「蓮の泥棒ーーー!!!」




泥棒。





それはある日のアトリ。
朝のピークが終わり、お昼のピークになるまで各自順番で休憩を入れるよう言われていた。
そのため、秋山は上の部屋で休んでいる城戸のもとへ休憩の交代を言いに行ったのだが・・・・・

「どうしたの蓮?」
「どうしたんだ秋山?」

言いに行ったのだが、何故だか城戸は秋山の顔を見た瞬間に泥棒呼ばわりで大声で叫んだのだ。
勿論、秋山も理由は分からなかった。

「・・・・知るか」

いきなり大好きな人から突きつけられた泥棒という言葉。
ショックを受けるなと言う方がまず無理な話。
秋山は不貞腐れそのままベッドにもぐりこんでしまった。


所かわって一階の店のフロアでは。

「・・・・・・」

落ち込んでいる人物一人。
店の隅っこからキノコが生えてくる日も時間の問題と思われるほどじめついている。

「真司君、一体なにがあったの?」
「秋山に何かされたのか?」

ユイと手塚が話しかけても酷く落ち込んでいる城戸は、ただ首を横に振るだけで何も話さなかった。
仕方なく、城戸をアトリの2階にあるリビング兼ダイニングに行ってもらい、少女と手塚の2人で店の切り盛りをすることに。

「一体何があったんだろう?」
「そうだな・・・・占ってみるか・・・」

少女の言葉に片付けを中断して、手塚は何時もの七つ道具を取り出した。

「どうやって占うの?蓮と真司君の喧嘩の理由?それとも、仲直りの方法?」
「・・・そうだな・・・・仲直りの方法の方が実質的か」

少女も片づけていた手を一旦休め、手塚の前に座った。
そして、何枚かのカードが取り出され、テーブルに並べられていく。
そして、複雑な順番でカードが切られ、除外されていく。

結果。

「どう?分かった?」
「・・・・・素直になること・・・だそうだ」
「・・・・まんまだね」
「まんまだな」

仕方なく再び二人で片づけを再開。
そこに、2階から城戸が降りてきた。

「ごめん、二人とも。俺も手伝うからさ」
「もう、いいの?」
「城戸・・・」
「何?」
「素直に謝って来い」

手伝う前に謝って来いと手塚に言われ、少しうっと詰まった城戸だが小さく頷くとそのまま降りてきた階段を上っていった。

「大丈夫なの?」
「大丈夫だろう」




こちら城戸達の部屋。
今は手塚も居候の身なので、3人で使っている。
秋山は自分の部屋で毛布を被って今も不貞腐れていた。

キィィ・・・・

その部屋の中、扉の開く音とともに一人の足音が聞こえる。
その足音だけで秋山には誰が入ってきたのか分かった。

「蓮・・・・」

しっかりと閉められたカーテンの向こう側から聞こえてくる声。
だが、返事をする気にはなれない。

「蓮・・・ゴメン・・・・」

少し涙の混ざった声。
秋山は小さく溜息を吐いて、仕方なく起き上がると、カーテンを開いた。
其処にはやはり予想していた通りに目に涙をため、俯いていた城戸がいた。

「・・・・・・」
「・・・・ゴメン・・・・」
「何故だ・・・・?」
「ぇ・・?」
「・・・理由だ」

泥棒の理由。
秋山はこの所、別に城戸の食べ物を冷蔵庫から失敬した覚えもなければ、城戸から何か取った覚えもない。
なのに、城戸は秋山を泥棒と呼んだ。

「・・・その・・・・」

城戸はぽつぽつと語りだした。


朝の一番忙しい時間を終え、城戸は一番に休憩を貰うと部屋に上がりラジオをつけた。
丁度この時間帯に好きな番組の企画がやっていたのだ。
何時もはOREジャーナルの仕事やら何やらで聞けないことが多いのだが久々に聞けると内心喜んでいた。
そして、その好きな企画も終わりそろそろ休憩時間も終わりというとき、ラジオからはCMが流れていた。
別段気にせずにそれを聞いていると、

『俺の心を奪ったお前は大罪だ!!!』

なんのCMなのかは聞いていなかったが、その言葉だけは印象に残った。
そして、そのCMを聞いた直後に秋山が部屋に入ってきたのだ。
その姿をしっかりと見てしまった城戸は、今の言葉が一瞬にして頭の中で反響した。
そんなこんなで、

『蓮の泥棒ーーー!!!』

と、思わず叫んでしまったのだった。



「・・・・・」
「本当にごめんなさい・・・・・・」

思わず叫んでしまった言葉に、城戸も酷く傷ついてしまったのだ。
そして、秋山は安心するとともに内心喜んでもいた。

「蓮・・・ごめ――」
「もういい、分かった」

そういうと、城戸の頭を優しくなでた。







「ねぇ、手塚さん」
「・・・何だユイちゃん?」
「私達って損な役回りだと思わない?」
「奇遇だな。俺も今そう思っていたところだ」

部屋の扉の隙間から覗いていた二人は、大きな溜息を吐くと足音を業と大きく立てて下 に戻っていった。

そして、

「「一生やってろ馬鹿ップル!!!」」

アトリに再び叫び声が響き渡った。







書き物部屋




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アンケートで、『砂糖の入ったバケツをひっくり返したような甘いお話』、
という科目を入れたのですが・・・・・・・・・・・入ってたよ票が・・・・・;。
すみません;自分でアンケート作っておきながら、甘甘なお話しって、
どういうものなんだろうかとすっごく悩んでおりました;
そんな折、ラジオから流れた例のセリフ。
本当はBL小説のCMかなんかで流れたんですが、
これを聴いた瞬間、「これだ!!」とひらめいてしまいました。
「こんなの甘くない!!」と、お思いの方、お許し下さい!!!!