蓮真ではなく海←真です。
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会いたかった。





カウンター



急に冷えてきた今日この頃。
こうなると、足を止める客も段々と減ってきてしまう。
その前に、どこかいい場所を確保しておかなければならない。
狙い目は、暖かく人の通りが緩やかな場所。
そう考えながら手塚海之(24)は、吐く息が白くならないかと、肺にため込んだ息を吐いてみる。
しかしながら、湿度の問題か、はたまたそこまで温度が下がっていなかったためか、予想に反して息は白くはなっていなかった。
と、そこに人影が差した。

「よ、手塚君」
「ああ、真司か」

ここ最近、取材とやらでここを訪れるようになった自称ジャーナリストの卵こと城戸真司である。
城戸が初めて訪れる日、訪問客が来るのはあらかじめ占いで分かっていたのだが、正直、それがジャーナリストで、占いに関する記事を書きたいから、
取材させてはくれないかといいう内容だったのは少しばかり驚いた。
そこまでは占っていなかったのだ。
その後、何回かの交流を得て、今は旧知の仲とまではいかないが、かなり親しげな関係にはなった。
しかし・・・

「どうかしたのか?」
「うん・・・何でもねーや」

会った最初は苗字で呼んでいたが、親しくなってからは名前で呼んでいる。
しかし、城戸は名前で呼ぶたびに、何処か痛そうな悲しそうに顔を歪ませた。
多分名前を呼ぶ行為に対してそういう表情を取るのだろうが、何故なのだろう、原因がわからない。
確かに名前を呼ぶことに了承は得てなかったものの、やめてくれとも言われてないのだ。
そのため、手塚は現在も城戸真司を名前で呼んでいた。
何か、嫌な記憶でも持っているのだろうか?
確かにそういった人間はあまり珍しくない。
中には、名前を呼ばずに苗字で呼んでほしいと初っ端から言う人間もいる。
しかし、城戸自身は苗字で呼んでほしいやら、名前は好きじゃない等とは言っていない。
だから手塚は名前を呼ぶ。
嫌だというなら直ぐに変更するつもりではいる。

「で、今日は何の記事だ?」
「えーっと・・・」

手塚が質問すると、城戸は手元に持っていた手帳を開き、指で辿って行く。
その体制のまましゃがみ込み、下にあったブロックに腰を落とし、手塚と同じ視線になる。

「今日は・・・お客さんは一日平均、何人か、これで本当に食っていけるのか、いつまでやっていきたいか、他にやってみたいことは何か・・・・かな」
「客は一日3,4人多くて6,7人。月々の収益で何とか食べてはいけるが、正直辛いのが現状だ。出来れば体が動かなくなっても何らかの形で関わりたい と考えているし、他の仕事というのも・・・考えたことがないとは言えないが、正直ピンと来ないから分からないな」

城戸の質問に、立て続けに答えを述べる手塚。
城戸は、予め用意しておいたレコーダーに録音していく。

「真司は?」
「え?」
「何かやってみたい事とかはないのか?」

ふと、逆に質問してみる。
手塚からの質問に、しばらく面食らうが城戸は空を仰いで考える。

「んー・・・正直、今の仕事をやりたくてこの会社に入ったわけだし・・・他にやってみたいってのは・・・ないかな」
「そうか」
「ん・・・・あ、でも」
「?」

頷いた後、繋ぎを入れる城戸に、手塚は首をかしげた。



「会いたい・・・・奴ならいるよ・・・・」



「会いたい奴?」
「ん・・・・」

頷く城戸に、手塚は特に考えず、手に持っていたコインを一枚弾いた。
それは宙を回り、再び手塚の手へと戻ってきた。

「・・・近くにいる」
「ん」
「知ってるのか?」

会いたい奴というから、てっきり離れている場所にいるのかと考えていたが、城戸の様子だと、近くにいるようだ。

「近くにはいるんだ、でも・・・違う」
「違う?」

手塚の返しに小さく唇を噛みながら、城戸は頷いた。
何だ、会いたい奴とは事故か何かで別人にでもなってしまっているのか?

「違うとは、どういうことだ?」
「そのまんまだよ」

手塚の質問に、城戸はやはり先ほどの顔で首を横に振ると、俯いてしまった。

「真司」
「ッ!!」

名前を呼んで、俯いた顔を上げさせようとしたのだが、呼んだとたん、城戸の目からは涙が溢れ出した。

「真司!?」
「ち、違う・・・違う」

どうしたというのだ?
自分は何か間違ったのだろうか?

「どうしたんだ?」

優しく落ち着かせるように声をかけるが、涙を零れさせたまま、城戸は緩く首を振るばかり。

「違う・・・」

そして、壊れた玩具のように「違う」とだけ言う。
違うというのは何に掛かっているのだろう?
先ほどまでの自分の会話を思い返してみる。

「真司・・・・?」
「違う・・違う・・・」

俯いたまま首を振る。
やはり・・・
手塚は心の中で朧げながら納得した。
城戸真司は名前を呼ばれることに否定をしている。
ならば・・・

「・・・・・城戸」

そう呼んだとたん、城戸は驚いた表情と共に顔を上げた。

「城戸」

もう一度そう呼ぶ。

「手塚・・・・てづ・・・・か・・ぁあ・・・」

城戸の目からは、先程よりも大粒の涙が幾筋も零れ落ちる。
幼子の泣き崩れるようなその表情に、手塚はそのまま城戸を自分の方に引きよせ、抱きしめた。

「城戸・・・」
「ぅうあ・・・あぁあ・・・・」

声にならない声で何かを伝えようとする城戸の頭を撫でる。
そのまま城戸が落ち着くまでずっと撫で続ける。
道行く人の視線があるが、正直、そんなことに構っていられるほどの余裕もない。

「手塚ぁ・・・手づ・・・かっ・・・っく・・・ひっ・・・」

今猶、自分の胸の中で泣き続ける城戸は、何に泣いているのだろう?

「城戸・・・何に泣いているんだ?」

そう、問いかけるが、顔を上げた城戸は、再び表情を歪め涙を零した。

「てづッ・・・あぅう・・・・ひッ・・ぅぅぁあ・・・・」











      思い出して。



      あの時のことを。



      辛かったけど、幸せでもあったあの頃を。

 


           お願いだから、なぁ・・・・・・・手塚。
 

















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本当は、手塚さんに思い出してもらおうかと思ったんですが・・・
なんか文章がしっくりこなかったので、これで切ります。
  
  ちっちゃな手塚祭第2弾。




   ライダーバトルがあった時間軸。
 

   恋人として一時のほんの僅かな瞬間を一緒に過ごした手塚と城戸。


   新しい時間軸の中で城戸だけが思い出してしまった記憶の渦。