高貴なる色。
その日、アトリに帰ってきた城戸は大きな新聞紙の包みを持っていた。
「あ、お帰りなさい・・・って、真司君、それどうしたの?」
閉店作業もひと段落着いて、店のフロアで紅茶を飲んでいた面々。
ユイ、秋山、手塚。
「これは・・・赤紫蘇か?」
城戸へと近寄り、その包みを覗いた手塚は首を少しひねり城戸に尋ねた。
未だ包みを持った城戸は、それをフロアの床にそっとおいた。
「今日取材先で貰ったんだ♪」
「・・・梅でも漬ける気か?」
「あ、今時期だもんね」
「そういえば、今日もスーパーで見かけたな」
赤紫蘇イコール梅干。
間違ってはいないが、城戸はもっと違うことを考えていた。
「違うよ。これでジュースを作るんだよ」
「ジュース?」
「ユイちゃん、知らない?紫蘇ジュースって」
「・・・聞いたこと、あるような・・・」
他のメンバーもそれぞれ、どこかで聞いたことあるような気はするが実際にそれを目にした事は無いのか、少し首をかしげていた。
「すっごい綺麗な赤なんだ♪今日取材先で飲ませてもらってさぁ〜」
今日、紫蘇を栽培している農家を訪ねた城戸は、そこで赤紫蘇が葉を広げているのを見た。
そして、赤紫蘇の調理法は梅干ぐらいしか知らないことを告げたら、農家の人たちに軽く笑われてしまい、そこの婦人は自分家から炭酸でわった赤紫蘇のジュー スを コップ一杯持ってきてくれたのだ。
それの、なんと紅いこと。その上、甘くてとてもおいしかったのだ。
そのことを告げると、農家の人たちは喜んでくれて、お土産に沢山の無農薬で作った赤紫蘇を分けてくれた。
無論、作り方のレシピもつけてくれた。
「これ、期間限定でアトリのメニューに出来ないかなって思ってさ」
そういうと、今日取材で取ってきたデジタルカメラの画像を皆に見せた。
「わ、すっごく綺麗!」
「ほぉ」
「・・・随分と酢を入れるな」
「あ、蓮分かった?」
秋山の言葉に城戸は、嬉しげに聞いた。
「お酢?それって、あのお寿司とかに使う?」
「ああ」
「・・・・なるほど」
秋山の台詞に首をかしげるユイと暫し考え、もう一度画像を見て納得した手塚。
「こういった赤は、酢の酸を利用して、いわゆる化学変化で表すんだ」
「・・・・?」
「そうだな・・・・」
言葉だけの説明では想像しにくいのか、少女は首をかしげる。その様子を見やると秋山は立ち上がり、カウンターの中に入っていった。
それにつれられカウンターに向かう面々。
「たとえば、この茄子の皮」
明日の食材で使うために、冷蔵庫に入っていた茄子を一つ取り出し、薄っすらとその皮をむいた。
「茄子の皮がどうしたの?」
不思議そうに見やる少女と、秋山が何を説明しようとしているのか分かった2人の青年。
「これを水の中で潰すように揉むと、皮の色素が出て紫色になる」
「うん」
「この水を二つに分ける」
「うんうん」
秋山は2つの白い小皿に紫色の水を分けて入れた。
「アルカリ性である、食器洗剤。そして、酸性である穀物酢」
小皿の横に洗剤と御酢の瓶を置いた。
「アルカリ性のものを、この水に入れると・・・」
ぽた。
「わっ!」
「こういった緑色に染まる」
洗剤が入った小皿はその紫色を一変させ、濃い緑色へと変じた。
「そして、酸性を入れると・・・」
「あっ!」
先ほどと同様に、もう一つの小皿にお酢を垂らしたところ、
「すごい!紅くなった!!」
「こういった、色に変わるんだ」
「あ、そうか、だから蓮はさっきの画像みてお酢って言ったんだ」
「そういうことだ」
説明を終え、それでどうすると、秋山は城戸に視線を投げた。
「でさ、これから俺、今日貰ってきたレシピでその赤紫蘇ジュースを造ってみようと思うんだ。で、皆のOKが出たら明日、ためしに出してみようかって思うん だけど」
「そうねぇ・・・・ちょっと叔母さんに聞いてくるね」
ちょっと待ってて、と少女はそのままリビングに上っていった。
暫くして、
「真司君!叔母さんのGOサイン出たよ!」
「うっし!」
「城戸、俺も手伝おう」
「ありがとう手塚君」
「あ、私もやらせて!」
「一緒にやろう、ユイちゃん」
「で。秋山。お前はどうするんだ?」
そのままの勢いで、秋山に尋ねる手塚。
特に考えてはいなかったため、どうするか、とちょっと考え・・・
「蓮、一緒にやろうぜ!」
城戸の言葉に、偶には言いかと、頷いたのだった。
「で、最初は何をするんだ」
紫蘇ジュースの作り方。それは・・・
「まずはこの紫蘇の葉をよく洗ってから、一枚一枚摘む!!」
「結構、大変なんだ・・・」
「そうなんだよね〜、俺もそれを聞いたときに時間か借りそうって思ったんだけど・・・」
ぐるり、と面々を見回し。
「この人数なら、それほど時間掛からないと思うんだ」
