と参賞されるほど、美しい歌声だとか。
秋山氏は果たしてカラオケ何点なんでしょうね?
中の人ではなくて、秋山氏が。(笑)



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