「城戸、お前は俺とコイツ、どっちを選ぶんだッ!?」
選択
別に意識していたわけではない。
自分では本当に自然体だったのだ。
だけど、2人からしてみりゃーそれがいけなかったようだ。
さて・・・どうしたもんか・・・・
場所はいつものアトリの店舗。
ライダーバトルも終わり、新たな時間の中。
ふと思い出された、今の時間では無かった事にされた時間軸。
しかも、記憶を持ち合わせている元ライダー達に、何故かいるユイちゃん。
「私も皆と一緒に生きたい」
と言われれば、そういえばおばさんは?や、何故、みんな記憶があるんだ?や、記憶がなければもっと問題は小さかったかも、の前に、問題自体起きなかったかも・・・や、今日のユイちゃんの服はずいぶんとあたっかそうだねー・・・などといった多々の事はどうでもよくなってくる。
「城戸!」
「さっさと答えろ!」
今のこの状況。
一先ず分かりやすく説明・・・いや、弁明させていただきたい。
私こと、城戸真司(23)。
プロのジャーナリストとなるべく、ただいま携帯電話のニュース配信を主としたOREジャーナルにアルバイトとして雇われています。
将来の夢はプロのジャーナリスト、今現在はジャーナリストの卵とお呼びいただければ幸いにございます。
ある時、ふと頭の中に出てきた映像。声。感触。
すべての記憶が繋がった瞬間、俺は一目散にアトリへと走り出したのだった。
記憶をたどって、一度も通ったことのない思い出深い住宅の曲がり角を曲がり、経験したことのない辛かった階段と坂道を休み無く走り抜けて、目指す洋館へとたどり着いた。
「・・・つ・・・ついた・・・・」
息も切れ切れに“アトリ”と銘打たれた看板の扉を押して中に入ると・・・
「いらっ・・・・・真司君!!」
「ユイ・・・ちゃん・・・ッ!!」
生きていた。
あの戦いの中、他の人の命などで生きながらえたくはないと、自分の時間に、自ら終止符を打った心やさしい少女。
助けたくとも、助ける総べさえ、見つけてあげることができなかった少女が、今、目の前で生きている。
「ユイちゃん!!!」
思わず駆け寄り、力いっぱい抱きしめる、
温かく、生きているという実感。
「ユイちゃん・・・・ユイちゃん・・・」
「真司君・・・・また、会えたね」
「ん」
「また話せたね」
「ん」
「ありがとう」
「・・・・・こちらこそ」
あの戦いの中、少女をどうにか救おうと、方法さえ思いつかず、ただ我武者羅に走った青年。
自分が消えてしまうことを、とても悲しんで、必死で止めようとしてくれた青年。
それが嬉しかった。
「カンザキシロウは留学?」
「そう。お兄ちゃんは今度こそきちんと勉強してくるってアメリカにね。一昨年から行ってるんだよ」
ひとしきり、お互い再会を喜び合い、今は少女の淹れた紅茶に舌鼓をしている。
「あ、それにね、手塚さんや蓮もよく来てくれるんだよ!」
「え、あの2人記憶戻ってんの?」
「もう2カ月ぐらい前からかな?」
どうやらあの二人は自分よりも早く記憶があったらしい。
もしかして・・・・
「ライダーになった時間が関係してるのかな?」
「そんな感じだよねー」
等と久々の会話を楽しむ。
すると、
―――― カラン
再び鳴るドアベルに、
「やはり、来ていたか・・・」
「・・・手塚ッ!!!」
自分を助けるため、ライダーバトルの未来を変えるため、その命を落とし、自分の腕の中で息絶えた手塚が今、目の前に立っている。
もし・・・もう一度だけ、会えたら。
もしも・・・・もう一度だけ、話せたら・・・・。
何度願っただろうか。
「手塚ぁあああッ!!」
荒々しく座っていた椅子を蹴飛ばし、入口に立っている手塚に抱きついた。
腕の中で徐々に冷えていく体に、ただ声をあげて呼び掛けるしかなかった自分を思い出す。
「てづ・・・て・・・づか・・ぁあ・・」
「城戸・・・・すまなかった」
青年に抱きついて、そのまま子供のように泣き出した城戸を、手塚は力強く抱きしめ、安心させるように背中を優しくなでた。
その後、城戸の右隣に座った手塚だったが・・・
「城戸、お茶が飲みにくくないか?」
「大丈夫。カップは左手でも持てる」
城戸は手塚の左手を繋いだまま、離そうとしなかった。
つまりお手手つないでらんたった♪
離れることに不安がる城戸に手塚は優しく笑い、空いている右手で紅茶を飲んだ。
しばらくそうしていると、外から懐かしいバイクのエンジン音が聞こえてきた。
その音に緊張したのか、手塚に繋がれた手がびくり、と震えた。
しばし経ち、再び鳴るドアベルと・・・・
「・・・・・城戸」
「蓮・・・」
座っていた城戸より早く動いた秋山。
城戸の視界はすぐさま黒く染められた。
「・・・・・城戸・・・・・この・・・馬鹿が・・・」
「わりぃ・・・蓮・・・・」
あまりの出来ごと続きで、既に涙腺が崩壊しているようだ。
さんざっぱら泣いたのに、まだ涙がこぼれる。
「男が泣くな」
「そーゆーお前こそ・・・」
指摘された秋山も涙目になっていた。
その指摘に、「そうだな」と苦笑した秋山は再び城戸を抱きしめた。
「もう死ぬな・・・」
「無茶言うなよ・・・・」
「俺を、置いていくな・・・」
「蓮・・・・・」
そっと体を離すと、秋山は身を屈め城戸の顔に自分の顔を近づけ・・・・・・
――― グイッ!!!