予め、この作業は4人でやることになる、そう城戸は予感めいた感じで思っていた。
「ま、4人なら何とかなるか」
「じゃ、頑張りましょ!」
作業開始。
そして、
「おわった〜!」
およそ2時間後、大量にあった紫蘇は見事に茎と葉に分けられていた。
「湯が沸いたぞ」
「あ、蓮。ありがとう!」
今度はその葉を、予め沸かしておいた4Lのお湯に入れ、中火にしてから10分ほど煮込む。
「こうすると、お湯に色素と匂いが出てくるんだって。因みに葉っぱ400gに対して大体2Lぐらいの水らしいよ」
「へぇ〜」
ピピピピピピ。
キッチンタイマーで10分はかり、時間がきたら火を止めて、紫蘇の葉をざるなどで救い上げる。
「葉が沢山あるから、最初は笊とかでとって、その後に細かい葉っぱを取るため、越すといいらしいよ」
「ふ〜ん」
笊で葉を取り、その後、再び笊で越された液体は綺麗で深い紫色をたたえていた。
今度は、その紫蘇の液体を再び鍋にいれた。それに予め計っておいた砂糖600g、お酢400ccを入れてかき混ぜる。
「砂糖とお酢の分量は好みで変えていいって言ってた。んで、クエン酸入れると疲れたときにもおいしく飲めるって言ってたんだけど・・・」
「なら、レモンを入れるか」
味見をして、砂糖を加えたりレモン果汁を加えたりし、味を調える。
「で、荒熱が取れたらこれをペットボトルとかに移し変えて、冷蔵庫で保管しておく、と」
「何か、真紅って感じね」
「結構、濃い色に仕上がるんだな」
感心して、まだ温かいうちからちょびちょびと味見をし始める少女と手塚。
そんな二人をおいておいて、一人片づけをし始める秋山は、ふとゆで終わった後の紫蘇をビニールにつめようとして手を止めた。
「・・・・・」
「どうしたんだよ蓮?」
「緑色だ・・・」
「え・・・あ、本当だ」
茹で上がった赤紫蘇は、その色素を水に溶かしだしてしまったかのように、見事な緑色になっていた。
そして、荒熱がとれ、それを容器に移し替え、自分達が飲む分だけコップに注いだ。
そのコップに、城戸は買ってきていたサイダーを注ぎいれ、氷を浮かべた。
「わぁ!」
「これは、また・・・」
「すっごい綺麗だろ?」
コップに入った液体は、綺麗な紅い色。
「美味しい」
「美味いな」
「甘いから、蓮はちょっとな」
「Bloody Red・・・と言うところか?」
秋山は、コップの中の色に対して感想を述べた。
「血のような赤・・・か」
「そんなんじゃお店出せないわよ」
メニューを開いて、
『この、血のような赤、お願いします』
『血のような赤ですね、畏まりました』
随分と物騒な会話になってしまう。
「何言ってんだよ蓮!そんなの絶対だめだかんな!!」
「じゃあ、お前ならどうする?」
いきなり振られ、城戸は「う・・・」と、つまり暫し考え始めた。
その様子に、楽しげに見やる秋山。
そんな二人の様子に、また始まった、と紫蘇ジュースを飲みながら肩を竦めるユイと手塚。
「赤・・・赤・・・」
「どうだ城戸?いい名前でも浮かんだか?」
「う、うっさい!今考えてるんだから!!」
「さっさとするんだな」
「ぅ〜・・・・・赤・・・・あ!!」
「何か、いい名前浮かんだの?」
「あれだ!!Noble Scarlet!!!」
「Noble Scarlet・・・」
「高貴なる緋色・・・か。城戸にしては良い名前だな」
「にゃにおう!!」
「いいじゃないか」
「手塚君!」
「じゃあ、明日から紫蘇ジュース〜Noble Scarlet〜を出しましょう!」
こうして新たなメニューがアトリに誕生した。
その夜。
時刻は既に真夜中を指している。秋山は自分のベッドから出ると、足音を立てずに、城戸の傍へと歩み寄った。
因みに手塚は、今日は家に帰るのだと紫蘇ジュースを分けてもらったペットボトル片手に帰っていた。
「Noble Scarlet・・・・」
静かに眠っている城戸の髪を優しく梳き、秋山はその言葉を口にした。
鏡の中。紅い龍を携え戦うライダー。
「まるで、お前だな」
髪を梳きながら、苦笑を浮かべた秋山は身をかがめ、未だ静かに眠っている城戸の額へと、そっと口付けた。
「ん〜・・・・」
「お前の色だ。高貴なる緋色」
終わり。
書き物部屋
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長っ!!
ここまで長く書く予定無かったのですが・・・・っ!!
蓮真サイトと言いながら、余り蓮真要素が足りないように思い、
最後だけ、蓮真入れてみました。
因みにこれに書いたレシピは、そのままご使用できます♪
手順はここに書いたとおりです。
背景は、管理人が作ったものを携帯で激写(?)したものです。
炭酸で割ると、美味いんだこれが♪