事の発端はとある裁判の記事で、城戸が北岡の事務所を訪ねたことから始まった。
「お前、馬鹿か?そんな記事じゃぁ何の事件課は分かっても、何の目的の裁判なのか分からないでしょ?」
「ぅ〜・・・・俺だって・・・」」
「お前はもっと裁判の趣旨について勉強しろ」
「だ、だから・・・こうして来てんじゃんか!」
「・・・・・はぁ〜・・・・」
北岡の口から出てきた溜息。
「それぐらい、自分で分からないのかよ?」
とまぁ、よく見かけるこの光景。
城戸専用のマグカップと、北岡用のカップにコーヒーを入れる用意をしている由良。
聞こえてくる二人の会話に内心ため息をつきながら、苦笑いを浮かべていた。
「よく続くもんだ」
と、一人呟いても見る。
「あれで、恋人同士だなんて・・・」
まったく、世の中不思議なものである。
先程挽いておいたコーヒー豆をサイフォンにセットした。
引き出しからマッチを取り出すと、シュっと音を立てて用意しておいたアルコールランプに点火し、サイフォンを温める、
徐々に水が沸き始め、気圧でお湯が上がりコーヒー豆と混ざり合う。
竹べらを使いゆっくりとかき交ぜる。
(ああ、そういえばお客さんにもらったビスケットがまだ残っていたはずだから、お茶受けにどうだろう?)
火を消して抽出されたコーヒーがゆっくりとフラスコへと降りてくる。
コーヒーの香りが立ち上がり、辺りに良い香りに包まれる。
「さてと・・・」
それを二人のカップへとそそぎ、ふと気付く。
「あれ・・・?」
静かだ。
ふと、覗いてみる。
事務所フロア。
「じゃあさ、ここはどうなってんだ?」
「どれど・・・・・」
城戸の隣に移動していた北岡だったが、城戸が書類の一か所を指さし、それを北岡が覗きこんだ。
すると、先程より密着した姿勢になった。
その上、城戸はダメ押しとばかりに、北岡へと寄りかかった。
「ここ」
城戸が北岡の方へと書類を見せる。
固まる北岡。
見守る由良。
寄りかかる城戸。
「き、城戸君・・・少し、離れないか・・・・;」
「別にいーじゃんかよ」
「あ、いや・・まぁ・・・そうなんだが・・・;」
こーゆー雰囲気に実は滅法弱い北岡。
センセイ頑張って!!
由良がココロの応援を送る中。
「なぁ、北岡さん」
「な、何だよ?」
「俺達ってさ・・・・付き合ってんだよな?」
「そ・・・そーだろう///?」
城戸をちらりと見やった北岡は、恥かしそうに、うなずいた。
耳が赤くなっている。
「だったらさー・・・・」
「な、何よ・・・?」
「キスの一つや二つ、してもいいんじゃねーの?」
普段からの不満と、今少しばかりの意地悪を見せる城戸。
耳と言わず、顔全体的に赤くなった北岡。
攻める側に立つとかなり優勢になるというのに、いざ相手に迫られるととたん奥手になる。
裁判ではそんなことは無いのだが・・・・
あーあ、こりゃだめだ・・・
ここ最近、由良が思ったこと。
―― 北岡は、本気の恋愛はしたことが無い。
だから多分・・・相手から、恋愛として100%の信頼はどう返せばいいのか、分からないのではないだろうか?
詰まる所、恋愛に対してかなりの不器用な人間なのだ。
桃井玲子に対してはかなりスマート―― 北岡的に ――対応していたが・・・
本人が考えるほどは、心の―― 本人の気付かない深層の中で ――本気ではなかったのではないか?
城戸に対しての北岡が・・・本当の北岡なのではないだろうか?
さて・・・どうしたものか。
ふむん、と由良が二人の様子をうかがっていると・・・・
「き、城戸・・・」
「ん?」
「お前・・勉強に来たんじゃないのかよ?」
先生、逃げる気ですね・・・・・
「そう・・だけどさ・・・・」
「だ、だったら、早く片付けた方が・・・・」
「・・・んだよ・・・」
「城戸?」
城戸の暗い声が聞こえてきて、逸らしていた視線を城戸に向けた。
北岡の表情が珍しく分かり易いほど、変わった。
――― しまった。
傷つけてしまった、と。
「・・・分かったよ、さっさと片付けて帰りますよ」
「あ・・いや、そうじゃなくて・・・だな」
北岡にくっついていた城戸はソファーに座り直すと、さっさと裁判記事の内容をノートにまとめ始めた。
あとは短く「ここは?」と、北岡に聞いてくる。
先程とは違い、しどろもどろに城戸の問いに答えていく北岡。
普段であればこうなってしまった場合、城戸はそのまま帰ってしまい、後で北岡が携帯電話へと電話し、謝り倒す。
といった状態なのだが・・・・
しかたない・・・
―――― 助け船を出しますか。
由良は再び苦笑いを浮かべると、まだほかほかの湯気を上げるコーヒーをトレーに乗せ、二人の方へと運んで行った。
「城戸さん、余り根をつめないでコーヒーはいかがですか?」
と、ビスケットも一緒に差し出した。
「・・・由良さん・・・」
「ほら、先生もちゃんと座ってコーヒー飲んで下さい」
「あ、ああ・・・」
城戸は捨てられた子犬のような表情で由良をみた。
その城戸に対して、由良は安心させるよう小さく頷いて見せた。
北岡は出されたコーヒーを一先ず飲んで、心を落ち着かせようとしているようだ。
「城戸さん、夕飯は何かリクエストは有りますか?」
「え・・・?」
「どうせなら、夕飯、食べていきませんか?」
「え・・・えーっと・・・・」
「確か、今日はもうこのままアトリへと帰るんですよね?」
城戸が最初に来た時に、今日の予定を語っていたのを由良は聞いていた。
「あ・・・えぇ・・・そうですけど・・・」
ちらりと北岡へ向かった視線。
由良も北岡をみやり、
「先生は何か食べたいものは有りますか?」
「・・・・・・・・・餃子」
暫し眉をしかめた北岡は、それだけ告げた。
城戸が目を見開く。
その返答に由良は城戸の肩を叩いた。
「なら、俺は助手に回らなくちゃいけませんね」
なぜなら、得意料理を餃子とする人物は、ここには一人しかいないのだから。
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北岡×城戸を目指したんですが・・・・
初めてのトライにかなり悪戦苦闘中・・・・
素直じゃない北岡に、へそを曲げる城戸。
子供の恋の様な二人に助け船を出してくれる由良。
そんな関係が見たいー読みたいー
誰かプリーズ。(他力本願)