逢いたかった。
寒い北風が頬を掠める。
手塚は日が暮れるのを確認するとしばらく大通りの歩道を見やった。
そして手元のコインを三枚順番に弾いた。
出会う ――― 表
記憶 ――― 裏
思い出す・・・・――――― 裏
こうして占うことは何度目だろうか。
その度に思い出すこともないという結果となる。
気がつかずに小さな溜息を吐くと、息が白く霞んだ。
「あのー、占い師・・・ですか?」
「・・・」
ふと頭上からかかってきた懐かしい声に、ゆっくりと顔を上げる。
街燈をバックに亜麻色の髪が透けて見えた。
「もし、占いやってんだったら・・・ちょっと取材させて欲しいんすけど・・・・」
水色のジャケット。
「あのー・・・聞こえてます?」
困惑した表情。
酷く、胸を掻き毟られる。
「あ、冷やかしとかじゃないから!!!」
あまりにもこちらが何も言わないので、冷やかし客だと勘違いされたかと思ったらしい。
「携帯電話の情報会社」
「え?」
コインを一枚投げた。
「まだ、入ってから・・・そう経ってはないな」
「あ・・・は、はい」
もう一枚投げた。
「自称ジャーナリストの卵」
「あ、あぁああ当たってるぅう!!!」
三枚目のコインも投げた。
「お願いします!!!ぜひ取材させてください!!!!」
「構わないが・・・」
こうして始まった新しい時間。
三回目の取材となる日。
城戸はお昼頃の温かい日にやってきた。
暖かいと言えど、季節は冬。
昼の日差しが当たる中、手塚は暖かい缶コーヒーを飲んでいた。
「お待たせ!!」
「来たか」
やってきた城戸は、さっそくと言わんばかりにノートをペンを取り出した。
「今、大丈夫?」
「大丈夫だ」
スタンバイOKの状態にしてから、こちらに確認を取る様子に笑みが零れる。
何も変わらない城戸。
「どうかした、手塚君?」
「いや・・・何でもない」
変わらないことが、これ程痛いのか。
「さて、今日は何だ?」
「今日は・・・お客は一日平均何人か、これで本当に食っていけるのか、いつまでやっていきたいか、他にやってみたいことは何か?」
ふーむ・・・
少し考えて。
「そうだな・・・一日大体3,4人。多くて6,7人。生活できなくはないが、正直辛いというのが現状だ。いつまでやっていきたいか・・・と言われても、
多分、自然と年と共にこの体は動かなくなるだろう。でも、そうなったとしても何らかの形で関わりたいな。他にやってみたいことか・・・・・」
手塚は、ふと城戸を見やった。
「ん?」
「・・・・いや」
ゆるく首を振る。
「この仕事をやりたいからやってるのであって、他のことはいまいち分からないな」
と、しめた。
「成程・・・・そうだよなぁ、俺も今の仕事をやりたいから今の会社に入ったんだし」
「まぁ、世の中にはやりたいことと仕事とは区切って別々にやる、という人もいるから一概に、仕事=やりたいことと区切るのも、違うのかもしれないな」
城戸は「そうだねー」と呟くと、手塚の横に座った。
「でも、俺は正直占いですべてを決めるのもどうかと思うんだよ」
『運命って言うけど、それって決まってる未来ってことだろ?俺は信じられない』
重なってノイズを放つ記憶。
「・・・ぁ・・・・」
城戸はそのまま続ける。
「多分未来って言うのは未知数で、色んな道に枝分かれしてるんだと思う」
―――― 耳を塞ぐ
「その道って多分良いこと悪いことどれを選んでも着いてくると思う。まぁ、確かに選んじゃいけない道っていうのもあるかもしれないけど」
―――― それ以上・・・
「だから、手塚君には悪いけど、俺は占いって信じられないんだよ」
―――― 言わないでくれ。
「でもさ・・・そうやって占って相手の心を救ってあげるってーのも、凄い仕事だよなぁ〜」
以前には、無かった言葉。
手塚は思わず城戸を見やった。
「ん?どうかした?」
首をかしげる城戸に思わず手を伸ばす。
「手塚君?」
触れた頬は、冷たい空気に晒されたためか、少し冷たくなっていた。
「どうし・・・・・ッ!?」
――――――― 運命なんか、変わってしまえ。
唇を重ね、城戸の言葉を塞いだ。
『手塚君!!』
―――― 城戸
『・・・手塚ぁ!!!』
―――― 城戸・・・
――――― どうか・・・・
運命よ、変わってくれ。
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手塚祭第4弾。
えー手塚に記憶があって、城戸に記憶がないバージョン。
城戸より、手塚の方が女々しいような気もしなくも・・・・
うん、どっちもどっちだ。
以前とは違う隙間を見つけた手塚。
どうか、その隙間が運命を変えてくれますように。