思いっきり手塚に引っ張られた城戸は物の見事にバランスを崩し・・・ポス、手塚の腕の中に収まった。
「そこまでにしてもらうぞ、秋山」
繋がれた手は健在。
「・・・手塚・・・・」
静かな、そして渦を巻く真っ黒な怒りが立ち上る秋山。
「え・・・えっと・・・・・・?」
展開についていけない城戸。
確か、秋山に死ぬな等という無茶ぶりを言われ、そのあと・・・・顔が近付いて、手塚に引っ張られ・・・・・
つまり・・・どーゆーことっすか?
で、冒頭に戻ります。
「城戸、お前は俺とコイツ、どっちを選ぶんだッ!?」
いや・・・急に選択を迫られても・・・・・
と、いうか、手塚君と蓮しかないのかよ。
ある意味、究極過ぎやしないか、その選択肢。
せめて、ユイちゃんちゃんを入れるとか、選択肢増やす努力は無いのか?
未だ、手塚の腕に収まっているこの状況下。
その上、繋いでいた手は、今では指と指をからめあった繋ぎ方へと進化をしている。
もう片方の腕は、手首をがっちりと秋山に掴まれている。
助けを求め、少女へと視線を向けるが、なぜかキラキラしたいかにも興味深々な眼差しを返された。
だめだこりゃ。
そりゃー、今から思えば、多少・・・いや、かなり・・・?
思わせぶり的な言動をとったかのように、思われますが・・・・・
それでも、この状況ってどうよ・・・?
男を取り合う2人の男。
ハリウッド映画も顔負けなシチュエーションではございませんか・・・。
大岡裁きっぷりなシーンだよ。
等と内心ため息交じりで弁解をしていると、
「城戸!!」
秋山の声が響く。
「いや・・・選ぶって、意味がわからねーし・・・」
「そうだ、城戸を離してやれ秋山」
「お前が離せ手塚!」
手塚と繋いだ手と、秋山に掴まれた腕。
ふと、前の時間にはこんなこと無かったよな、と考えた。
そして、再び思い出された、手塚の死。
「なぁ・・・手塚」
「何だ城戸?」
繋がれた手に何か音を立てて柔らかく温かいものが押しつけられた気がしたが・・・・?
「もう、いなくなんなよ・・・・?」
「・・・・ああ」
手塚の行いに、吊り上っていた目をさらに吊り上げた秋山。
再び怒鳴ろうと、口を開けた時、
「蓮」
「・・・何だ?」
仏頂面の声。機嫌が悪い時の声だ。
掴まれた腕は、何時の間にやら手へと移動し、手塚のように指と指が絡み合っている。
あの時間、全てを拒絶していた秋山。
それが、こんなにも自分から関わろうとしてくる。
おかしいのか、嬉しいのか、自分の感情がぐちゃぐちゃで整理なんか付けられたもんじゃない。
「お前も、勝手にいなくなんなよ?」
プチ家出なんかもしやがったからな。
「なら、お前は勝手に死ぬなよ?」
ふてぶてしく言い返され、苦笑いが出た。
ふと、そんな自分の唇に、秋山の唇が触れて小さな音を立てて離れて行った。
・・・・・・ふへ・・・・・?
この三つ巴がその後どうなったかは、最初から最後まで
しっかりと見ていた少女だけが知っているのであった。
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