KISS
蓮真ではなく、海真です。
其れでもいいと」おっしゃる方は、どうぞ。
城戸真司です。
23歳です。
ジャーナリストの卵です。
突然ですが、手塚君はキス魔です。
それは、別に何か特別なことがあったわけでもなく、誕生日等といったイベントがあったわけでもない。
アトリの休日。
OREジャーナルの仕事を終えた城戸は、帰りコンビニへとより、新商品のフルーツヨーグルトを一つ、買って帰った。
アトリへと帰り、夕飯を食べ、風呂上りに冷蔵庫にしまっておいたヨーグルトを冷蔵庫から出すと、その足で自室の居候部屋へと向かった。
秋山は、いない。
多分、病院にいる彼女のもとだろう。
だから、今日は手塚と二人。
なので、スプーンも二つ。
手塚は好きかどうかわからないが、せっかくなので二人で食べようと思ったのだ。
「手塚君」
部屋の扉を開け、ベッドに腰を掛け何やらコインをいじっている手塚へと声をかける。
手塚の視線は城戸へと向けられ、次に持っていたヨーグルト、2つのスプーンへと移る。
「おいしそうだな」
「だろ?」
やわらかくほほ笑む手塚の表情に、城戸も嬉しそうに笑い、手塚の座っている反対側のベッドへと腰かけた。
ぺりぺりぺり・・・
手塚に片方のスプーンを手渡し、容器のアルミ蓋をはがす。
ヨーグルトの酸味の匂いの中にほのかに香る果実の香り。
まずは自分で一掬いして、口に運ぶ。
想像していたようにさっぱりとしていて、少し酸味の効いた甘味が口の中に広がっていく。
正直とてもおいしい。
城戸は、手塚のほうへと、ヨーグルトのカップを差し出した。
手塚は、そのカップを受け取ると、城戸と同じように一掬いし口に運ぶ。
あまり変わらない表情だったが、その眼は先程よりも柔らかくなったのが見て取れた。
「結構うまい」
「ああ。果物の香りがとてもいいな」
お互い順番に掬い、最後は城戸が買ってきたのだからと、手塚は城戸に譲るが、
「順番に食ってたんだから、手塚君の番だろ?」
お互い変に強情っぱりな部分を持ち合わせている。
先に動いたのは、手塚。
「え・・・・・・・・」
手塚は残った最後の一口を口に運ぶと、カップを持っていた城戸の手首を掴み、強く自分の方へと引いた。
まったく油断していた城戸は、手塚が引っ張るままに手塚のほうへとバランスを崩す。
思わず、反射的に掴まれた方とは逆の手を、手塚の腰かけているベッドへとついてバランスを取る。
「っぶねぇ〜・・・・・てづっ・・・」
派手に転ぶこともなく終わり、安堵した城戸は手塚へと抗議を述べようと顔をあげると、
未だに掴まれている腕をその格好のまま固定され、手塚の顔がすぐそこにあった。
考えや声を発する前に、己の唇に温かく柔らかな感触が押し当てられた。
そして、口内に広がる甘みと鼻を抜ける果物の香り。
「ん・・・・」
そのままゆっくりと離れる手塚の顔には悪戯を仕掛けた子供のような笑みと、何時もの柔らかさを混ぜた笑みがあった。
何も言えず、せっかく反射的にベッドへと着いた手さえもズルズルと滑り落ち、バランスを崩ししまう。
何が起こったのだろう?
城戸の頭の中ではぐるぐると何かが音をたてて回っていた。
そんな城戸の混乱した表情を見てとった手塚はどこか楽しげな嬉しげな眼をすると、再び城戸の唇に己の唇を押しあてた。
今度は、先ほどよりも強く、しっかりと。
顔を離すと、今度は茹でダコのような赤い顔の城戸がいた。
「・・・・・・ッ!」
酸欠の魚のように口をパクパクと開く。
最後のとどめと言わんばかりに、その赤い頬に音を立てて唇を落とすと、手塚は掴んでいた城戸の腕をゆっくりと解放し、その手を床に置いてやった。
「明日はゴミの日だから、これは下のゴミ袋へと捨ててくる」
アトリでは明日のごみ出しように、今日の夜にゴミを集めていた。
扉を開いて廊下へ出る。
出たとたんに、城戸の声にならない悲鳴が聞こえた気がして、手塚は今度こそとても幸せそうに微笑んだのだった。
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