たまには。



カウンター













その日は、別段何があるわけでもなく、北岡は一人でふらりとショッピングモールへとやってきていた。
たまには、のんびりと一人でふらつくのも良いだろうと思ってのことだった。
平日で夕方の時間帯。
人の足は少なく、その分のんびりと店を回っていた。
ふと、視線が動いた。
意図したわけではなく、ごく自然であった。

「城戸?」
「え?北岡さん?」

いつもながらの安物っぽいカラフルなTシャツと安物っぽいジーンズを穿いている青年は、驚いたような表情でこちらを見た。

「どうしたの、こんな所で?」

このショッピングモール。
基本的に有名ブランドが並んでいるので、目の前の青年の給与では手が届かない物が数多く並んでいるはずである。

「北岡さんこそどうしたのさ。由良さん一緒じゃないの?」

北岡の“こんな所で”と言われたことの意味を悟ったのか、少しムッとしたように北岡を見やる城戸。

「今日は休日なの。たまには一人でのんびりしようと思ってね」

そういう北岡の服装はラフな物ではあったが、仕立てのよさそうなものだった。
しかも、鞄が無い。

「鞄も持たず?」
「鞄は仕事の時で十分」

という北岡は、懐から財布を取り出し、カードを城戸に見せた。
つまり、買い物するのに鞄なんか持ち歩くか、ということらしい。
尚更、むすっとする城戸であった。

「で、馬鹿の甘ちゃんは何を求めてここに来たのさ?」
「馬鹿の甘ちゃんでわるーござんしたね、北岡さんには関係ねーよ!!」

踵を返しすたすたと歩き出す城戸。
何と無く付いてく北岡。

「着いてくんな!」
「いーじゃん、どうせ暇なんだろ?」

早歩きになる城戸に対して、少しだけ歩みを速めた北岡。
元々、コンパスの長さが違うのだ。
すぐさま北岡は城戸の横に追いついた。

「で、何を買いに来たんだよ?」
「・・・」

尚もそっぽを向いて、反抗する城戸。
これはこれで楽しい北岡。

「ほれ、御兄さんに話して御覧なさいな?」
「おっさんの間違えだろうが」
「ほう、そんなことゆーんだ」
「ええ、言いますとも!」
「じゃ、明日の取材はキャンセルな」
「なッ!?」
「素直に言うか?」
「こ・この・・・卑怯モン!!!」

明日は月一の、北岡弁護士への取材が入っているのだ。
それを盾に取られては城戸としても話すしかない。

「・・・を、買いに来たんだよ」
「ん?聞こえないな」
「だから、ユイちゃんへのプレゼントを買いに来たんだって!!」

城戸の言葉に、アトリで働いてるカンザキシロウの妹を思い浮かべた。
正直言うと、あまり面識がないな・・・。
それが最初の感想。

「誕生日か何かか?」
「別に・・そんなんじゃねーよ・・・」
「・・・・・プロポーズか?」

意外そうに、心の底から楽しそうに聞いてくる北岡。

「だから、ちげーって!!!」
「ムキになって・・若いねー」
「だからチゲーって言ってんだろうが!!!人の話ききやがれ!!!」

ムキになる城戸をからかうのは思いのほか楽しい。

「・・・ユイちゃん、ここ最近塞ぎこんでたから・・・何か出来ないかって、思ったんだよ・・・・」

そう、呟く城戸の顔は少し暗い影があった。
ここ最近、カンザキシロウは何か企んでいるのか妙な動きが増えている。
何か関係があるのかも知れない。
今度、近いうちに探りでも入れようかと、考えていると・・・

「なぁ、北岡さん」
「ん?あによ?」
「何か良いプレゼントって無いかな?」
「・・・・」

少し、思いつめたような表情の城戸に、珍しく助けてやるか気分になった北岡。



 ―――― 偶にはな。



「どんなもんが良いか考えてんの?」
「最初は鞄かなって思ったんだけど高くて・・・」
「まぁな、このあたりだとお前には高いだろうよ」
「む・・・・」

何せ、有名ブランドが立ち並ぶのだ。
この青年には高かろう。

「靴は?」
「サイズとデザインがよくわかんねーの」

確かに靴はサイズが必要か。
後は・・・

「服は?」
「考えたんだけど、もっと軽く使えるのがいいかなって・・・」
「んー・・・・・」

軽く使える・・・つまり、普段使いの品物。
で、なお且つこの薄給の青年で購入できる物。
カンザキソロウの妹はまだ19歳だったよな(既に調査済み)
以前見かけた様子だと、大人びいた様子はなく、年相応に明るい性格・・・。

「やっぱり、無理するべきかな・・・・」

城戸が小さく呟く。
あ、そうだ。

「城戸、予算は?」
「え・・えっと、高くて5・・・・い、いや、1万・・・・は無理だから、8千円・・・ぐらい・・・・」
「なら、十分だ。行くぞ、ついてこいよ」
「え・・って、ちょっと!?」

城戸を置いてさっさと歩き出す北岡。

「北岡さん!?どこ行く気!?」
「もう少し」

ショッピングモールの中を颯爽と歩いていく北岡と慌てて後を追っていく城戸。
そうして、しばらく歩いて行くと大きな文具店についた。

「文具・・・?」
「そ。で・・・こっちだ」

文具屋の中をすすむと、インテリア文具のコーナーに着いた。

「へぇ〜・・・変わった文具があんだ・・・・」
「これなんか、どうよ?」

北岡が手にしたのは、少し抑えめの色だが、とても綺麗で可愛らしい手帳用のペンだった。

「ペン・・・って、何この値段!?」

ペン1本で1千円〜1万5千程。
城戸が愛用しているのは、100円均一で大量に入っているボールペンだ。

「ペンより、デザイン費が掛かってるんだよ」

ほら、とキャップを外したペン先。

「お〜!!」

ペン先まで、細かな模様が彫りこまれ、見事に軸の模様と繋がっている、

「これなら、普段使いでも充分だろ」
「すっげ〜!!北岡さんサンキュ!!!買ってくる!!!」

北岡が持っていたペンを貰うと、城戸はさっさと会計へすっ飛んで行った。

「・・・ま、偶には役に立ってもいいでしょ」

城戸の様子に苦笑いを浮かべた北岡だった。








某事務所で、

「お帰りなさい先生。随分ゆっくりしてらっしゃったんですね」
「ああ、ちょっと・・・アドバイスをね」
「?」






某、飲食店で、


「ユイちゃん!!」
「真司君、どうしたの?」
「これ・・・何時もお世話になってる御礼っていうか・・・・」
「え・・・私に?」
「ほぉ、今から雨か?」
「うっせ。晴れだよ」
「開けてもいい?」
「うん、開けてみてよ」
「・・・・わぁ・」
「・・・ほぉ」
「可愛い・・・本当にいいの?高かったんじゃない?」
「そんなに高くはないよ・・・ユイちゃんに喜んで貰おうと思ってさ」
「ありがとうね真司君♪」















戻る


*****************************************************: