手塚の掃除。







傷ついた秋山を城戸とともに手塚がアトリに運んできた日。

「どうせなら、今日泊まって行ったらどう?」

そう城戸から提案され、秋山の傷の具合も心配だし成人男性を二人係とは言えど運んできた疲労も加わり、俺は城戸の言葉に素直に頷いた。
そうして、なんだかそのまま居候する様になってしまってから早1週間。
今はプチ家出した秋山も憑き物が落ちた顔をして、普段と変わらずに生活を始めている。

そんなある日、何時ものように慌しく出勤していった城戸、それを意地悪く見ていた秋山は、店の開店作業をし始めている。
どうやら城戸は今日持っていく資料が何処かに行ってしまったらしく、部屋を慌てながら探していた。

別にいいのだが、秋山。お前、城戸の私物を業と隠してないか?

それは置いておいて、俺はここに居候させてもらっているお礼に、本日はアトリの掃除をしようと心に決めていた。
因みに店の掃除ではなく住居の掃除である。
手始めにまずは食堂兼リビングから。
まずはソファーやテーブル等といった家具に布をかけ、埃が落ちても大丈夫なようにする。
そして、マスクと汚れても良い服装に着替え、ゴーグルをする。
埃などが目に入ったり、肺に入ったりしないように防御策である。
脚立を持ってきて、掃除の基本である上から埃を落としていく。

ぱたぱたぱた・・・・

結構綺麗に掃除されているように見えていたのだが、上のほうは掃除し辛いためか、所々埃の玉が見える。
そうやって下に落としていった埃を、今度は準備してあった掃除機で一気に吸い取る。

ガーガーガー!

一気に吸い取るこの感覚が気持ちいのだ。

がつんっ!

「ん?何だ?」

何かに当たった音がし、俺はテーブルの下を覗き込む。
其処にあったのはデジタルカメラ。しかも、今TVで宣伝している最新のタイプだ。
この間電気屋で見たのだが、10万近かったぞ?
はて、誰の私物なのか・・・・?
俺は、持ち主が分かりやすいように、テーブルの上においておいた。
そして最後に、家具にかけてあった布を内側へ包むように、乗っていた埃を落とさぬよう取り、それらは裏庭へ。
そこで、ぱんぱん!と、景気の良い音を立たせ埃を払う。
その布をたたみ、今度は自分達が眠っている部屋に。
昨日のうちに、この部屋を掃除したいことを言っていたので、城戸からも秋山からも既に片付けの了承を得ている。
まぁ、秋山は片付け魔らしく、きちんと整理しているため、掃除と言うと殆どが城戸の居住スペースで今現在自分が使わせてもらっているベッドぐらいだろう。

「さて、頑張るか」

自分に活を入れ、まずは城戸のベッドの下から整理を始める。

ガサゴソ

出てきた品々を一先ず空箱に積めて行き、後から整理することにした俺は手についたものからぽいぽいと空箱に入れていく。
そして、

バサバサ・・・・

「・・・・・」

ベッドの奥の奥から出てきたものは、グラビア系の雑誌、しかもかなり際どいものである。
まぁ、城戸も成人男性であるならば、これもそう驚くほどでもない。
俺は其の雑誌をぱらぱらとめくる。

なるほど、城戸の趣味は可愛い系か・・・・
・・・・・・ぱらり。
・・・・・・ぱらり。
おっと、掃除だ。

そう再び自分に言い聞かせ、出てきた雑誌類を折り目のつかないよう、空箱につめていく。
次にベッドの端の方で固まっている洋服を色移りしそうなものとそうでないものと分けていく。

「ん?」

其の中から、一枚の黒いシャツが。
はて、城戸は黒を持っていただろうか・・・?
黒と言えば思い出すのは、今下の店で働いているだろうこの部屋の住人。

「間違えで混ざりこんだんだろうな」

若しくは、城戸の着る服がなく、仕方なく秋山から借りたのだが返すのを忘れていたか。
そう自分で考え再び仕分け開始。
そうしていると、再び変なものを見つけた。

「・・・・秋山の下着・・・・?」

それは自分が洗濯物を畳んでいる時などに何度か見たことのあるもの。

「何故城戸の方に・・・?」

まさか、下着も借りたのか・・・・?
いや、まさかあの秋山が其処まで貸すわけは無い。
あの秋山はユイちゃんが認めるほどケチで金に煩くて、口が悪くて…etcなのだから。
まさか他人に下着を貸すことはまず無い。
では、何故これがあるんだ?
しかもなんだか使用済みっぽい感じで嫌だぞ・・・・
手塚は躊躇なくそれをこれから洗濯する山の中の奥につっこんだ。

因みに、ここで一回手を洗ってくることも忘れずに。



そして服の仕分けを終え、次に城戸のベッドのシーツを剥ぎ取り、部屋の隅に一時的に置いておく。後で、秋山のベッドのも剥ぎ取り一緒に持ていく予定だ。
そうして、ベッドの上に設えてある小さな棚に乗っている品を一旦どかし、用意してあった雑巾で棚を拭き、再び品を整理しながら戻す。
次に、秋山のベッドである。
秋山の方は先ほども確認したように殆ど整理されているため、やることはシーツの張替えとベッドの下の片付けである。
まずはシーツをはがし・・・・

「ん?」

白いシーツの上。
茶色い少し長めの髪が1本。

「これは・・・」

其の髪をつまみ、目の前まで持ってくる。
こういう髪を持っている人物はこのアトリの中では城戸だけだ。
しかし、城戸だとしても、何故秋山のベッドに城戸の髪が?
風で飛んだのか?それとも城戸が洗濯したシーツに毛が付き、それを気がつかず秋山は使っていたのか?
でももし、城戸でなかったとしたら、アトリ以外の人間になってしまう。
一応秋山は彼女がいる身だから、そういった間違えは無いと思うが・・・
秋山も成人男性なわけで・・・・・
う〜む・・・・・
考えていては掃除が出来なくなってしまうため、その考えは後でじっくり考えることとし、掃除を再会。
城戸のベッド同様シーツをはがし、先ほど隅に置いたシーツの上に置く。

かつん・・・

「おや?」

シーツを剥した拍子に何かが落ちてしまった。
俺はそれを拾ったのだが、

「・・・なんだ、これは?」

それは薬だった。
しかもなにやら真っ赤な錠剤である。

「秋山は持病持ちだったか?」

いや、そういった話しは聞いてない。
まさかどこぞの弁護士でもあるまいし・・・・
後で秋山にでも聞くとするか。
薬のベッドの上に置き、剥したシーツは城戸のシーツの上に置いておく。
そして、ベッド下の片付けになるのだが・・・・

「・・・・・・・」

手を入れて引き出したのは良くあるプラスチック製の透明収納ボックス。
これだけなら、ここにも洋服やその他の持ち物をきちんとしまっているんだな、と、収納上手として拍手なのだが、

「・・・・これは・・・・?」

収納ボックスから垣間見れる中身は、黒の中にある一着の赤。
チャイナドレス・・・・・?
 それは畳んであるためはっきりといえないが、チャイナドレスに似ているような気がする。
手塚海之、ここで他人のケースを開けてまで中を確認すると言うのは道徳に反することではないか?
いや、しかし秋山が何故チャイナドレス(と、思われる物)を持っているのか、どういったタイプ、ミニなのか、ロングなのか、スリットはどこまで入っている のか、知りたくはないのか?
いやいや、ここでもう少し長く生活をしていくためには今はぐっと我慢するんだ。
そうやって自分を何とか納得させた俺は、もう2つの収納ケースを引き出した。
そして、横から中身を確認。
だって、気になるじゃないか。
しかも、

「・・・・浴衣・・・しかも、この色合いだと女物か?」

2つ目に入っていたのは何着かの浴衣。色鮮やかなところから見て、きっと若い女性用だと思われる。
暫し考え、もしやこれは秋山の彼女のものではないのだろうかと考えた。
そう考えれば納得行く。まぁ、チャイナドレスはちょっとびっくりだが、浴衣ならおかしくないな。
うむ。
そうして、今度は3つ目を見やる。
あ、引き出した拍子にケースの中が引き出されてしまい中が見えるぞ。
俺はそれをただの事故、ということにししっかりと中を確認すべく、一着一着ちょっと出させてもらった。
黒いTシャツに上着。相変わらず黒いな。
そう思いながら、慎重に出していくと、

「・・・・白衣・・・?」

それは看護士の方々が着るような白衣。
白衣の天使か?

「・・・・巫女装束?」

朱色の袴。
祝詞でも上げるのか?

秋山・・・お前の彼女は随分と変わった趣味を持ち合わせていたんだな・・・;
そして、更なる探索。
ついに・・・

「け・・・警邏の女性制服・・・!!?」

女性警察の制服。
あ、秋山!!お前の彼女はカンザキシロウと同じ研究室にいたんじゃないのか!?
少々パニックになっている俺の視界に、ふとハンガーにかかっている城戸の服が見れた。

・・・・・
・・・・・・
・・・・・・・。

何だか城戸の服とサイズが同じに見える気が・・・・

俺は心が警報を鳴らし、必死にヤメロと叫んでいるのに、城戸の服を手に取り、恐る恐るその女性警察の制服に宛がってしまった。

「ッ――――!!!!」

あ、秋山!!お前の彼女は随分とがたいの良い女性だったんだな!!!
い、いや、ここまで来てしまったら素直に認めてもいいのではないか手塚海之?
そういえば、先ほど見つけた薬も何処か怪しげなものだったし・・・・
だ、だが、ここで認めてしまったら今夜から俺はここで寝るのにすごい抵抗感を感じてしまうではないか!!
俺はそう自分で考え出し、これらの服は秋山の彼女の服とし、丁寧に元の順で戻していく。
そして、その収納ケースを片隅に追いやり、掃除機をかける。
掃除機を終えてから再び収納ケースを元の順に並びいれる。
そして、洗濯機に放り込むものをさっさと洗濯機に入れ、洗った。
新しいシーツを2枚取り出してきてそれを皺なく綺麗にベッドへとかけて行く。
城戸のベッドにかけ終わると次は秋山のベッド。
実は秋山のベッドにはこれ以上近寄りたくなかったのだが、シーツを剥しっぱなしというのも良くないと考え、仕方なくシーツを引いていく。
シーツの端をマットの下に入れようとしたとき、

コン!!
カン!!ころころころころころ・・・・。

俺の視界から何かが床に落ち一つはそのまま床を転がった。

・・・・・。
はっきりと言ってしまえば見たくない。見たくない!
しかし、俺が落としてしまったのだから俺が拾わなくてはいけない。
だが見たくない。
なら顔を背けながら、落ちたものを拾ってもとの場所に仕舞い込めばいいじゃないか、となるのだが、それはそれで嫌だ。
暫く動かず悩んでいた俺は、意を決し、それらに視線を向けた。

・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・

一つは箱。掌に乗る大きさだろう。
しかし、それに書かれている名前は・・・・

「・・・・・家族計画・・・・・」

予想通りだ。俺の占いはあたる。
もう一つ。女性の化粧品で見られるよな円錐のガラス瓶
それは少し大きく、中には透明でとろりとした液が入っている。

「・・・・The gel of adult・・・・」





其の日俺は久々に自分の家に帰ることにした。








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何か落ちを入れようかと思ったのですが、あえてやめときました。
秋山氏の持っていた服は、城戸が編集長に頼まれてしまい、
自分のスペースに入らなかったので秋山氏に借金しておかせてもらっていたとか。

でも、きっとこんなんじゃないですかね、あの2人の部屋って。(笑)
 しかも、最初のリビングで見つけたカメラ。
もし秋山氏のものであったなら、中はきっとすごい物が入ってるんでしょう(笑)